裁判所の判断は検察とは全く異なった
この記事↓の続きです。
【裁判所と検察の判断内容の比較】
ブログ記事『「美味しんぼ」叩きの3ババトリオご紹介』に対して、名誉毀損が成立するかどうかの判断が裁判所と検察で大きく異なりました。「事実摘示型」の名誉毀損の構成となるので、両者の判断内容をそのまま比較することができます。東京地裁の判決文の本件記載1-①が検察で名誉毀損罪が成立するかどうか検討された部分になります。
1.「3ババトリオが安価な線量バッジを高く売りつけ暴利を得た」と読めるか?
<裁判所の判断>
「表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者(閲覧者)の普通の注意と読み方(閲覧の仕方)とを基準として判断すべきであると解されるところ(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),前記(1)アによれば,本件記載1―①の前には,原告及び他の2人のツイッタ一の投稿記事の画像が掲載されていることが認められることから,一般の読者の普通の注意と読み方からみれば,本件記載1ー①の「3ババ(ばば) トリオ」が上記の原告及び他の2人を指すと読むことは明らかであって,また,前記(1)アによれば,本件投稿1による記事は,放射線の線量計を話題にしていると認められるから,「子供につけさせ,あるく汚染データにする」とは,一般の読者の普通の注意と読み方からみれば,放射線の線量計を子供につけさせて,放射線量のデータを測定することを指していると読むのが自然である。
そうすると,本件記載1一①は,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,原告らが,東日本大震災の後, 1個3000円の価値しかない放射線の線量計を2万円で30万個売り, 1個につき1万7000円の利益を得ている事実と,子供に放射線の線量計をつけさせて,放射線量のデータを測定しているという事実を摘示するものであるといえるのであって,このような事実の摘示は,原告が,子どもの健康被害のおそれよりも放射線量に関する情報収集を優先し,不当な利益を得ている人物であるとの印象を与えることから,本件記載1一①は,原告の社会的評価を低下させるものであるといわなければならない。」
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<検察の判断>
「告訴事実を構成する段落とその前後の段落との間に空白行があることから,空白行の前後でいったん文章は切れている。したがって,第2段落を構成する告訴事実②の部分は,その前段の「3ババトリオ」という記載と連なっているとは必ずしも評価できない。」
2. 記事中の「リンク先の記事」をどのように考慮するか?
<裁判所の判断>
「被告は,本件投稿1の本件記載1以外の記載やリンク先の記事を参照すれば,線量計を配布しているのは福島県やその市町村であることは明らかであるから,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,本件記載1の記載から原告が線量計を売って利益を得ていると読み取ることはできないと主張する。
しかし,前記アでみたとおり,本件記載1一①の「3ババ(ばば) トリオ」に原告が含まれていると読まれることは明らかであるところ,前記(1)アでみたところによれば,本件記載1―①においては, 「3ババ(ばば) トリオ」の行動を非難する記載が繰り返されていることが認められ,これによれば,本件記載1一①も,一般の読者の普通の注意と読み方からみれば,原告らの行動を非難した記載であると読まれるものと解される。そして,前記(1)アでみたとり,被告が主張する本件記載1一①のすぐ後にあるリンク先の記事(乙1) には,福島県やその市町村が放射線の線量計を配布した旨の記載があることが認められるが,その記載の内容は,本件記載1一①の内容と必ずしも矛盾するとまでいうことはできないし,そもそも,本件投稿1を見た者が,その下のリンク先の記事まで必ず読むとまでいうことはできないのであって,このようなことから考えると,上記のリンクがあることを考慮しても,本件記載1―①が一般の読者の普通の注意と読み方によれば原告の社会的評価を低下させるものであるという前記(1)アの認定判断を覆すことにはならないのであって,被告の上記の主張を採用することはできない。」
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<検察の判断>
「このようなブログの前後の記載や, リンク先の記載を総合的に判断すれば,被告訴人は,線量バッジの製造元が千代田テクノルという会社であり,これを福島県が配布するという前提で告訴事実第2の記載をしていると理解するのが合理的である。したがって,②の部分の意味につき,告訴人がガラスバッジを売って儲けるという趣旨であると理解するのは困難である。」
視覚的に比較し易いように表にしたものを以下に示します。
(表をクリックすると拡大表示されます)
※裁判所は、「前後の段落との間に空白行があるから意味の繋がりはない」等のナンセンスな判断はしませんでした。さらに、当該記事中のリンク先の記事は必ずしも読まれることのない「参考」であり、1. の認定判断は覆らないとしました。
裁判所の方が「記事の読み方」を正しく判断していると考えられ、検察はこのブログ記事で「きのこ組」を起訴して十分に公判に耐えられたであろうと思えます。
なぜ検察は、「悪質性が全くない」と判断した上で私のブログ記事を名誉毀損が成立するとして私を「起訴猶予」にし、一方で担当検事が十分悪質性を認めており裁判所が判断を示した通り(実質的に刑事でも)名誉毀損が成立している「きのこ組」のブログ記事を「嫌疑不十分」として事件処理をしたのでしょうか?
かなり公平性を欠いていますし、
『続・「名誉毀損で刑事告訴しました」-検察が思ったより酷かった(その3)-』
http://warbler.hatenablog.com/entry/2018/11/20/113855
で明かしましたが、そもそも担当検事は「きのこ組」が起訴に値すると考えていました。
「きのこ組」に前歴をつけないように「起訴猶予」にもならない様に取り計らい、逆に私に理不尽な前歴をつけて彼女の報復を成就させた処分の裏で、検察内部でどういう力が働いていたのかは分かりませんが、検察ではこうした理不尽で不公平な事件処理が、水面下で横行しているのではないかと懸念されます。担当検事も「ごね得は実際によくある」と証言していました。(録音あり)
「不起訴処分」にすることで公にならずに済んでいるので、これまでこうした事例はほとんど発覚してこなかったのではないかと思います。これまで泣き寝入りしてきた人達がかなりいるのではないでしょうか。日本では刑事裁判の有罪率が高いこともあり、検察が実質的に「有罪・無罪」を決めている状況があります。検察の不当な処分を覆せる「頼みの綱」であるはずの検察審査会も、ちゃんと機能していませんでした。
※私もジャーナリストの端くれとして、ネット中傷問題を考える上で、実際に刑事告訴を体験してみようとやってみたのですが、なんと一発目でこういう理不尽な体験をしました。私の「くじ運」が良いのか悪いのか分かりませんが、とても貴重な経験ができましたので、これを皆さんと情報共有して、問題提起をしたいと思います。
【最後に】
警察への相談の段階からずっとサポートして頂いた清水陽平弁護士、
刑事告訴をされてから弁護人として加わって下さった日高義允弁護士、
民事裁判から代理人弁護士として加わって下さった山田悠一郎弁護士、
各弁護士のご尽力に心より感謝いたします。m(_ _)m
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