福島の人達と原発労働者の放射線被ばく量と健康影響についてのNature記事を紹介

Nature
Fukushima’s doses tallied
福島の放射線量が計算された

http://www.nature.com/news/fukushima-s-doses-tallied-1.10686 

Studies indicate minimal health risks from radiation in the aftermath of Japan’s nuclear disaster.
複数の研究が、日本の核災害の影響による放射線からの健康リスクは最小限であると示している。

Geoff Brumfiel
23 May 2012(2012年5月23日)

昨年に日本の福島第一原子力発電所から噴出した放射性物質にさらされた事によってがんになる人はほとんどいない−そして、そういった人達の病気を引き起こした原因が何であるかは決してはっきりと分からないだろう。これらの結論は、日本の市民、それと損壊した原子炉を制御するために奮闘した何千人もの労働者達が受けた放射線量についての2つの包括的で独立した評価に基づいている。

1つ目の報告書は、ネイチャーによって独占的に見ることができるが、ウィーンでの放射線影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の小委員会によって作成されたもので、その事故の全ての面に関連した広範囲な問題をカバーしている。2つ目は、ネイチャーでその草案を見られるが、ジュネーブ(スイス)にある世界保健機構(WHO)から出されたもので、事故後の最初の年における一般市民が受けた放射線量を推定している。両方の報告書は、今週ウィーンで開催されるUNSCEARの年次総会で議論される。

UNSCEARの委員会の分析は、原発で働く167人の労働者が受けた放射線量はがんになるリスクをわずかに上昇させるものだと示している。WHOの報告で一部の市民の被曝が政府のガイドラインを上回ったことが明らかになったものの、一般市民の大部分はすぐに避難することによって守られた。「健康リスクがあるならば、それは高い被曝を受けた労働者にあります」と、UNSCEARの議長であるウルフガング・ワイス氏は言う。これらの労働者でさえ、関係した人達の人数が少ない事と日本の様な先進国でのがんの高い背景率のために、将来のがんをその事故に直接結びつけることはできないかもしれない。

UNSCEAR報告書の作成に関わる科学者達は、彼らの独立した、利用可能な一番良いデータの概要が、昨年にわたって大きくなった放射性降下物についての恐怖のいくらかを打ち消す助けになればと望んでいる(Nature 483, 138–140; 2012を参照)。原発労働者の被曝の予備的な評価を提供するだけではなく、UNSCEAR報告書は放出された放射線の日本政府の推定が10倍の範囲内で正しかったと結論し、その発電所近くの動植物や海洋生物への影響を全て理解するのにはさらに調査研究が必要であるとしている。その報告書の最終版が来年に全UNSCEAR委員会の承認を受ける時には、将来の調査研究への有用なベースラインを提供するはずである。

福島の危機は、マグニチュード9.0の地震が日本の沖で津波を誘発した、2011年3月11日に始まった。14メートルの波が福島第一原発の6つの原子炉のうちの4つを水浸しにして、非常用の冷却装置を不能にし、メルトダウンと大気・海洋に放射性物質を放出した爆発に至った。事故が起きた年内にその原発は安定し、放射性物質排出の大部分は止まった。

昨秋から、UNSCEARは福島の放射線に関するすべての利用できるデータを検討しつづけている−それは、1986年のチェルノブイリ核事故についての最終的な報告書を作成した時と同様にして行われている。特に、その原発を経営している東京電力に雇用されている20,115人の労働者と契約者の匿名の医学データを細かく調べた。146人の従業員と21人の契約者が、がんのリスクがわずかに上がると認知されている100ミリシーベルト(mSv)以上の線量を受けていたことが判明した。6人の労働者が、日本の法律で最前線の緊急作業員に許容されている250mSvより多い線量を受けており、原子炉3号機と4号機の制御室にいた2人のオペレーターは、放射性ヨウ素-131の体への吸収を防止するヨウ化カリウム錠剤を服用していなかった為に600mSvを上回る線量を受けた(‘In the zone’を参照)。これまでのところ、どちらのオペレーターも被曝の結果による悪影響で苦しんでいる様子はない。


Source: UNSCEAR, WHO & METI

高い線量を受けた労働者の多くは、その危機の当初に被曝をした。その最初の数時間に、小チームが損傷を調べて手動で弁と他の装置を動かすために原子炉建屋の中に踏み込んでいる間、彼らは暗い制御室に集められていた。彼らはどれくらいの放射線が存在しているのか分からない時が頻繁にあった−報告書には、放射線レベルをモニターするようになっている自動システムが適切に作動しなかったことが記されている。4月中旬までに、基本的なアクセスコントロールとモニタリングは現場で復旧した。

専門家達は、検出可能な甲状腺がん白血病(この2つは、事故によって最も発生しそうながんである)の上昇はありそうにないと同意している。「統計的に見つけられないがんのリスクがいくらか上昇するかもしれない」と、ロックビル(メリーランド)にある国立癌研究所でチェルノブイリ調査研究を率いるキヨヒコ・マブチ氏は言う。チェルノブイリでは、除染作業員達がずっと高い線量を被曝しており、調査された110,000人の労働者の0.1%がこれまでに白血病を発症したが、これらのケースの全てがその事故によるものではない。

原発の数十キロメートル以内で生活しているおよそ140,000人の一般人のリスクは、さらにずっと低そうである。詳細な放射線計測が事故時に利用不可能であったので、WHOは吸入や経口摂取、放射性降下物からの放射線被曝を含めて一般市民の線量を推定した。WHOは福島と近隣の日本の県の大部分の居住者は10mSvより少ない線量を受けたと結論した。事故後数ヶ月まで避難をしなかった浪江町飯舘村の住民は10–50 mSvを被曝した。政府は事故後の一般人の被曝を20 mSv/年よりも低く保つことを目標としているが、より長期的には事故後の住民の被曝量が1 mSv/年以下になる様にその地域を除染したいとしている。

WHOの計算は、その原発近くに住んでいる人達でさえも、一般人の線量が1–15-mSvの範囲以下であることを見いだした、日本の科学者達によって運営されるいくつかの健康調査と一致している。心配される1つの例外は浪江町の幼児が甲状腺がんのリスクが上がる100–200 mSvの甲状腺線量と推定されるのに充分なヨウ素-131を受けているかもしれないことである。しかし、その地域の1,080人の子どもたちから集められたデータからは、50 mSvよりも大きい甲状腺線量を受けた子はいないことが分かった。子ども達におけるチェルノブイリの主ながん遺産は甲状腺がんであった。

Fearful and angry
怖れと怒り

個々の一般人のリスクは小さいとしても、多数の人口が関係したことは、一般の人達の間で放射線により誘導されたがんの最終的な数は労働者の間でのものよりも実際に高くなることを意味するであろうと、ニューヨーク市にあるコロンビア大学放射線科医であるデイビッド・ブレンナー氏は言う。しかし、彼は直接的な関連付けが確実にされることは疑っている。通常の状況下で「誰でも40%が、がんになります」と、彼は言う。「増加したリスクが分かる疫学的研究をすることが可能であるとは私には思えません」それでも、人々に彼らが欺かれていないと安心させるために研究を行うことは価値があるかもしれないと、彼は付け加えた。

はるかにより大きな健康リスクが、地震津波・核災害によって生じる精神的ストレスからくるかもしれない。ストーニーブルックにあるニューヨーク州立大学の精神疫学者であるエヴリン・ブロメットによると、チェルノブイリ後に、避難者は住民全体よりも心的外傷後ストレス障害PTSD)を経験する傾向が強かった。そのリスクは福島でさらに大きいかもしれない。「私は、この様なPTSDのアンケートをこれまで見たことがありません」と、彼女は福島医科大学によって実施されている調査について言った。人々は「すっかり怖れていてひどく怒っています。彼らが情報を信頼する人はもはや誰もいません」

全体として、それらの報告書は事故直後の日本政府の行動に信頼性を付与するものである。福島医科大学の研究者で、ある地域の健康調査を率いている山下俊一氏は、その知見が事故の犠牲者達のストレスを減らす助けとなる事を望んでいる。しかし、それらは政府と地域住民の間の信用を再構築するのには充分ではないかもしれない。東京大学アイソトープ総合センターのセンター長であり政府への辛口の批判者である児玉龍彦氏は、それらの報告書の価値に疑問を持っている。「国際組織は、その地域で何が起きているのかを見ることができない、非常に短期の日本への訪問に基づいた早急な報告書を作るのを止めるべきだと思います」と、彼は言う。

およそ70人の科学者からなるUNSCEARの運営委員会は、最終報告が完成する前にすべきことがまだ多くある。委員会のメンバーは、独立して事故のデータの情報源を検証することを続け、その原子炉から環境への放射性同位体の流れのモデル作りに取り組むことを続けていく。原発労働者にとって、「個別の医学的フォローアップは統計的フォローアップよりも重要です」と、ワイス氏は言う。
「人々は、我々の言う事が本当かどうかを知りたがっている」

Nature485,423–424(24 May 2012)