コインハイブ裁判:傍聴メモ(3)
コインハイブ裁判の傍聴メモ(1)、コインハイブ裁判の傍聴メモ(2)の続きです。
↓ 「事件の概要」と「争点」はこちら
↓高木浩光氏の証人尋問はこちら
※メモしきれずに記録できなかった部分もありますし、私の記憶違いが含まれている可能性もありますので、他の方々の傍聴報告と併せて相補的に読んで頂くのが良いと思います。
2019.1.15 被告人質問
弁護人による主尋問
【経歴と仕事内容】
・自営業でウェブデザイナーをしている。10年前から複数の客から依頼を受けている。それ以前は大阪で調理師をしていた。
・独学でウェブを勉強した。
・プログラムはPHPやJSなどを使い、様々な内容の依頼を受けている。
【JSについて】
・JSは閲覧者のブラウザで動く。例えば、Googleアナリティクスなど。
・ユーザーがアクセスしたら、Googleアドセンスなどはウェブページに広告を表示する。
【JS実行の事前許諾について】
・依頼のケースによって、事前許諾の有無は様々であり、特に必要ではない。
・記載をするケースは、利用規約にある場合。例としてGoogleアナリティクスなど。
・JSの実行前に許諾をとらないのは、1つ1つ許諾を得ると煩雑になり、利便性が損なわれるからである。
弁護人:弁2号証の〇の法務省のウェブサイトを示す。
・普通の表示ではJSが使われていることは分からない。ソースコードを見れば分かるが、どんなスクリプトが動いているかまでは分からない。
・法務省のウェブサイトの利用規約には、JSに関するものはないが、悪質性はない。
弁護人:弁2号証の〇の神奈川県警のウェブサイトを示す。
・普通の表示ではJSが使われていることは分からない。ソースコードを見れば分かるが、どんなスクリプトが動いているかまでは分からない。
・神奈川県警のウェブサイトの利用規約には、JSに関するものはないが、悪質性はない。
※JSの実行をするにあたり、ユーザーの許諾は不要である。
【被告人がコインハイブを知った経緯】
・ギガジンの記事を読んで知った。賛否両論があり、否定意見はユーザーに隠れて金儲けしているというもので、賛成意見は広告の代わりになるというものであった。
・違法性の指摘はなく、記事の締めくくりとして「寄附」という形で認識されて受け入れられていく可能性を示唆していた。
弁護人:〇号証の3のギガジンの記事を示す。
・新しい着眼点であり、試してみようと思った。
【ブログ内にコインハイブを設置した経緯】
・当時、5~7つのウェブサイトを持っており、その中の1つである「****」というウェブサイトにコインハイブを設置した。
・「****」に設置した理由は、一定数以上のアクセスがあったからで、月に3万PV程度であった。
・「****」に掲載した広告からの収益は月々数千円程度で、サーバーの維持費が4~5千円程度、ドメインの維持に千円程度であった。
・広告は、アダルト広告が表示されるなどの景観上の問題があった。
・そこで、ローカル環境でコインハイブを試してみた。
【閲覧者がコインハイブの設置をどう感じると思ったか】
・スロットルの設定値を0(CPU使用率100%)にした場合でも、問題はない。
・実際の設定値0.5では、ユーザーにとって負担感はない。
弁護人:「****」のソースコードの50行目にあるスロットルの設定が0.5であることを示す。
弁護人:ユーザーにどう思わると考えたか?
・特に不快感は持たれないと思った。
・「****」の読者層から考えると、受け入れられると思った。
【コインハイブの設置を止めた経緯】
・2017年11月頃にツイッターで指摘を受けた。
弁護人:甲7号証のP6を示し、「****」氏のツイートを読み上げる。
・「****」氏の意図は、クリプトジャッキングではないかという指摘だと思った。
・そこで、「クリプトジャッキングではない」という意味で返信ツイートを送った。
・知らない所でマイニングされているという不快感はあるかもしれないと思い、事前に許諾をとる様にプログラムの改造をしようと考えたが、その手間と時間がコインハイブを設置し続けるメリットと比べて見合わないと判断したので、削除することにした。
・「****」氏からは、他には何も指摘はなかった。
【コインハイブ導入に関する記事を書いたことについて】
・ギガジンの記事とキータの記事(甲21号証)を参考にして書いた。
・キータの記事には謝罪が書かれているが、インターネットではよくあることで、その意味は「ちょっとしたイタズラ」をした事についてのものだと理解した。
・周囲にコインハイブを使っている人がいたけれども、違法という指摘は全くなかった。
【神奈川県警の捜査について】
・仕事をしている時に電話があり、捜査に協力してほしいと言われた。自分が被疑者だとも、そうなった理由も知らされなかった。
・令状の中身についても、よく知らされなかった。写真を撮ろうとしたが、ダメだと言われてしまい、内容の確認ができないままで事情聴取が進められた。
・コインハイブがウイルス扱いされているとは知らず、クリプトジャッキングではないことを確認してもらうために、パスワードを隠したりPCの中身を消したりせずに、捜査に協力した。
・警察は私の言い分を調書にとってくれず、調書には言っていなかった事を書かれていたが、訂正してくれなかった。
・警察からは反省を求められ、「令状が出ているから犯罪なのだ」と言われた。
【検察の取り調べについて】
・紙切れ1枚を読み上げられる程度で、私の言い分を聞いてくれなかった。
・そして、略式起訴をされた。
【正式裁判を選んだことについて】
・弁護士などの費用や、裁判をする負担が生じたが、(犯罪が成立すると認めると)クリエーターの足枷になってはいけないと思い、決意した。
検察による反対尋問
【ブログ運営について】
検察:運営者は?
被告人:私1名で運営している。
検察:「****」というのは誰か?
被告人:私本人である。
検察:「****」と名乗った理由は?
被告人:その名前を作った経緯は話したくない。
検察:別のサイトの「****」は?
被告人:私本人である。
【コインハイブを設置した事についての認識】
検察:ユーザーに隠れてマイニングすることをどう思うか?
被告人:ギガジンを読んで、ユーザーに隠れてマイニングをするのは良くないという意見があることの認識はしていた。
検察:コインハイブの機能は理解していたか?
被告人:コインハイブの機能を理解した上で設置していた。
検察:甲7号証の3を示す。プラグラムコードにアノニマスという文字があり、その右横に英数字がある。これは、被告が設置したという識別コードなのか?
被告人:コインハイブから割り当てられた識別コードである。
検察:このプログラムコードは誰が記載したのか?
被告人:私本人である。
【コインハイブの動作状況】
検察:CPU使用率を50%に設定した理由は?
被告人:ブラウザの動作を遅くしない様に配慮した。
検察:甲8号証の3を示す。これは被告がPCに保存していたPHPファイルか?
被告人:そうである。1点訂正すると、当時はサーバー上から削除していた。
検察:コインハイブは特定のページで動作するのか?
被告人:特定のページではなく、閲覧者がどのページを見てもマイニングが行われる。
検察:どうしてコインハイブを設置したのか?
被告人:ウェブサイトの運営のため。
検察:モネロ(仮想通貨)の合計の数字は?
被告人:ペンディングして011525で止まった。
検察:右下の棒グラフはタスクマネージャーのCPU使用率?
被告人:そのグラフがどの状況のものなのか分からない。
【「****」氏からの指摘について】
検察:「****」氏から指摘を受けてどう思ったか?
被告人:ユーザーに確認する必要性について、ユーザーの抵抗感について配慮して同意をとった方が良いという認識をした。
弁護人からの補充尋問
弁護人:コインハイブを設置して利益を得られると思っていたか?
被告人:あまり期待していなかった。参考記事でもわずかな利益しかなく、テスト的に設置した。
弁護人:ユーザーの許諾を求める設定はコインハイブにあったか?
被告人:その設定は用意されていなかった。
裁判官からの質問
裁判官:「****」(被告人のブログ)の内容は?
被告人:作曲ツールの紹介などで、投資や仮想通貨に関する記載はなかった。
裁判官:コインハイブを設置する時に、コインハイブの規約等を全て確認したか?
被告人:確認した。
裁判官:H29年10月23日より前に、ギガジン等の他にコインハイブに関する記事を読んだことはあったか?
被告人:他にも読んだことはあったが、具体的なサイト名は覚えていない。
裁判官:ギガジンで取り上げられたサイト「パイレート・ベイ」が炎上した理由を考えたことはあるか?
被告人:コインハイブそのものというよりも、マナー的な問題だと思った。
裁判官:「****」にコインハイブを設置する前に、仮想通貨を扱ったことはあるか?
被告人:それまで仮想通貨は扱っていなかった。
裁判長:甲19号のコインハイブ公式サイトの規約には、9月28日時点でオプトイン(事前に利用者の承諾を得ること)を推奨しており、アンチウイルスソフトにブロックされることについて記載されているが、どう思うか?
被告人:「****」ではブロック等の問題はなかった。当時の規約には、それらの記載はなかったように思う。
弁護人:その記載は10月16日の時点のものである。
裁判長:(弁護人の指摘の通り)事実として当時には記載されていなかったのだろう。
裁判長:「****」氏の指摘を受けて、被告人はコインハイブに加工する時間がなかったということだが、指摘された時にコインハイブの規約は調べたか?
被告人:調べる余裕のある時間もなかったし、規約を確かめるまでもなくコスト的に消す方が楽と判断して、消す選択をした。
裁判長:被告人は、利便性から必ずしもユーザーのメリットにならないと考えて、許諾は不要だと思ったのか?
被告人:新しい手法であるので、ユーザーの反応を測るための試験的な導入であった。
弁護人:ここでの利便性とは、ユーザーにとってのものである。
被告人:一々OKをとることで、直ぐに読みたい記事を読めなくなってしまう。
裁判長:試みとして、許諾を求めてみなかった理由は?
被告人:JSを動かす同意をとるケースの方が稀だったので、一般的な流れに沿った。
裁判長:コインハイブのアカウントを作った後で、公式サイトの規約の確認はしたか?
被告人:していなかった。
※最終弁論(2019.2.18)に続きます。(予定)