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巷に流行る「酵素栄養学」、なんか変です

ニセ科学 食品 健康

 酵素を食べ物から体に取り入れることで健康維持に役立つという説を基にした健康法を良く目にします。「酵素栄養学」と呼ばれるもので、一生のうちで作れる酵素の量(「潜在酵素」)が人によって決まっていて、食べ物に含まれる酵素(「食物酵素」)を食べて補うと「潜在酵素」の消費量を節約できるので寿命が延びるというのです。酵素を栄養の一種として考え、酵素が不足することが万病の元になっているとしています。そして、酵素は加熱すると変性するので加熱した食品よりも非加熱の食品(ローフード)を食べる方が体に良いとか、発酵食品には酵素が多く含まれるから食べると体に良いのだとしています。この説が科学的な裏付けがあるかの様にして宣伝されており、雑誌やTV、人気マンガなどにも時々こういった健康法の紹介がされているので、そのまま信じてしまう人も少なくない様です。

■一生のうちで作られる酵素の量には制限がある?

 そんなことはありません。体を構成する細胞の中にそれぞれの酵素に1つ1つ対応する遺伝子が一通り存在して、必要に応じてその遺伝子が読み取られて作られます。酵素が遺伝子から読み取られる回数に制限があることを裏付ける科学的な証拠は得られていません。遺伝子を読み取ることによって、その遺伝子がすり減っていくこともありません。
 老化によって遺伝子の読み取りが悪くなったりすることはあるでしょうが、若い時に外から酵素を補ったからといって、年をとってからの遺伝子の読み取りが良くなるということはありません。酵素栄養学は、酵素がどの様に作られて調節されているのかという仕組みを理解していない人による作り話です。

酵素を食べると体にいいの?

 酵素が入っている食品を食べても、大半の酵素が食べた人の胃の中で胃酸により変性して働きを失います。酵素はタンパク質の仲間です。タンパク質でできた肉が、胃から腸に運ばれる間に消化されてしまう様に、タンパク質でできた酵素も同じ様に食べたら消化されます。食べた酵素が活性を失う前に働くこともありますが、短い間だけです。

 また、食べ物から取り入れた酵素は、消化管の壁をそのままの状態で通り抜けて食べた人の体のあちこちに運ばれることもありません。酵素は食べた人の消化酵素によってバラバラに分解されてしまい、腸から吸収される時にはもう元の酵素ではなくなっています。バラバラになった酵素が人の体内で復元されることもありません。 
(もし他の生き物の酵素が体内のあちこちに取り入れられて働き続けると仮定したら、元々人が持っている酵素ではないので、その働きの調節が上手くできないことも考えられます。ヘタをすると酵素によっては暴走して手が付けられなくなるかもしれません。食べ物からの酵素類がそのまま体内に取り込まれない方が安全です。もし分解されないまま体内に入れば、免疫系が反応して重篤なアレルギーを起こしてしまうことも考えられます)
 食べた酵素は肉と同様に消化されて体の細胞を作る材料になるアミノ酸の原料となるので、その意味では栄養になりますが、酵素そのものが栄養となるのではありません。

 食物から酵素を取り入れることで、体が消化酵素を自前で作る必要がなくなった分、材料やエネルギーを他の代謝酵素を作るために振り向けることができるという説明もされていますが、よほど栄養失調の状態でなければ、酵素を作るためのエネルギーや酵素の材料であるアミノ酸は足りています。十分に足りているところに、余分に材料やエネルギーを振り向けようとしたところで、あまり意味はないでしょう。

■発酵食品だと酵素を多くとれるの?

 食品中に微生物が増えると微生物に含まれる酵素も全体量として増えますが、その増えた酵素も食べてしまえば胃の中で変性するし最終的に消化されてしまうのがほとんどです。微生物が消化を逃れて生きたまま腸に行ったとしても、その微生物の酵素のほとんどは微生物の体の中で働きます。(一部の腸内微生物は酵素を分泌して周囲の未消化の食べ物を分解して取り込みます。そうした分泌タイプの酵素は腸内でも働きます)また、人の腸内に生息できる微生物は、微生物全体の中では限られています。微生物が死ねば含まれていた酵素の多くは外に出てきますが、人の腸でも働くとは限りません。微生物の中の環境と腸の中の環境が大きく違うからです。酵素はデリケートなものが多く、環境が違えば働けなくなってしまうものがほとんどです。

酵素について

 酵素アミノ酸がつながってできたタンパク質という物質でできていますが、タンパク質の材料になるアミノ酸は20種類あって、それぞれ異なった性質を持っています。これらの性質が違うアミノ酸がつながっていく順番の違いによって出来上がったタンパク質がいろいろな働きを持ちます。先に少し説明しましたが、このアミノ酸のつながり方の設計図がそれぞれ遺伝子に書き込まれており、これを読み取ることで必要な酵素をどんどん作ることができます。酵素は作りすぎても無駄になるので、必要な量が調節されて作られる仕組みが備わっています。

 「酵素栄養学」では、酵素を「消化酵素」と「代謝酵素」の2つに分類しています。しかし、酵素は生体内のあらゆる反応に関わっており、その2つの分類だけでは無理があります。例えば、知覚や運動に関係している酵素なども存在します。

 それぞれの酵素は、その働き場所の環境(酸性・アルカリ性の度合い、溶けている塩の種類や濃度、温度、その他)に合わせて、そこで最も効率的に働ける様に作られています。体の中には、消化管内だと胃や腸でも環境が大きく違っていますし、細胞の中で働く場合でも、細胞には細かく仕切られた構造があり、それぞれの構造内でも環境が違っています。中には、酵素だけでは働けずに補酵素という酵素の働きを助ける物質が必要な場合もあります。環境条件が揃っていないと、酵素は上手く働けません。
 食物から取り入れた酵素が体の中で働くかどうかは、環境が合っているかにもよります。食べて消化されるまでに働ける環境になければ、その酵素は働くことはなく終わります。

 また、酵素は反応を促進するけれども、それ自身は反応の前後で変化をしない「触媒」として働くので、酵素は反応に使われたら消費されて減ってしまうことはありません。繰り返して何度も働くことができます。酵素は必要に応じて作られてから、分解による量の調節の他に、一部の酵素は活性を変化させる調節を受けたりして働き具合が調整されています。こうした体内で行われている酵素の調整とは無関係に外から別の生物の酵素を取り入れても、余計なことになります。

 自前の酵素を「節約」する為に食品に含まれる酵素を食べて補うというのは、いくつもの基本的なところから大きく外しています。

■加熱調理と非加熱調理

 加熱調理をすると、食材が柔らかくなり食べ物の消化が良くなって栄養を吸収しやすくなりますし、食べ物に混入した病原菌やウイルス、寄生虫などが加熱によって死滅するので衛生的にも良くなります。加熱をすることで、生では食べられなかった食材(熱に弱い毒を含んでいる等)が食べられる様になったりもします。加熱調理によって生の状態とは違った美味しさを味わうことができますし、煮る・蒸す・焼く・揚げる・炒める等、色々な加熱方法があり、料理のバリエーションもできて食事が楽しめます。加熱によってできるコゲに発がん性があると指摘されていますが、加熱し過ぎなければ特に心配無いでしょう

 一方、加熱によって分解されやすい栄養素があるので生食のメリットもありますし、新鮮な生野菜や果物、お刺身などは美味しいです。
 ただし、生のままで食べる場合は、食中毒や寄生虫の危険があるので注意が必要です。(食中毒の原因菌によっては毒素が熱に強いものがあるので、食材の管理を怠ってはいけないのは加熱調理をする場合でも同様ですが、加熱調理は生食よりは危険が少なくなります)

 色んな調理法をとり混ぜた食生活をする方が食材も色々と楽しめます。生食(ローフード)の食事ではないと健康が維持できないという説には医学的な根拠はありません。人類がまだ火を使っていなかった原始時代では、今よりも寿命が短かったと考えられています。

■おかしな栄養学には気を付けて

 「酵素栄養学」は、エドワード・ハウエル氏が提唱しましたが、まともな論文は1つも出されていません。この説は酵素学として根本的に間違っているのですが、酵素についての詳しい知識が無ければ、一見すると科学的な様に思えてつい納得してしまいそうになるでしょう。ハウエル氏の受け売りをしている人達も多くて、同様な説が広められています。

 健康のために生野菜や果物を中心にしたローフード(生食)が良いとしているものには、マックス・ゲルソン氏が提唱した「ゲルソン療法」もあります。この療法は、がんの代替療法として日本でも広められました。野菜ジュースを大量に飲むことや食事から塩を抜くこと、指定された多数のサプリメントを飲むこと等を行う食事療法です。「ゲルソン療法」ではコーヒーで浣腸を行うこともしますが、コーヒー浣腸は効果に疑問があるばかりでなく死者もでています。ニコラス・ゴンザレス氏は、「ゲルソン療法」を受け継いで「ゴンザレス療法」として膵臓がんの治療を行っていましたが、臨床試験で実証を試みたところ、従来の薬物療法と比べて有効性も生活の質(QOL)も劣るという結果でした。期待はできない様です。

 発酵食品には微生物由来の「食物酵素」が多く含まれるとして「酵素栄養学」で推奨されていますが、食品から酵素を補給するというのはナンセスだというのは説明した通りです。伝統的に安全が確認されている発酵食品ならば食べても健康に問題はないのですが、手に付着している常在菌(雑菌)をすり下ろした野菜や果物に混ぜて常温放置した「酵素ジュース」が体に良いと宣伝する衛生観念的に首をかしげるレシピまで雑誌などを通じて広められていました。発酵が運良く上手くいけばいいのですが、どんな雑菌が繁殖するか分からないので心配です。
 また、玄米菜食が体に良いとする系統では「酵素玄米」が好まれている様子で、玄米ご飯を炊いてから保温したまま数日間放置するという作り方をしています。保温温度によっては、いろんな雑菌が繁殖すると思うので、これも要注意です。

 酵素を補給すれば健康になるという迷信から、がんやアトピー発達障害も治すという宣伝までされています。そういう言説を広めている業者には気を付けて下さい。
 こういった迷信によって、食事の内容を大きく偏らせてしまってそれをやり続けるのは、逆に健康を害してしまう恐れがあります。なんとなく科学っぽい説明がされていますし、医者などが推奨していたりする場合もあるので、それが怪しいかどうかを見分けるのは難しいのですが、 「○○ 批判」とか「○○ トンデモ」など、調べる時に否定的な言葉を添えて検索してみると、怪しいものならば色々と出てくるものです。

(参考) 
・健康と酵素(エンザイム)のこと
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/51989249.html
・『「酵素 エンザイム」にからんだ健康情報』シリーズ
http://yoshibero.at.webry.info/200705/article_3.html 
アピタル:内科医・酒井健司の医心電信《86》 酵素を食べて意味があるのかな?
http://apital.asahi.com/article/sakai/2013030300003.html?ref=rss&utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter