あやしい医療機器

もうダマされないための「科学」講義』 (光文社新書)−「付録」に記載のURL集はこちら
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20111009/1318150706


世の中には、既にインチキだと分かっているのに、それを隠して知らない人達を騙そうとする人達がいます。その1つが、インチキ波動医療機器です。
日本でよく見かけるインチキ波動診断機は、アルバート・エーブラムズ博士が約100年前に考案した「ダイナマイザー」とそれに続く「オッシロクラスト」が起源になっているものも多いです。
詳しくは、マーティン・ガードナー著 市場泰男訳 『奇妙な論理II早川書房)に書かれています。
この本の「奇跡の医療機械−えせ医師たちのボロもうけ」(P167〜)より一部を引用して紹介します。

エーブラムズ博士が最初に発明したものは、「ダイナマイザー」と称する診断機械だった。これは1つの箱で、中に電線がごちゃごちゃにもつれてはいっている。一本の電線を電源につなぎ、もう一本の電線を健康な人のひたいにとりつける。患者から血を一滴とって濾紙にしませ、箱の中におく。次にエーブラムズは健康な人の腹部を手早くたたく。この人は上半身はだかで、いつも西を向いて寝かされる(その理由は説明されたためしがない)。エーブラムズはその音を聞くことによって、血液のサンプルを提供した患者の病気を診断することができたのだ!

エーブラムズ博士のダイナマイザーの理論は次の通りです。

ダイナマイザーは血液から「振動」をピックアップし、それを健康な人の背骨に伝える。背骨はそれをさまざまな波長をより分けて、それぞれを腹部のちがった部分へ送る。それらがエーブラムズ博士の熟練した軽い叩きによって検出されるのだ。
エーブラムズ博士は、血液を提供した人の病気の正体をつきとめるだけでなく、その病気がからだのどこにあるのか、どのくらい重いのかを正確に知ることができた。
…(途中略)…おしまいには、血液だけではなく筆跡のサンプルからも診断できるのを発見した。

ナンセンスですよね。ここで「振動」と訳されているのはvibrationですが、トンデモ系としては「波動」の方が馴染みあると思います。

1920年にエーブラムズは、「オッシロクラスト」という新しい発明品を完成したと発表した。これは振動数を使って〔診断でなく〕治療をするものだった。「薬はそれが効果を示す病気と同じ振動数をもっていなければならない。薬が病気を治す理由はそこにあるのだ」とエーブラムズは断言した。しかしそうだとすれば、薬を使う必要はないではないか?必要なのは、適当な振動数をもつ電波を患者にあて〔そのためにオッシロクラストを使う〕、また黴菌をいっそう効果的に殺すだけだ。エーブラムズはまた、電話を使って診断する「レフレクソホン」や、ほかのいくつかの巧妙な電気装置を発明した。

さて、この万能であるかの様なエーブラムズ博士の数々の医療機械ですが、彼の死後に中身を調べてみたところ…。

エーブラムズは1923年に死んだとき、200万ドルの遺産を残した。こんなに金がたまったのは、主として、オッシロクラストを250ドルで貸し出し〔絶対に売らなかった〕、さらにその使い方の講習料として200ドルをとったおかげだった。何百という群小のいかさま医師が機械を借り、毎月1500ドルほどをエーブラムズにもたらした。医師たちは厳重に密封された箱の中をけっして見ないと誓わされた。しかしエーブラムズが死ぬとすぐに、ある科学者の委員会がそのマジック・ボックスの1つを開け、中に何をみつけたかについて報告書を発表した。そこにあったのは電気抵抗計、レオスタット〔可変抵抗器〕、コンデンサー、その他の電機部品で、理屈も何もなくただめったやたらにつなぎ合わされていた。

さて、彼のこの機械は現在では完全にインチキであると明かされています。米国食品医薬品局(FDA)の調査で米国全土では、これらの機械が約5000台、あやしい医者や代替療法者達によって当時使われていたとのことです。

訳者注として、この様な後日談も紹介されています。

(米国)政府の科学者たちはこれらの機械を調査したさい、ある女性の血液サンプルだと称してコールタール染料のしみを電子医療財団(エーブラムズが創立した団体)へ送ったところ、その患者は「組織的血毒症」にかかっているという教示を得た。機械を分解して調べたところ、中にあったのは出力の弱い短波発信装置と、弱い磁気効果を生み出すことのできるコイルだけだった。

ちゃん、ちゃん♪ ですね。

気になるのが、最近になってエーブラムズのインチキ医療機械の由緒正しい後継機である「QRS診断機」などの波動機器が、毛髪などをそれで検査すれば放射線内部被曝の状態が分かるとして(例えば、甲状腺被曝などの診断に)宣伝されていて、中にはそれを信じてしまっている人達がいるらしいことです。検査料として1万円弱〜数万円程度もとっている様子です。
放射線被曝への不安を利用した、悪質な便乗商売だと思います。


QRS診断機の例
写真の左下に装置とコードで繋がっている棒状のものがありますが、それを握って調べたり、水に漬けて波動の情報(?)を移したりすることもあるようです。

QRSの宣伝の例
http://www.ryoshi.co.jp/qrs_genri/qrs_genri.htm#genri1 
しっかりと、アルバート・エーブラムズさんご登場です。
この宣伝の説明は信じないように…。(^^;

どうか皆さんインチキ健康診断に引っかからない様にして下さい。そして、その診断内容を鵜呑みにしたりしないで下さい。
波動測定器関係については、こちらにもよく纏められています。日本では過去にバイオシーパルス事件」などもありました。
次のリンク先を参照して下さい。
・Skeptic's Wiki−「波動」
http://skepticswiki-jp.org/wiki.cgi?page=%C7%C8%C6%B0

LFTMRAQRSMAXMIRS等の名前の付いた医療診断機器はインチキの怖れが高いので注意して下さい。
それと、あるホメオパシー団体が使っている「クォンタム・ゼロイド」も同類のインチキ機械で(こちらはラジオニクスというタイプが近いかも。でも、よく似た親戚です)、米国食品医薬品局(FDA)はその開発者のウィリアム・ネルソン(William Nelson、ビル・ネルソンとも呼ばれています)に、装置の販売および虚偽の主張を行うことを禁止する命令を出しています。彼はこれを拒否したため重詐欺容疑で起訴されましたが国外逃亡中です。ネルソン氏はハンガリーのブタペストを拠点に、米国内を含め、世界的規模で同様のインチキ装置の販売業務を展開しているとのことです。

また、EAVという診断機器も超あやしい波動機器の一種です。ご用心下さい。

この宣伝文句も怪しさが漂ってますね…。あやしい波動機器の親戚はいっぱいあります。それっぽい仕立てなので、聞き慣れない最新技術なのかとうっかり騙されちゃうのでしょうね。