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放射線の健康影響について−チェルノブイリ事故から

福島第一原発の事故は、これまで放出した放射性物質の総量などから、国際評価尺度(INES)でチェルノブイリと同じレベル7に分類されました。
とても深刻な事態ですが、これまでに大気に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの約1/10です。
とはいっても、放射線の健康被害について気になる方も多いと思います。

参考までに、チェルノブイリ事故で放出された放射性物質の影響についてのWHOの概要報告を訳してみたので紹介します。
この報告書は、疫学的な見方の解説も要所でされているので、分かり易いのではないかと思います。

<誤解している人達もいる様なので、ここに書いておきます>
※基本的に放射線は人から人へうつりません。
もし人が放射線を帯びるくらいに被曝していたら、そもそも入院して動けない状態でしょう。福島から避難してきた人達から放射線が出ていて近づくと危険かも知れないと考えて、受け入れを拒否したり、子供の間で「放射線がうつる」と仲間はずれにするイジメがあったりといった、悲しい事が起きている様です。こういった誤解による偏見と差別は無くしていかなければなりません。
もし、周囲に誤解している人達がいれば、「放射線はうつらない」と教えてあげて下さい。

[追記]
その人が着ている服に放射性物質が付着していて、それがパラパラと落ちたりして他の人に「うつる」ということはあり得ることですが、途中で既に服を着替えている場合は、そんな心配は無いですよね。
荷物にしても、避難の指示が出されている比較的放射線量の高い区域内にある場所で外にずっと置きっぱなしにしていて埃だらけ泥だらけならば放射性物質が付着して残っているかも知れません。でも、身の回りの物をそんな状態にしていた人はいないでしょう。
事故があった原発周辺の地域でも屋内にあった物ならば、気にする必要は無いと思います。

問題にしているのは、「放射線を人体が帯びてしまって、体そのものから放射線を発している」と勘違いしている人達が意外と多いということです。
もちろん、人が瀕死か即死状態になるくらいの極端に高い量の被曝をすれば人体が放射線を帯びるといった事もあり得るでしょうが、まずそんな目に遭った人が普通に歩き回れるわけは無いです。



Health effects of the Chernobyl accident: an overview
チェルノブイリ事故の健康影響:概要
Fact sheet N° 303
概況報告書 No.303
April 2006

http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html


Background
背景

On 26 April 1986, explosions at reactor number four of the nuclear power plant at Chernobyl in Ukraine, a Republic of the former Soviet Union at that time, led to huge releases of radioactive materials into the atmosphere. These materials were deposited mainly over countries in Europe, but especially over large areas of Belarus, the Russian Federation and Ukraine.

1986年4月26日に、当時は旧ソ連のウクライナのチェルノブイリにある原子力発電所の4号原子炉で爆発があり、大気中に膨大な量の放射性物質が放出されました。これらの物質は主にヨーロッパ全域の国々、特にベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの広域にわたって堆積しました。

An estimated 350 000 clean-up workers or "liquidators" from the army, power plant staff, local police and fire services were initially involved in containing and cleaning up the radioactive debris during 1986-1987. About 240 000 liquidators received the highest radiation doses while conducting major mitigation activities within the 30 km zone around the reactor. Later, the number of registered liquidators rose to 600 000, although only a small fraction of these were exposed to high levels of radiation.

最初に35万人と推定される軍からの清掃労働者あるいは「清算人」とよばれる人々、発電所従業員、地域の警察官と消防士が、1986-1987年の間に放射線を帯びた破片類の封じ込めと清掃に従事しました。約24万人の清算人が、その原子炉の周囲30kmの範囲内で主要な軽減活動を実施している間に、最も高い放射線量を受けました。後に、登録された清算人の数は60万人にのぼりましたが、放射線の高いレベルの被曝を受けたのはその内のごく一部でした。

In the spring and summer of 1986, 116 000 people were evacuated from the area surrounding the Chernobyl reactor to non-contaminated areas. Another 230 000 people were relocated in subsequent years.

1986年の春と夏に、11万6千人がチェルノブイリの原子炉の周囲の地域から非汚染地域に避難しました。その他に23万人がその後数年間で移住しました。

Currently about five million people live in areas of Belarus, the Russian Federation and Ukraine with levels of radioactive caesium deposition more than 37 kBq/m2.*1 Among them, about 270 000 people continue to live in areas classified by Soviet authorities as strictly controlled zones (SCZs), where radioactive caesium contamination exceeds 555 kBq/m2.*1

現在は、約5百万人がベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナにある放射性セシウムの堆積が37kBq/m2*1よりも多いレベルの地域に住んでいます。その中でも、約27万人はソビエトの専門家によって厳戒制限区域(SCZs)とされた放射性セシウムの汚染が555kBq/m2*1を超えている地域に住み続けています。

Evacuation and relocation proved a deeply traumatic experience to many people because of the disruption to social networks and having no possibility to return to their homes. For many there was a social stigma associated with being an "exposed person".

避難と移住は、社会的な人間関係を分断したのと、その人達が家に戻る可能性が無いことから、多くの人々に深い心の傷となる経験を与えました。多くの人にとって、「被曝者」であることは社会的な不名誉となりました。

In addition to the lack of reliable information provided to people affected in the first few years after the accident, there was widespread mistrust of official information and the false attribution of most health problems to radiation exposure from Chernobyl.

事故後の最初の数年間に人々に与えられた信頼出来る情報の欠如に加えて、公式発表の不信が広まり、そしてチェルノブイリからの放射線被曝に対する健康問題の誤った帰属がありました。

This fact sheet gives an overview of the health effects of the Chernobyl accident that can be established from high quality scientific studies. For people most affected by the accident, provision of sound, accurate information should assist with their healing process.

この概況報告書は、質の高い科学研究から立証できるチェルノブイリ事故の健康影響の概観を伝えます。事故により最も影響を受けた人々にとって、信頼出来る正確な情報の提供が彼らの立ち直りを手伝うはずです。

*1 Radioactivity from radionuclides (unstable atoms) is measured in becquerel (Bq) where 1 Bq = 1 disintegration per second and kBq/m2 = 1000 Bq of radionuclides over an area of 1 square metre. The quoted levels, 37 and 555 kBq/m2, were used by the Soviet authorities at that time to categorize the radioactivity deposition

放射性核種からの放射線はベクレル(Bq)単位で測定し、
1 Bq =1秒間に1回の崩壊とする。
kBq/m2 =1平方メートルの範囲で放射性核種が1000 Bqあることを示している。
引用した37と555 kBq/m2は、放射性堆積物を分類した当時のソビエトの権威によるものを使用した。


WHO health effects review
WHO健康影響概説

Within the UN Chernobyl Forum initiative the World Health Organization (WHO) conducted a series of expert meetings from 2003 to 2005 to review all scientific evidence on health effects associated with the accident.

国連チェルノブイリ会議の期間中に世界保健機構(WHO)主催で、その事故に関係する健康影響の全ての科学的根拠を見直すために2003年から2005年にかけて一連の専門家会議を行いました。

The WHO Expert Group used as a basis the 2000 Report of the United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR), updated with critical reviews of published literature and information provided by the governments of the three affected countries. The Expert Group was composed of many scientists who had conducted studies in the three affected countries as well as experts world wide. Special health care programmes, established to treat people in the three countries which were most affected by the accident, were also considered. This resulted in a WHO report on "Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes" (see www.who.int/ionizing_radiation).

WHOの専門家グループは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2000年の報告書を基礎として用いて、公表された文献の批判的総説および3つの被災国の政府によって提供された情報により更新しました。専門家グループは、世界中の専門家とともに3つの被災国における研究を実施した多くの科学者から構成されました。事故により最も影響を受けた3カ国の人々を治療するために立てられた特別医療計画についても検討されました。これは「チェルノブイリの健康影響および特別医療計画」に関するWHO報告となっています。(www.who.int/ionizing_radiationを参照)

The WHO Expert Group placed particular emphasis on scientific quality, using information mainly in peer-reviewed journals, so that valid conclusions could be drawn. In addition, comparisons were made with the results from studies of people involved in previous high radiation-exposure situations, such as the atomic bomb survivors in Japan.

WHOの専門家グループは、根拠がしっかりとしている結論を導きだせる様にする為に、主に査読された学術誌の情報を用いることで、特に科学的な質を重視しました。さらに、日本における原子爆弾生存者などの、それ以前の高レベル放射線被曝の状況にあった人々の研究結果との比較も行われました。

Radiation exposure
放射線被曝

Ionizing radiation exposure is measured as "absorbed dose" in gray (Gy). The "effective dose" measured in sievert (Sv) takes account of the amount of ionizing radiation energy absorbed, the type of radiation and the susceptibility of various organs and tissues to radiation damage. For most exposures from the Chernobyl accident, absorbed doses are similar to effective doses (i.e. 1Gy is approximately equal to 1 Sv).

電離放射線の被曝をグレイ(Gy)単位の「吸収線量」として測定しました。「実効線量」は、吸収された電離放射線のエネルギーの量、放射線のタイプ、および様々な臓器と組織の放射線のダメージによる感受性を考慮してシーベルト(Sv)単位で測定しました。チェルノブイリ事故からの被曝の多くに対しては、吸収線量は実効線量と類似しています(すなわち、1Gyはおよそ1 Svと等しくなります)。

As human beings we are continually exposed to ionizing radiation from many natural sources, such as cosmic rays, and naturally occurring radioactive materials in all the foods we eat, fluids we drink and air we breath. This is called natural background radiation.

宇宙線や、私達が食べる全ての食べ物や、私達が飲む液体や、呼吸する空気の中にある放射性物質から自然に発生するものなど、私達は人として多くの自然源からの電離放射線に継続して晒されています。これは自然バックグラウンド放射線と呼ばれます。

UNSCEAR reports that the average natural background radiation dose to human beings worldwide is about 2.4 mSv *2 each year, but this varies typically over the range 1-10 mSv. However, for a limited number of people living in known high background radiation areas of the world, doses can exceed 20 mSv per year. There is no evidence to indicate this poses a health risk.

UNSCEARは世界的に見た人への自然バックグラウンド放射線量の平均は毎年約2.4mSv*2であると報告していますが、この値は1-10mSv の範囲で一般的に変動します。しかしながら、世の中には限られた数の人々が高いバックグラウンド放射線の地域に住んでいることが知られており、その量は毎年20 mSvを超える可能性があります。この環境が高いリスクをもたらすことを示す証拠はありません。

For most people more than half of their natural background radiation dose comes from radon, a radioactive gas that can accumulate in homes, schools and workplaces. When inhaled, the radiation exposure from radon may lead to lung cancer. Radiation doses to humans may be characterized as low-level if they are comparable to natural background levels.

多くの人々にとって、その人達の自然バックグラウンド放射線量の半分以上は、家や学校、職場の中に蓄積することがある放射性ガスのラドンから来ています。吸い込んだ場合、ラドンによる放射線被曝は肺がんの原因になることがあります。人への放射線量は、それらが自然バックグラウンドのレベルと同程度の場合は、低レベルと見なすことができます。

*2 mSv is 1/1000 of 1 Sv
mSv は1 Svの 1/1000である。

ここでちょっと気になるのは、高いバックグラウンド放射線の地域の住民は世代を重ねていくうちに、放射線に弱い体質の人はその集団の中から少しずつ減っていき、その結果として現在の住民を調べても特に健康への影響が集団の中に有意に見い出せないという結果になっている可能性もあります。日本は比較的自然バックグラウンド放射線が低くて平均0.99mSv/年です。日本に代々住んでいる人達の中には、放射線に対して弱い体質の人も(日本の自然バックグラウンド放射線のレベルでは)健康を害することもなく普通に生活できて集団の中で特に減ることもなくそのまま含まれている可能性があります。確率はとても低いと思いますがひょっとすると人によっては放射線の高い地域(例えば >20mSv/年など)に長期間滞在すると健康に影響が出る人がいるかも知れません。
現在、福島第一原発周辺の計画的避難地域に指定されている場所からは、一般的にも放射線の影響が出やすいと考えられる妊婦さん(妊娠の可能性がある人も含む)と子供は、念のためになるべく早めに避難した方が無難ではないかと思います。

(参考)
・日本地質学会−日本の自然放射線量
http://www.geosociety.jp/hazard/content0058.html#map


Doses received from the Chernobyl accident
チェルノブイリ事故からの被曝量

Below are the total average effective doses accumulated over 20 years by the highest Chernobyl exposed populations. These can be compared with the average doses people normally receive from natural background over 20 years. Doses from typical medical procedures are also given for comparison purposes.

以下は、チェルノブイリで最も高い被曝集団による20年にわたり蓄積された総平均実効線量です。これらは、20年にわたって自然バックグラウンドから普通に放射線を受けた人々の平均量と比較することができます。一般的な医療処置による被曝量についても比較の目的で示しました。

Population (years exposed) Number Average total in 20 years (mSv)[1]
Liquidators (1986–1987) (high exposed) 240 000 >100
Evacuees (1986) 116 000 >33
Residents SCZs (>555 kBq/m2)(1986–2005) 270 000 >50
Residents low contam. (37 kBq/m2) (1986–2005) 5 000 000 10-20
Natural background 2.4 mSv/year (typical range 1-10, max >20) 48

集団(被曝した年):人数→ 20年間の平均総量(mSv) [1]
清算人(1986-1987)(高被曝):240000人→ >100mSv
避難者(1986):116000人→ >33mSv
SCZs(>555 kBq/m2)の住民(1986-2005):270000人→ >50mSv
低汚染地区(37 kBq/m2)の住民(1986-2005):5000000人→ 10-20mSv
自然バックグラウンド 2.4 mSv/年(一般的な範囲 1-10mSv, max >20mSv) → 48mSv

[1] These doses are additional to those from natural background radiation.
これらの量は自然バックグラウンドからの放射線量に加算されます。


Approximate typical doses from medical x-ray exposures per procedure:
Whole body CT scan 12mSv
Mammogram 0.13 mSv
Chest x-ray 0.08 mSv

医療用X線被曝の1回毎のおよその一般的な量
全身CTスキャン 12mSv
マンモグラフィー 0.13mSv
胸部X線 0.08mSv

While the effective doses of most of the residents of the contaminated areas are low, for many people, doses to the thyroid gland were large from ingestion of milk contaminated with radioactive iodine. Individual thyroid doses ranged from a few tens of mGy to several tens of Gy.

汚染地域のほとんどの住民の実効線量は低いのですが、多くの人々にとって、甲状腺への被曝量の大部分は放射性ヨウ素に汚染された牛乳の摂取からでした。個人の甲状腺の被曝量の範囲は数十mGyから数十Gyまでありました。

Apart from the people exposed to high levels of radioactive iodine mentioned above, only those liquidators who worked around the stricken reactor in the first two years after the accident (240 000), the evacuees (116 000), some of whom received doses well in excess of 100 mSv, and the residents of the highly contaminated SCZs (270 000), received doses significantly above typical natural background levels. Current residents of the low contaminated areas (37 kBq/m2) still receive small doses above natural background levels, but these are well within the typical range of background doses received world-wide. For comparison, the high radiation dose a patient typically receives from one whole body computer tomography (CT) scan is approximately equivalent to the total dose accumulated in 20 years by the residents of the low contaminated areas following the Chernobyl accident.

上に書いた高レベルの放射性ヨウ素に被曝した人々を別にすると、これらの事故後の最初の2年間に破壊された原子炉の周囲で働いていた清算人(24万人)、避難者(11万6千人)、100mSvをかなり超えて被曝した人達、および高汚染地域SCZsの住民(27万人)のみが一般的な自然バックグラウンドレベルを著しく上回る量を被曝していました。現在の低汚染地域(37 kBq/m2)の住民は、依然として自然バックグラウンドレベルを少し上回る量を被曝していますが、これらは世界的に見たバックグラウンド量の一般的な範囲に充分入っています。比較の為に、患者が一般的に全身コンピューター断層撮影法(CT)スキャンから受ける高い放射線量は、チェルノブイリ事故後に低汚染地域の住民が20年間で累積された総量と大体等しくなります。

Thyroid cancer
甲状腺癌

A large increase in the incidence of thyroid cancer has occurred among people who were young children and adolescents at the time of the accident and lived in the most contaminated areas of Belarus, the Russian Federation and Ukraine. This was due to the high levels of radioactive iodine released from the Chernobyl reactor in the early days after the accident. Radioactive iodine was deposited in pastures eaten by cows who then concentrated it in their milk which was subsequently drunk by children. This was further exacerbated by a general iodine deficiency in the local diet causing more of the radioactive iodine to be accumulated in the thyroid. Since radioactive iodine is short lived, if people had stopped giving locally supplied contaminated milk to children for a few months following the accident, it is likely that most of the increase in radiation-induced thyroid cancer would not have resulted.

事故当時に幼年期と青年期にありベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナにある最も汚染された地域に住んでいた人々の中に甲状腺癌の発生率の大きな増加が起きました。これは、事故後の日が浅い時期にチェルノブイリの原子炉から放出された高レベルの放射性ヨウ素によるものです。放射性ヨウ素は牧草に降り積もって牛に食べられ、牛はそれを牛乳の中に濃縮して、その後子供達に飲まれました。これは、その地方の食生活での全般的なヨウ素不足によって、より多くの放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積することになりさらに悪化しました。放射性ヨウ素は寿命が短いので、その地方で汚染された牛乳を供給して子供達に与えるのを事故後数ヶ月間止めれば、放射線による甲状腺癌の増加のほとんどが無くなるでしょう。

In Belarus, the Russian Federation and Ukraine nearly 5 000 cases of thyroid cancer have now been diagnosed to date among children who were aged up to 18 years at the time of the accident. While a large number of these cancers resulted from radiation following the accident, intense medical monitoring for thyroid disease among the affected population has also resulted in the detection of thyroid cancers at a sub-clinical level, and so contributed to the overall increase in thyroid cancer numbers. Fortunately, even in children with advanced tumours, treatment has been highly effective and the general prognosis for young patients is good. However, they will need to take drugs for the rest of their lives to replace the loss of thyroid function. Further, there needs to be more study to evaluate the prognosis for children, especially those with distant metastases. It is expected that the increased incidence of thyroid cancer from Chernobyl will continue for many years, although the long-term magnitude of the risk is difficult to quantify.

ベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナでは事故当時18才までの子供達の間で5000例近い甲状腺癌がこれまでに診断されています。これらの癌の多くは事故に続く放射線の結果として発生している一方で、影響を受けた集団での甲状腺の病気に対する集中的な医療監視が無症状のレベルでの甲状腺癌の発見ともなり、甲状腺癌の数の全体的な増加の一因となりました。幸いにも、進行した腫瘍のある子供でさえも、治療の効果が高くて若い患者の全般的な予後は良好です。しかしながら、残りの生涯にわたって甲状腺の機能を失った代わりに薬を飲まなければなりません。さらに、子供達、特に癌が遠隔転移をした子供達の予後を評価するのにはさらなる研究が必要です。チェルノブイリによって増加した甲状腺癌の発生率は長年続くだろうと予想されますが、そのリスクの長期的な大きさを定量化することは困難です。

Leukaemia and non-thyroid solid cancer
白血病と非甲状腺の固形癌

Ionizing radiation is a known cause of certain types of leukaemia (a malignancy of blood cells). An elevated risk of leukaemia was first found among the survivors of the atomic bombings in Japan some two to five years after exposure. Recent investigations suggest a doubling of the incidence of leukaemia among the most highly exposed Chernobyl liquidators. No such increase has been clearly demonstrated among children or adults resident in any of the contaminated areas. From the experience of the Japanese bomb survivors it is possible that a large proportion of the leukaemia cases that could be linked to Chernobyl have already occurred, now that 20 years have passed since the accident. However, further studies are needed to clarify this.

電離放射線はあるタイプの白血病(血球の悪性腫瘍)の原因となることが知られています。白血病のリスク増加は、日本における原子爆弾での生存者の間で最初に発見され、被爆後約2から5年で起きました。最近の調査は、最も高い被曝をしたチェルノブイリ清算人の間で白血病発生率の倍増を示しています。その様な増加は、どの汚染地域の子供や成人の住民の中にも明確に示されていません。事故から20年が過ぎた現在、日本の原子爆弾生存者の経験から得た知識から、チェルノブイリと関係していたかもしれない白血病の症例の大部分は既に発生していた可能性があります。しかしながら、これを明らかにする為にはさらなる研究が必要です。

While scientists have conducted studies to determine whether cancers in many other organs may have been caused by radiation, reviews by the WHO Expert Group revealed no evidence of increased cancer risks, apart from thyroid cancer, that can clearly be attributed to radiation from Chernobyl. Aside from the recent finding on leukaemia risk among Chernobyl liquidators, reports indicate a small increase in the incidence of pre-menopausal breast cancer in the most contaminated areas, which appear to be related to radiation dose. Both of these findings, however, need confirmation in well-designed epidemiological studies. The absence of demonstrated increases in cancer risk – apart from thyroid cancer – is not proof that no increase has occurred. Based on the experience of atomic bomb survivors, a small increase in the risk of cancer is expected, even at the low to moderate doses received. Such an increase, however, is expected to be difficult to identify.

科学者達が他の多くの臓器における癌が放射線により生じたものかどうかを究明するために研究を実施してきた一方で、WHOの専門家グループによる再検討はチェルノブイリによる放射線が起因した可能性がはっきりしている甲状腺癌とは別の癌のリスクが増加したという証拠が無いことを示しました。チェルノブイリ清算人の間の白血病リスクに関する最近の研究結果を別にすると、複数の報告書は最も汚染した地域において閉経前の乳癌の発生率がやや増加することを示していますが、これは放射線量と関連している様に見えます。これらの研究結果は、しかしながら、綿密に計画された疫学調査での確認が必要です。甲状腺癌とは別に、発癌リスクの増加の証明が無いという事は何も増加が起こらなかったという証拠ではありません。原子爆弾生存者の経験からの知識に基づけば、低から中程度の量の被曝でさえも発癌リスクの若干の増加が予想されます。その様な増加は、しかしながら、確認するのが難しいと予想されます。

[追記]
このWHOの報告書は、チェルノブイリ事故から20年後にまとめられたものですが、20年を過ぎてから発生が増加していく癌などの病気がある可能性もあります。健康調査は現在も複数の国が協力して引き続き行われているので、事故後30年などの区切りにその後の調査結果も新たに加えて再び報告書としてまとめられていくのではないかと思われます。


Mortality
死亡率

According to UNSCEAR (2000), 134 liquidators received radiation doses high enough to be diagnosed with acute radiation sickness (ARS). Among them, 28 persons died in 1986 due to ARS. Other liquidators have since died but their deaths could not necessarily be attributed to radiation exposure.

UNSCEAR (2000)によると、134人の清算人が急性放射線症(ARS) と診断されるのに充分に高い放射線量を受けました。それらの人達の中で、1986年にARSで28人が死亡しました。それ以降に死亡した清算人達については、彼らの死は必ずしも放射線被曝によるものではない可能性があります。

An increased number of cancer deaths can be expected during the lifetime of persons exposed to radiation from the accident. Since it is currently impossible to determine which individual cancers were caused by radiation, the number of such deaths can only be estimated statistically using information and projections from the studies of atomic bomb survivors and other highly exposed populations. It should be noted that the atomic bomb survivors received high radiation doses in a short time period, while Chernobyl caused low doses over a long time. This and other factors, such as trying to estimate doses people received some time after the accident, as well as differences in lifestyle and nutrition, cause very large uncertainties when making projections about future cancer deaths. In addition, a significant non-radiation related reduction in the average lifespan in the three countries over the past 15 years caused by overuse of alcohol and tobacco, and reduced health care, have significantly increased the difficulties in detecting any effect of radiation on cancer mortality.

事故からの放射線を被曝した人達が生存している期間は、癌による死亡者数の増加が予想できます。個々の癌が放射線により生じたものかを判断することは現在不可能なので、そのような死亡者数は原子爆弾生存者とその他の高い放射線量を被曝した集団の研究からの情報や見積もりを用いて統計的に推定することしができません。注意しなければならないのは、原子爆弾生存者は高い放射線量を短期間に受けたことであり、一方でチェルノブイリは長期間にわたる低い量の被曝を起こしました。この事とその他の要因(例えば人々が事故後しばらくしてから被曝した量の推定の試みなど)は、生活スタイルや栄養状態の違いとともに、将来の癌による死亡についての予測を立てる場合にとても大きな不確実性を引き起こします。それに加えて、3カ国における過去15年にわたるアルコールやタバコの乱用に起因する非放射線による平均寿命の有意な低下と医療の悪化が、癌死亡率に関する放射線の影響を見出す困難さを著しく増やしてきました。

Although there is controversy about the magnitude of the cancer risk from exposure to low doses of radiation, the US National Academy of Sciences BEIR VII Committee, published in 2006, a comprehensive review of the scientific evidence, and concluded that the risk seems to continue in a linear fashion at lower doses without a threshold (this is called the “linear no-threshold” or LNT model). However, there are uncertainties concerning the magnitude of the effect, particularly at doses much lower than about 100 mSv.

低い量の放射線被曝による発癌リスクの大きさについては論争があるものの、全米科学アカデミーのBEIR VII委員会は2006年に科学的根拠の包括的な総説を公開し、そのリスクは、低量では閾値無しに直線的に続く(これは「閾値無し直線」またはLNTモデルと呼ばれます)と思われると結論しました。しかしながら、その影響の大きさに関しては、特に100mSvくらいよりずっと低い量については不確かさがあります。

The Expert Group concluded that there may be up to 4 000 additional cancer deaths among the three highest exposed groups over their lifetime (240 000 liquidators; 116 000 evacuees and the 270 000 residents of the SCZs). Since more than 120 000 people in these three groups may eventually die of cancer, the additional cancer deaths from radiation exposure correspond to 3-4% above the normal incidence of cancers from all causes.

専門家グループは、最も被曝量の高い3つの集団(24万人の清算人;11万6千人の避難者;27万人のSCZsの居住者)の中で、その生存期間にわたり癌死亡者が4000人まで追加される可能性があると結論しました。これら3つの集団内の12万人よりも多い人々は最終的に癌で死亡するでしょうから、放射線被曝により追加された癌死亡は全ての原因による通常の癌発生率に3-4% 分を上乗せすることに相当します。

Projections concerning cancer deaths among the five million residents of areas with radioactive caesium deposition of 37 kBq/m2 in Belarus, the Russian Federation and Ukraine are much less certain because they are exposed to doses slightly above natural background radiation levels. Predictions, generally based on the LNT model, suggest that up to 5 000 additional cancer deaths may occur in this population from radiation exposure, or about 0.6% of the cancer deaths expected in this population due to other causes. Again, these numbers only provide an indication of the likely impact of the accident because of the important uncertainties listed above.

ベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナにある放射性セシウムの堆積が37 kBq/m2の地域の5百万人の住民の中での癌死亡に関する予測は、はるかに不確かです。なぜなら、その人達は自然バックグラウンド放射線レベルよりわずかに多い量を被曝しているからです。予想は、一般的にLNTモデルに基づいていて、放射線被曝によりこの集団では5000件の癌死亡の追加が起きる可能性がある、あるいはこの集団において予想される癌死亡の約0.6%は他の原因によることが予想されると示唆しています。繰り返しますが、上で述べた重要な不確実性がありますので、これらの数は事故の予想される影響の目安を提供しているのに過ぎません。

Chernobyl may also cause cancers in Europe outside Belarus, the Russian Federation and Ukraine. However, according to UNSCEAR, the average dose to these populations is much lower and so the relative increase in cancer deaths is expected to be much smaller. Predicted estimates are very uncertain and it is very unlikely that any increase in these countries will be detectable using national cancer statistics. *3

チェルノブイリは、ベラルーシ、ロシア連邦、ウクライナの外にあるヨーロッパでも癌を引き起こすかもしれません。しかしながら、UNSCEARによれば、これらの集団の平均被曝量はずっと低いので関連した癌死亡の増加はとてもわずかであると予想されます。予想される推定はとても不確かでありこれらの国々での増加は国の癌統計を用いて見出せる可能性は極めて低いと思われます。*3

*3 On 24 April 2006, estimates of the Cancer Burden in Europe from the Chernobyl Accident will be published in the International Journal of Cancer and on the IARC website: www.iarc.fr.

2006年4月24日に、「チェルノブイリからのヨーロッパにおける癌の負担」の見積もりがthe International Journal of CancerとIARCのウェブサイト(www.iarc.fr.)で公開された。


Cataracts
白内障

The lens of the eye is very sensitive to ionizing radiation and cataracts are known to result from effective doses of about 2 Sv. The production of cataracts is directly related to the dose. The higher the dose the faster the cataract appears.

目の水晶体は電離放射線に対する感受性がとても高くて、白内障は約2Svの実効線量によって起きることが知られています。白内障の発症はその量と直接関係しています。その量が高い程、より早く白内障が現れます。

Chernobyl cataract studies suggest that radiation opacities may occur from doses as low as 250 mSv. Recent studies among other populations exposed to ionizing radiation (e.g. atomic bomb survivors, astronauts, patients who received CT-scans to the head) support this finding.

チェルノブイリでの白内障の研究から、放射線による混濁が250mSvの低い量から起きる可能性があります。電離放射線に被曝したその他の集団(例えば、原子爆弾生存者、宇宙飛行士、頭部にCTスキャンを受けた患者)についての最近の研究は、この知見を支持しています。

Cardiovascular disease
心臓血管系疾患

A large Russian study among emergency workers has suggested an increased risk of death from cardiovascular disease in highly exposed individuals. While this finding needs further study with longer follow-up times, it is consistent with other studies, for example, on radiotherapy patients, who received considerably higher doses to the heart.

緊急作業員についての大規模なロシアでの研究は、高いレベルの被曝を受けた人での心臓血管系疾患による死亡リスクの増加を示唆しています。この知見は長期間追跡したさらなる研究が必要ではありますが、例えば心臓に高いレベルの量の放射線を継続して受けた放射線治療患者などの、その他の研究結果とも一致しています。

Mental health and psychological effects
心の健康と精神的的な影響

The Chernobyl accident led to extensive relocation of people, loss of economic stability, and long-term threats to health in current and possibly future generations. Widespread feelings of worry and confusion, as well as a lack of physical and emotional well-being were commonplace. The dissolution of the Soviet Union soon after the Chernobyl accident, and the resultant instability in health care, added further to these reactions. High levels of stress, anxiety and medically unexplained physical symptoms continue to be reported among those affected by the accident.

チェルノブイリの事故は、広範囲の人々を移住に追い込み、経済的な安定を失わせ、現在と将来の世代での長期間の健康への恐れをもたらしました。心配と困惑の感情の蔓延は、心身の健康の欠如と共に、ありふれた状態になっていました。チェルノブイリ事故後しばらくしてのソ連の崩壊と、その結果としての健康管理の不安定は、さらにこれらの感情的な反応を増加させました。強いストレス不安神経症医学的に説明できない身体症状が、事故の被災者達の間で報告され続けました。

The accident has had a serious impact on mental health and well-being in the general population, mainly at a sub-clinical level that has not generally resulted in medically diagnosed disorders. Designation of the affected population as “victims” rather than “survivors” has led to feelings of helplessness and lack of control over their future. This has resulted in excessive health concerns or reckless behaviour, such as the overuse of alcohol and tobacco, or the consumption of mushrooms, berries and game from areas still designated as having high levels of radioactive caesium.

この事故は、主にほとんどの場合は医学的に疾患と診断されない無症状のレベルで、一般住民の精神衛生と健康に深刻な影響をもたらしました。被災民を「生存者(survivors:前向きなイメージ)」ではなく「犠牲者(victims:後ろ向きなイメージ)」とするのは、無力感やその人達の将来を通じてのコントロールの欠如の感覚をもたらしました。これは、過剰な健康不安や、アルコールやタバコの乱用、まだ放射性セシウムレベルが高いと指定される地域から採取したキノコ、ベリー、獲物の肉を食べるという無謀な行動をもたらしています。

Reproductive and hereditary effects and children's health
生殖と遺伝的な影響および子供達の健康

Given the low radiation doses received by most people exposed to the Chernobyl accident, no effects on fertility, numbers of stillbirths, adverse pregnancy outcomes or delivery complications have been demonstrated nor are there expected to be any. A modest but steady increase in reported congenital malformations in both contaminated and uncontaminated areas of Belarus appears related to improved reporting and not to radiation exposure.

チェルノブイリ事故で被曝した多くの人々が低い放射線量を受けたとしても、生殖能力には影響が無く、死産数、悪い妊娠の結末や出産合併症への影響が無いことが示されていますし、そのどれもが予想されていません。改められた報告ではベラルーシの汚染された地域と汚染されていない地域の両方において報告された先天性奇形はわずかだけれども安定した増加が見られますが、放射線被曝とは関係が無さそうです

福島出身の女性と結婚すると、将来子供を産めないか生まれた子に障害がでるのではないかといって「婚約破棄」をするといった愚かなことをする人達も出てきている様です。福島の事故と比べてずっと放射線の被曝量が多かったチェルノブイリ事故の被災者の間にさえ、明確に問題は見出せなかったのですから、そういった恐れは杞憂だろうと思います。
もっとも、女性に対してその人の人格を尊重するのではなく子供を産む道具の様に見ていて、急に手のひらを返して欠陥品扱いし「婚約破棄」する様な人達とは結婚しない方が良いかもしれませんね。


以上、チェルノブイリ事故による放射線の健康への影響についてまとめた報告書を読むと、現時点での福島の事故は内陸部の汚染状況を比較するとそれよりも放射線量がずっと少ないことから、比較的放射線量の高い地域(原発周辺とその北西部)に長期間滞在しなければそれほど大きな問題は無さそうです。
水道水や牛乳や野菜類・肉類を含めた飲食物も放射能の検査が行われて基準値を超える物は極力排除されているので、これらを介した内部被曝も限られており、あまり心配し過ぎる必要は無いと思われます。
今後の問題としては、現在でも事故のあった原発から海に汚染水の流出が続いており、特に放射性セシウムなどの寿命の長い放射性物質がどの様に海の生物に影響していくのかはまだよく分からず、きちんとした監視が必要だろうと思います。