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福島の原発事故と、チェルノブイリの原発事故の被ばく量などの比較−福島の現状について

健康 放射線 統計

福島で起きた原発事故から1年3ヶ月以上経ち、被ばくに関する様々な測定データが揃ってきました。
ここでは、チェルノブイリ事故と各種のデータを比較してみます。

(参考)WHOによるチェルノブイリ原発事故での健康影響についての概要報告
放射線の健康影響について−チェルノブイリ事故から
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20110419/1303226576


■事故で大気中に放出された放射性物質とその量(チェルノブイリ事故、原子爆弾との比較)

<次の資料を元にグラフを作成しました>
・UNSCER 2008 Report to the General Assembly with Scientific Annexes
VOLUME II Scientific Annexes C, D and E
Table A1 P26 http://www.unscear.org/docs/reports/2008/11-80076_Report_2008_Annex_D.pdf
・Chernobyl: Assessment of Radiological and Health Impact 2002 Update of Chernobyl: Ten Years On Chapter II The release, dispersion and deposition of radionuclides
http://www.oecd-nea.org/rp/chernobyl/c02.html
・福島・広島 保安院の発表(10/20訂正版)
東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び広島に投下された原子爆弾から放出された放射性物質に関する試算値について(別表)
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf

 以下の数値は推計値です。
 

 

 クリックすると、図が大きくなります。↓
 
図中、○印:揮発性元素(I、Cs等) ▲印:中程度の揮発性元素(Sr等) ■印:難揮発性元素(Pu等)
1PBq=1000000000000000Bq

各元素の放出量の比較は、福島の事故・チェルノブイリの事故・広島の原子爆弾のデータが全てある元素について抜き出しました。
福島の原発事故で最も多く放出されたXeは希ガスであり、上空に飛んでいったまま地上に降下してこないのと、化学的に不活性なので生物体内に積極的に取り込まれて濃縮したりということもないので、人体への影響は無視できます。
揮発性元素、中程度の揮発性元素、難揮発性元素の量ともチェルノブイリ事故の多さが分かります。
福島の原発事故では広島の原子爆弾よりも揮発性元素(I、Cs等)は多いですが、中程度の揮発性元素、難揮発性元素は広島の原子爆弾の方が多いです。
難揮発性元素がチェルノブイリ事故で多く放出されたのは、原子炉そのものが爆発した事により、燃料棒ごと大気中に撒き散らされたことによると考えられます。
一方、福島の原発事故では原子炉そのものは大きく破損せず、揮発し易い元素が中心に放出されたのがチェルノブイリのケースとは大きな違いとなったと考えられます。

■事故を起こした原子炉からの放射性物質の放出量の推移

次のグラフは事故を起こした1〜3号機格納容器からの放射性物質(セシウム)の放出量の昨年6月から今年5月までの推移です。グラフの縦軸の単位は、10億Bq/時です。
IAEA Fukushima Daiichi Status Report June 28, 2012 より
http://www.iaea.org/newscenter/focus/fukushima/statusreport280612.pdf 

このグラフから、放射性物質の放出量が今年2月からはかなり低くなっていることが分かります。
 
放射性セシウムによる内部被曝

早野龍五氏作成の資料>

チェルノブイリのデータは事故から5-10年後のものであり、福島と同じ事故後1年ではもっと内部被曝量が高かったと推定されます。
この比較からも、福島の人達の内部被曝チェルノブイリ事故の場合と比べてかなり低く抑えられていることが分かります。

(参考)牛乳の汚染状態の比較
・Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts and Recommendations to the Governments of Belarus, the Russian Federation and Ukraine
The Chernobyl Forum: 2003–2005 Second revised version
http://www.iaea.org/Publications/Booklets/Chernobyl/chernobyl.pdf (P24) 

ウクライナのレブノの私営農場とコルホーズ農場生産の牛乳中のセシウム137濃度。TPLは基準値。
ウクライナでは、1000Bq/Lを超えた牛乳を日常的に何年も飲んでいました。
甲状腺癌の原因となるヨウ素131も事故後に多量に含まれていたと推定されます)

厚労省食品検査結果 <早野龍五氏作成の資料>

チェルノブイリのケースと比べ、牛乳中の放射性セシウムの濃度は10Bq/kg(L)以内に抑えられています。
牛乳中の放射性セシウム量を例として比較しましたが、この様に福島のケースでは食品を摂取することによる内部被ばく量が少ないことがWBC検査結果の大きな違いとなっていると考えられます。

放射性セシウムによる内部被ばく量は、食品などからの摂取が少なくなっているので時間の経過と共に低下しています。
南相馬市:市民の内部被ばく検診「ホールボディカウンター(WBC)による」の結果(2) 
http://www.city.minamisoma.lg.jp/shinsai2/kensa/hibakukenshinkeka2.jsp
<検査(受診)月別セシウム検出率の推移>

次のデータも参考になります。
・ひらた中央病院における内部被ばく検診『ホールボディカウンタ(WBC)による』検査結果の公表 
http://www.seireikai.net/news/2012/04/post-33.html 

■放射性ヨウ素による内部被曝

チェルノブイリ事故では乳幼児、小児らが放射性ヨウ素(I-131)に汚染された粉ミルク・牛乳を飲み続けた可能性が高く、小児甲状腺がんの急増が観察されています。子ども達の甲状腺被曝量の分布を示します。
・Risk of Thyroid Cancer After Exposure to 131 I in Childhood
http://jnci.oxfordjournals.org/content/97/10/724.full.pdf
被験者の年齢は、ベラルーシとロシアの15歳未満の子どもです。

甲状腺等価線量の分布。(1Gyは大雑把に1Sv程度)
甲状腺がんは、チェルノブイリ事故後4〜5年してから増えましたが、事故当時に成人であった人達の甲状腺がん発症率が高いと示唆するデータはありません。甲状腺については、子どもの被ばくが特に問題になります。
(参考)放射線による甲状腺への影響 広島赤十字・原爆病院副院長・小児科部長 西美和氏
http://www.pediatric-world.com/hiroshima/hoshasen_kojosen.pdf

福島の原発事故後、2011年3月26、27日に検査が実施された子どもの甲状腺被曝量の分布データです。
・小児甲状腺被ばく調査結果説明会の結果について 
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan067/siryo1.pdf

対象年齢は1〜15歳。この調査での最高値は、甲状腺等価線量に換算して35mSvでした。
http://www.nsc.go.jp/info/20120221.pdf

参考までに、国が安定ヨウ素剤を投与する水準は甲状腺等価線量100mSvです。
(ただし、甲状腺等価線量が50mSv以上で甲状腺がんリスクが上がるというチェルノブイリの調査の報告があり、IAEAが50mSvに下げたのを受け、国も近く50mSvに下げる見通しの様です)

[注意] 甲状腺等価線量のSvの値は、全身のダメージを表す実効線量のSvとは数値の意味と大きさが違ってきます。甲状腺等価線量のSvの値に0.04をかけ算した値が実効線量のSvとなります。

また、次の様なデータも出されました。検査が実施されたのは2011年4月11〜16日です。
NHK:福島の甲状腺被ばく 国際目安下回る(7月13日付)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120713/k10013560711000.html 
弘前大学被ばく医療総合研究所の研究チームは去年4月、福島県内の住民62人を対象に甲状腺の検査を行い、ことし3月には、被ばく量が最も多い人で87ミリシーベルトだったという調査結果を公表しました。その後、研究チームは、原発事故の直後の「放射性プルーム」と呼ばれる雲の動きなど、より詳しいデータを基に再び解析しました。”
“その結果、被ばく量の最大値は成人で33ミリシーベルト、20歳未満でも23ミリシーベルトと、いずれも前回の公表結果の半分以下で、健康への影響を考慮して予防策が必要だとされる国際的な目安の50ミリシーベルトを下回っていたということです。”

この検査結果では、子どもの最高値は23mSvでした。
 
以上、チェルノブイリでのケースと比較して、福島での原発事故による子ども達の甲状腺被曝量は低く抑えられています。
甲状腺がんリスクが心配される甲状腺等価線量が50mSv以上の子どもはまだ確認されていません。
(ただし、今後も慎重に継続して健康調査を行っていくことは必要だと考えます)

外部被曝

福島県では、原発事故発生直後から7 月11 日までの住民の行動を調査して4か月間の外部被ばく線量を推計したデータを公表しています。
・県民健康管理調査「基本調査」に関するQ&A
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/kihonQ&A.pdf

測定場所:県北保健福祉事務所(福島市)東側駐車場
測定地点の各日12:00の値をプロット。3月11日、12日は測定値なし。13日0.04μSv/h

外部被ばく線量推計結果−初期4ヶ月(川俣町山木屋地区、浪江町飯舘村
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240612shiryou.pdf

最も高かった人で25.1mSv。 5 mSv未満が92.7%であり、10mSv未満が99.4%でした。
推計値ですが事故後初期の外部被曝量も全般に低く抑えられています。

次に、実際の個人線量計でのデータを示します。
早野龍五氏作成の資料>


原発事故後の初期4ヶ月の外部被ばく量が数mSvとして、年間被ばく量が5mSv未満の範囲で済んでいる人が多いのではないかと予想されます。
外部被ばく量も時間の経過と共に減少しています。

■まとめ

※「内部被ばく」と「外部被ばく」の総量から考えても福島での放射線被ばく量はチェルノブイリよりずっと少なく、紹介したNatureの記事( http://d.hatena.ne.jp/warbler/20120604/1338777534 )の通り、健康被害は明確に現れないのではないかと思われます。
また、この程度の被ばく量では子孫に遺伝的な影響は現れないだろうと言って良いと思います。
ただし、数年後から特定のがんなどの疾患が増えたりしないか慎重に健康調査は継続していく必要はあると考えます。

チェルノブイリのケースとの大きな違いは、原発事故によって放出された放射性物質の種類と量が大きく違うことと、事故後直ちに食品の規制がされたこと、水道水等の放射性ヨウ素濃度が上昇した時に供給を直ぐにストップした事、などが大きいと考えられます。
自給自足が多いチェルノブイリ周辺の状況と比較して、日本では食品の流通が行き届いていて汚染の少ない食品が事故後に被災地に供給できたことも大きいでしょう。また、農産物の汚染が少なくなる様に工夫してきた農家の方々の努力と技術の高さも評価できると思います。

一歩間違えるともっと大惨事になりかねなかった原発事故が、今回この程度で済んでいるのは本当に「不幸中の幸い」だろうと思います。
もし、新たに原発事故が起きてしまったら、次はこの程度では済まない可能性もあるので、二度と原発事故が起きない様にきちんと対策を立てていく必要があると思います。原子力発電所の安全対策をしっかりと強化し、同時に上手に脱原発していくのが良いのではないかと考えます。