公文書情報開示:研究不正調査で解析業者に支払った金額は原則として開示される

 京都大学iPS研究所で起きた研究不正事件に関して、調査報告書と関係資料の情報開示請求をしたところ、調査報告書等は(最小限の黒塗りで)ほぼ全文が開示されましたが、解析業者に支払った金額は不開示とされました。

 京都大学は適切な調査をしたと認識していますが、「解析業者に支払った金額は不開示にできる」という前例を作ってしまうと、将来的に調査内容に疑いがあるケースが起きた場合にも情報が伏せられてしまいかねないので、異議申立をしました。

 「情報公開・個人情報保護審査会」(総務省)による審議の結果、「開示すべき」と判断され、それを踏まえて京都大学は非開示の決定を取り消し、開示する決定がされました。

・情報公開・個人情報保護審査会 答申書

http://www.soumu.go.jp/main_content/000596636.pdf

 

※解析業者名も併せて開示を求めましたが、こちらは関係者による逆恨みによる報復が危惧されるとして不開示が適切と判断されました。

 

<金額が開示された文書>

f:id:warbler:20190429172101p:plain

f:id:warbler:20190429172121p:plain

 

 

類似の情報開示請求をされる場合の参考になると思いますので、提出した「異議申立書」と「意見書」の「解析業者に支払った金額」に関する主張書面を紹介します。

 

不開示とされた金額について

大学側の不開示理由

 「発注書」又は「請求書」に記載されている見積又は契約に関する金額情報は,原価や価格設定などの法人の競争力や能力,営業戦略上のノウハウに基づいて設定された金額を基礎とするものであり,公にすることにより,当該法人の競争上の地位,その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当するため,不開示とする。

 

大学に提出した「異議申立書」

不開示決定に対する異議

 民間企業間の取引ではなく、国立大学法人から委託業者に支払われた料金は税金から出されており、適切な金額であったかどうかを確認するために情報公開が必要である。

 前例として、国立大学法人岡山大学は、同様に法第5条第2号イを理由として委託業者に支払った金額を一旦不開示としたが、税金の使途についての説明責任を果たすため,開示することを決定した。

 

情報公開・個人情報保護審査会に提出した「意見書」

第1 本件情報は、非開示情報(法5条2号イ、ロ、4号)に当たらないこと
契約金額を開示しても法人の正当な利益を害する客観的おそれがないこと(法5条2号イ)
⑴ 総論(法5条2号イの解釈)
 最高裁平成13年11月27日判決は、栃木県公文書の開示に関する条例に関し、「『法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人に不利益を与えることが明らかであると認められるもの』とは、単に当該情報が『通常他人に知られたくない』というだけでは足りず、当該情報が開示されることによって当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されることを要すると解すべきあり、また、そのことが客観的に明らかでなければならないものと解される。」と判示している。
 これを受けて、名古屋地裁平成13年12月13日判決は、行政機関情報公開法上の法人情報の該当性についても、「非開示事由としての情報は、主観的に他人に知られたくない情報であるというだけでは足りず、当該情報を開示することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが客観的に認められる場合を指すと解すべきである」と判示している。
 したがって、同号の法人情報に該当するためには、法人の競争上の地位その他の正当な利益を害する客観的おそれが認められなければならない。
 以下、これを前提に処分庁の主張をまとめた上で、反論する。

 

⑵ 処分庁の主張
 処分庁は、フォレンジック調査を業務とする企業が少ないこと、別案件で、データファイル復元・解析の概要が開示済みであることからすると、契約金額を公開するのみで、同種の調査業務に対する受注金額が類推され、フォレンジック調査市場の相場形成に影響を及ぼすとし、これがひいては、当該法人の営業活動に不利益を生じさせる結果となるから、法5条2号イに該当すると主張する。

 

⑶ 単に契約金額を開示したからといって、当該法人の同種の調査業務の受注金額が類推されるものではないこと
 しかしながら、処分庁の主張を前提としても、別案件で開示済みであるのは、飽くまでも、データファイル復元・解析の「概要」にすぎず、開示された「京都大学における研究活動上の不正行為に係る調査結果について」に記載のデータファイル復元・解析の概要(14ベージの最終段落、資料4)からは、「提出前に削除されたフォルダの存在を調べる」「Web検索の履歴を調べる」「削除されたフォルダに存在したファイルを復元する」という主に3つの作業を行ったことしか分からない。委託した業者の技術レベルが分かる「消去フォルダ」を探し出した詳細な解析方法や「ファイル復元」の具体的な方法までは開示されていない上に、「Web検索の履歴」が消去されていた場合は「消去された履歴を探し出す」作業も必要になるが、「Web検索の履歴」がそのまま残っていたのかどうかも明かされておらず、作業範囲が不明である。さらに、複数の手法が組み合わされているため、契約金額が開示されても手法別の調査費用(単価)を知ることはできない。
 そうであるとすると、処分庁自身が主張しているとおり、フォレンジック調査は極めて専門性が高いものであり、その調査手法(技術レベル)や作業範囲、手法の組み合わせいかんによって受注金額は大きく変わるものであるから、単に契約金額を開示したからといって、当該法人の同種の調査業務の受注金額が類推されるおそれはなく、行政庁の主張はその前提を欠く。具体的で詳細な調査・解析・復元方法と作業範囲が明らかにならない限り、別件の調査業務と本件の調査業務が「同種」か否か、費用として同程度の金額となるかが判別できないからである。

 

⑷ 仮に受注金額が類推されても、営業上の秘密やノウハウまで明らかになるものではないこと
 また、仮に同種の調査業務に対する受注金額が類推され、それが調査市場の相場形成に影響を及ぼすとしても、そのことをもって、当然に法人の正当な利益を害するものとはいえない。
 すなわち、国立大学法人などの公的機関との取引においては、行政の透明性等の観点から、価格等の契約内容が公開されるのが原則であるから、単に契約金額が公開され、自由経済における相場形成に影響が及ぶとしても、そのことをもって、当該法人の正当な利益が害されるものとはいえない。
 この点に関し、奈良地裁平成10年1月26日判決は、「一般の経済的取引における契約内容の開示は、その内容がどのようなものであっても契約当事者にとって必ずしも望ましいことではなく、競業する他の業者への影響のみならず、将来の取引に何らかの影響があることは当然に予想することができる。しかしながら、地方公共団体と契約を締結する法人等は、行政の透明性等の要請から、民間と契約する場合とは異なる制約を甘受せざるを得ないものである。すなわち、地方自治法は、地方公共団体の締結する契約については、その価格等の公正さを担保するため、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、随意契約等これ以外の方法による契約の締結を例外的なものとしているところ(二三四条一項、二項)、前記本件条例の趣旨・目的に照らすと、一般競争入札以外の方法による契約についても、料金部分を含むその契約内容等について、公開することを原則としていると考えられる。したがって、地方公共団体と契約を締結する法人等において、契約内容の開示により当該法人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるとするためには、一般の経済的取引における契約内容の開示と異なり、当該開示により、原価、価格ロジック、価格体系等の営業上の秘密やノウハウが明らかになるなどの事情が必要であると解される。」と的確に判示し、料金部分を開示しても、当該料金を設定するに至った原価、価格ロジック、価格体系等の営業上の秘密やノウハウが明らかになるとは認め難いとして、正当な利益が損なわれるとはいえないとしている。
 本件における処分庁も、国立大学法人であって、原則として一般競争入札等による契約を行うものとされており(資料5)、処分庁自身が、契約事務取扱規則において、一般競争入札を原則とし、随意契約によることができる場合を例外的に定めている(資料6)のであるから、上記判示の趣旨は同様に妥当する。
 そして、本件において、仮にその契約金額が明らかになったとしても、その原価、価格ロジック、価格体系等の営業上の秘密やロジック、換言すれば、どのようにしてそのような価格設定が可能となったかに関する当該法人の秘密が明らかになるものではない。さらに言えば、本件においては、現段階で、当該法人名すら明らかになっていないのであるから、仮に契約金額が明らかになったとしても、当該法人の秘密が明らかになる余地はなく、当該法人の正当な利益を害するものではないことは一層明らかである。

 

⑸ 専門性が高い分野においても、上記判断は変わらないこと
 さらに、このことは、フォレンジック調査の専門性が高く、限定された市場、競争環境であるとしても何ら変わるところではない。
例えば、同じく専門性が高く、限定された市場、競争環境である弁護士への報酬費用について、法人情報に当たるかが争われた事例において、相場形成に影響を及ぼすことを理由に非公開事由に当たるとされた例は一例もない。

 非公開事由に当たるとした京都地裁平成7年10月13日判決は、飽くまでも、弁護士の報酬額は、依頼者によって異なりうることから、これが明らかになると、「他の依頼者が、報酬額が異なることなどを理由に当該弁護士との信頼関係を損ねるなど、当該弁護士にとって、その事業活動が害されるおそれがあるものと認められる」として、非公開事由に当たるとしたものであり、他の弁護士との競争関係上の利益を正当な利益として認めたものではない。
 また、大阪地裁平成9年10月22日判決は、「地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、予算の適正な執行という点からも、日本弁護士連合及び各弁護士会が定めた報酬規定による基本報酬額や当該事件処理により確保した経済的利益の価額により、一定の基準に基づいてできる限り客観的に決められるべきものであり、依頼を受けた当該弁護士もそれを承知でこれを承諾するもので、その決定に当たって依頼を受けた弁護士との間の人間関係は考慮されるべきではない。このような意味において、地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、私人や会社が支払う弁護士報酬の額よりも、より定型的に算出される傾向があるといえる。このような弁護士報酬額及びその算定に当たって考慮された事項が明らかになったとしても、当該弁護士の他の依頼者が自己の支払った報酬額と比較するなどして、当該弁護士の事業活動上の内部管理に属する営業上の方針が明らかになって、当該弁護士と依頼者との信頼関係が損なわれるとは考えられない。」として、上記京都地裁判決と異なり、非公開事由に当たらないとしたが、いずれも、他の弁護士との関係での競争関係上の利益は正当な利益とならないことを前提としていることは同じである。
 したがって、処分庁が理由とするような、フォレンジック調査市場の相場形成に影響を及ぼすことによって受ける当該法人の不利益は「正当な利益」に当たらないことが明らかである。

 

⑹ 概括的な契約金額は既に公表されており、今後新たな影響が生じることはないこと

 さらに、本件においては、その調査費用の概括的金額は既に一般に公開されている。すなわち、不正調査委員会の調査委員長又は委員は、取材に対する回答の中で、データの復元につき、「専門業者に委託し、約100万円かかった」と概括的金額を話し、それが書籍によって既に一般に公開されている(資料7)。
 したがって、仮に処分庁が主張するような「フォレンジック調査市場の相場形成への影響」なるものがあり得るとしても、その影響は、既に同書籍の公表によって生じているのであって、今後、その正確な契約金額が明らかになることで、新たな影響が別途生じるとは考えられない。

 

⑺ 小括
 以上によると、本件の契約金額の開示により、法人の競争上の地位その他の正当な利益を害する客観的おそれが認められる余地はなく、開示が認められるべきである。
異議申立書に記載したとおり、岡山大学は、税金の使途についての説明責任を果たすためとして、画像解析に係る委託金額の開示を行ったが、かかる判断も、国立大学法人事務の透明性、説明責任の観点などの上記事情を踏まえてのことだと推測される(なお、岡山大学においては、委託業者の法人名は当初より開示されており、契約金額の開示により、法人名及び契約金額の双方が開示されたことになる。)。
 岡山大学の事案と本件事案で判断を異にする理由はなく、岡山大学において開示がされたという事実は、本件においても、処分庁が主張するようなおそれは主観的なものであって、客観的なものではないことを裏付けているといえる。

 

(法人名の部分略)

 

第2 裁量的開示をしないことは裁量権の逸脱濫用となること
以上のとおり、本件の各情報は、非開示情報に当たらないので、処分庁は開示する義務を負う。
また、仮に形式的に、非開示情報に当たるとしても、上記でみたとおり、これによって被る不利益はわずかであるか、抽象的なものであり、他方で、税金の使途の説明責任や国立大学法人事務の透明性の観点から、開示をすべき公益上の要請が極めて高いことは明らかである。これらのことは、岡山大学のケースで、法人名、契約金額のいずれも開示されていることからも裏付けられている。
したがって、法7条の裁量的開示を行わないことは、裁量権の逸脱濫用となるため、開示すべきである。


以上の主張が通り、最終的に金額が開示されました。