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ジャネット・シェルマンさんら再び

放射線 誤った統計

もうダマされないための「科学」講義』 (光文社新書)−「付録」に記載のURL集はこちら
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20111009/1318150706


以前のエントリー原発事故以降アメリカ北西部で乳幼児の死亡数が35%上昇しているって、ホント?」 
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20110629/1309354848 
で紹介したJanette ShermanさんとJoseph Manganoさんのコンビが懲りずにまたおかしな統計処理によって、今度は米国に住む人々が福島から飛んできた放射性物質を浴びた直後に1万4千人も死亡したという珍説を発表して一部で話題になっている様です。

これに対して、前回と同じScientific AmericanのMichael Moyerさんが批判記事を書かれているので紹介します。

Researchers Trumpet Another Flawed Fukushima Death Study
By Michael Moyer | December 20, 2011|  
(あの)研究者達がまたもや間違いだらけの福島死亡調査を吹聴
http://blogs.scientificamerican.com/observations/2011/12/20/researchers-trumpet-another-flawed-fukushima-death-study/

In June I wrote about a claim that babies in the U.S. were dying as a direct result of Fukushima radiation. A close look at the accusation revealed that the data used by the authors to make the argument showed no such thing. “That data is publicly available,” I wrote, “and a check reveals that the authors’ statistical claims are critically flawed—if not deliberate mistruths.” The authors appeared to start from a conclusion—babies are dying because of Fukushima radiation—and work backwards, torturing the data to fit their claims.

6月に、福島からの放射線の直接的な結果として米国の赤ちゃんが死んでいるという主張に対して私は記事を書きました。この告発を詳細に調べた結果、その著者らが論拠として用いたデータはその様なことを示さないということが浮き彫りになりました。私は「当該データは公表されており」、「照合してみると、著者らの統計上の主張は、悪意のある虚偽ではないとしても、重大な欠陥があることが明らかになった」と書きました。その著者らは、あたかも−福島からの放射線のせいで赤ちゃんが死んでいる−という結論から出発して過去に遡り、自分たちの主張に合う様にデータをこじつけているように見えました。

はい、そうですね。ジャネットさん達は、自分達が望む結果になるようにしたのか、とても不自然なデータの選び方をしていました。

Now the authors have published a revised study (PDF) in the International Journal of Health Services. A press release published to herald the article warns, “14,000 U.S. Deaths Tied to Fukushima Fallout.” This is an alarming accusation. Let’s see how the authors defend it.

今回、その著者らは修正した調査(PDF)をInternational Journal of Health Services[参考:Impact factor=0.98] で発表しました。その記事の警告を告知する報道発表はこちらです「福島からの放射性降下物に関連する米国の死者は14000人」。これは驚くべき告発です。著者らがどの様にそれを主張しているのか見てみましょう。

米国で1万4千人の死亡とは、これはまた凄い人数ですね。またもやびっくりです。
どうしてこんな数字が現れたのでしょう?
もし、米国でこんなにも人が死んでいるのでしたら、日本ではもっと凄い数の死者が増えていると思うのですが?

First, the authors assert: “In the United States, Fukushima fallout arrived just six days after the earthquake, tsunami, and meltdowns.” They provide no evidence for this assertion, no citation to back up their facts. The authors then note that the U.S. Environmental Protection Agency monitored radioactivity in milk, water and air in the weeks and months following the disaster. Ah, here must be the data, the careful reader hopes. Alas, “the number of samples for which the EPA was able to detect measurable concentrations of radioactivity is relatively few,” the authors write. They then conclude, with evident disappointment, that “clearly, the 2011 EPA reports cannot be used with confidence for any comprehensive assessment of temporal trends and spatial patterns of U.S. environmental radiation levels originating in Japan.” In other words, the EPA didn’t find evidence for the plume that our entire argument depends on, so “clearly” we can’t trust the agency’s data.

まず、著者らは「米国では、福島からの放射性降下物が地震津波メルトダウンから丁度6日後に到達した」と主張している。彼らはこの主張の証拠を提供していないし、それらの事実を裏付ける引用もしていません。著者らは次に、米国環境保護局がその災害後の数週間から数ヶ月にわたってミルク、水、空気中の放射能を観測したと指摘しています。ああ、ここにはデータが必要なはずだと、注意深い読者は思うでしょう。いやはや、「米国環境保護局が、測定可能な濃度の放射能を検出できたサンプルの数は(測定数に比べて)比較的わずかである」と著者らは書いています。そして彼らは明白な失望でこう結論しています「明らかに、2011年の米国環境保護局報告では日本に由来する米国の環境放射線レベルの時間的傾向と分布様式の総合的評価をどれも確信をもって用いることができない」。言い換えると、米国環境保護局は全ての論拠を左右するプルームの証拠を見つけていないので、「明らかに」我々はその機関のデータを信用できないと言っているのです。

自分達が思い描く結果に上手く合う様なデータを出していないので米国環境保護局報告は信用できないというのですね。
これって、逆のような…。証拠に欠けるので、ひょっとして自分達が導いた結果の方が信用できないのではないか、とは考えないのでしょうか?

Yet even if there isn’t evidence for a plume, where do all the dead people come from? Here, from the abstract, is the chain of reasoning: “U.S. health officials report weekly deaths by age in 122 cities, about 25 to 35 percent of the national total. Deaths rose 4.46 percent from 2010 to 2011 in the 14 weeks after the arrival of Japanese fallout, compared with a 2.34 percent increase in the prior 14 weeks….Projecting these figures for the entire United States yields 13,983 total deaths.” In sum: Sloppy statistics killed 14,000 people.

プルームに関する証拠が無いのなら、死亡した人達は全部どこから来たのでしょうか?ここには、というのは論文の要約からですが、次のような推論の連鎖があります。「米国の防疫官は122の都市における週毎の死亡数を年齢別に報告するが、それは全国の約25から35%になる。2011年における日本の放射性降下物到着後の14週間は2010年の同じ時期よりも死亡数が4.46%に上昇している。それに対して、その前の14週間では2.23%である。…これらの数字を米国全体に見積もると総死亡数が13,983となる」。要するに:ずさんな統計によって14,000人の人々を殺してしまったのです。

To unpack a little more, the authors take mortality figures from the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) Morbidity and Mortality Weekly Reports. I talk a little about these reports in my original piece. Suffice it to say that they are an incomplete record of deaths in the U.S. (as the authors acknowledge). The authors draw a hard line at the week of March 20, 2011, the 12th week of the year. They sum up all deaths around the country for both the 14 weeks preceding and the 14 weeks following March 20, 2011. They do the same for 2010. They find the CDC reports include 4.46 percent more dead people in the 14 weeks after March 20, 2011, than the reports did in the 14 weeks after March 20, 2010. The 14 weeks preceding March 20, 2011 (presumably before the radiation plume arrived and spread across the land) include only 2.34 percent more dead people than the 14 weeks preceding March 20, 2010. Since the CDC only reports on about 23.5 percent of all deaths, the authors claim, they helpfully multiply the supposed “excess” by 1/0.235 to arrive at the final number of 13,893 deaths.

もう少し詳しく論じると、著者らは疾病管理予防センター(CDC)週刊疾病率死亡率報告から死亡率の数値を引っ張ってきます。私はこれらの報告について少しだけ私の記事で論じました。(著者らが認めているように)それらの数字は米国での死亡数の不完全な記録であると言えば充分でしょう。著者らは、その年の第12週目である2011年3月20日の週で一線を引きます。彼らは2011年3月20の前後それぞれ14週間の国全体の総死亡数を合計します。彼らは同様のことを2010年でも行います。彼らはCDC報告の2011年3月20日より後の14週の方が2010年3月20日より後の14週よりも人々の死亡数が4.46%多いことを発見します。(放射性プルームが到着して国土に広がったと推定する)2011年3月20日より前の14週間では2010年3月20日より前の14週間よりも2.34%多いだけです。CDCは全死亡数の約23.5%を報告しているだけなので、この推定「過剰」に1/0.235を補助的に掛け算すれば最終的な死亡数は13,893になると著者らは主張しているのです。

誤差をどれくらい含んだ数値なのかを考慮せずに、数値の操作をしてしまっています。
そもそも、2011年3月20日に放射性プルームが米国到達して広がったという大事な根拠が不確かなので、この根拠を示さないとこの説の土台が成立しませんよね。残念ながら、このままではどう足掻いてもあやふやな仮説止まりでしかありません。
それに、3月20日ではなくて別の日に到達していれば、その前後で死亡数を比較しても統計的に差が出ない可能性があります。

No attempt is made at providing systematic error estimates, or error estimates of any kind. No attempt is made to catalog any biases that may have crept into the analysis, though a cursory look finds biases a-plenty (the authors are anti-nuclear activists unaffiliated with any research institution). The analysis assumes that the plume arrived on U.S. shores, spread everywhere, instantly, and started killing people immediately. It assumes that the “excess” deaths after March 20 are a real signal, not just a statistical aberration, and that every one of them is due to Fukushima radiation.

系統誤差の評価や他の如何なる誤差の評価もしようとはしていない。ザッと見ただけでも偏向が沢山見つかるが(著者らはどの研究機関とも無関係な反核活動家)、解析に忍び込んだ可能性のある偏向を列挙しようとはしていない。その解析は、プルームが米国の海岸に到着して、至る所に即座に広がり、ただちに人々を殺し始めたと仮定しています。3月20日以降の「過剰な」死は、統計的な逸脱ではなく実情の表れであり、その死亡者がいずれも福島からの放射線のせいだと仮定しています。

こうなるともう、ずさんな統計による放射能大量殺人?ですね。(^^;)
しかも、死因を全て福島からの放射性降下物のせいだなんて推論は大雑把すぎますよね。
米国環境保護局の観測で検出されない程のごく微量の放射性物質のせいで、人々が次々と急死するなんてことは、普通に考えてもかなり無理があると思います。それだったら、日本中で即死者が既に大量に出ているはずですが、そういうデータはありません
死亡原因には、放射線被曝だけではなく、いろいろな原因が世の中に満ちあふれていることを忘れてはいけません。
他の要因を排除することができないならば、この様に短絡的に因果関係を導くのは危ういことです。

The publication of such sloppy, agenda-driven work is a shame. Certainly radiation from Fukushima is dangerous, and could very well lead to negative health effects—even across the Pacific. The world needs to have a serious discussion about what role nuclear power should play in a power-hungry post-Fukushima world. But serious, informed, fact-based debate is a difficult enough goal to achieve without having to shout above noise like this.

このように杜撰で政治的策略の意図を持った研究は恥です。確かに、福島からの放射性物質は危険であり、太平洋を越えても健康への悪影響となる可能性は充分にあるでしょう。世界は、福島の事故後の電力不足の世界で果たす原発の役割について真剣に議論する必要があります。しかし、この様な雑音よりも大きな声を上げなければ、真面目で、情報に基づき、事実を基礎とした議論というものは、達成するのが難しい目標となってしまうでしょう。

根拠に乏しくいい加減な放射線の健康影響の説を反原発の論拠に用いたら世間からの信用を落としていくだけですし、反原発の論が社会からまともに相手をして貰えなくなってしまい損をするだけです。
ジャネット・シェルマンさん、バズビーさんなどの胡散臭い人達は、反原発運動からはできるだけ排除していった方がいいと私は思います。

(参考)奥村晴彦さんによる解説
http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/stat/110913.html
このページの後半に、今回のジャネットさん達の論文の統計的な検証が示されています。
CDCの報告を元に、2000年以降のデータを比較すると、2011年が特に増えたという証拠はありません