牛にホメオパシーが効くってホント?

さて、昨年末に一部で話題となった、朝日新聞社WEBRONZAに掲載された記事「『牛にもホメオパシー』〜本場スイスのホメオパシー療法の現在」(岩澤里美)に関してです。
http://webronza.asahi.com/global/2010121000001.html

この記事で紹介された、ホメオパシーADHDが顕著に改善したとする二重盲検の話については、Mochimasaさんがブログで解説し論破しています。

朝日新聞WEBRONZAの記事で紹介されたホメオパシーADHDが顕著に改善したとする二重盲検の話は本当か? 
http://d.hatena.ne.jp/Mochimasa/20101226/p1

やはり、色々と調べてもホメオパシーによるADHDの治療は望めなさそうですね。

この問題の記事のタイトルにもなった「牛にもホメオパシー」について調べてみました。
最近の総説(Review)を紹介します。

Management of mastitis on organic and conventional dairy farms
有機または従来の酪農場における乳腺炎の管理
http://jas.fass.org/cgi/content/short/jas.2008-1217v1
P. L. Ruegg, J. Anim. Sci., 2009 Apr;87(13 Suppl):43-55. Epub 2008 Sep 26.

無症候性乳腺内感染について、ホメオパシーを含む混合療法の小規模なランダム化比較臨床試験が行われたが、有意な治療効果は報告されていない。(Tikofsky and Zadoks, 2005)

そして、ホメオパシーに関する説明の項にはこう書かれています。

ホメオパシーのレメディは、微生物が同定される前の時代に、最初にドイツで広められて人の様々な病気の治療として大人気を得た。
ホメオパシーの総括的なレビューはこの総論の範囲を超えるが、獣医学でのホメオパシーについて特に言及している少数の論説を評価するのは難しくない。

Egan (1998)は、アイルランドにある研究所で泌乳牛(n = 188)に12ヶ月間ホメオパシー・ノソード(希釈した病因物質に由来したレメディ)または偽薬を投与した。臨床型乳房炎がホメオパシー群で39%、偽薬群で35%の牛にそれぞれ発症し、分房から病原菌が単離された頻度に有意差は無かった。

Hektoenら(2004)は、ホメオパシーと偽薬、抗生物質による治療の有効性を比較したランダム化臨床試験の結果を報告した。
この試験は39の群れからの57頭の牛を参加させ、様々な結果判定法が使用された。
細菌学的反応と共に、その研究は治療後の臨床症状(体温、食欲、炎症、その他)における急檄な変化(0から7日)と長期間(28日まで)の慢性変化(乳房線維症、カリフォルニア乳房炎テスト、影響を受けた分房での牛乳の生産量)を評価する明確な採点システムを用いている。
著者らは、サンプルサイズが小さく、全ての治療の全般的な長期的な結果は比較的粗末であると指摘した。しかしながら、ホメオパシー治療の有効性が偽薬よりも上回っているという証拠はどの時期でもはっきりしなかった。

市販のホメオパシー・ノソードのSCC(体細胞数)に影響する能力がイギリスの単一の乳牛群にいる152頭のHolstein- Friesian牛において評価された(Holmesら 2005)。そのノソードまたは対照溶液が陰門の粘膜上に局所的に投与された。28日間の追跡期間にわたってSCCの日間変動には有意差があったが、治療に基づいた観察には有意差は無かった。

獣医学でのホメオパシーについて有効性があるとするデータはほぼ完全に欠けていると思われる。

獣医学でのホメオパシーの最近の批判的な総説の著者は、”子牛下痢、乳中の体細胞数、牛乳房炎、およびイヌアトピー性皮膚炎を含む、獣医学的な薬におけるよくデザインされた少数の試験についても、ホメオパシーの有効性を示すのに失敗している”と述べている(Rijnberk and Ramley, 2007)。

そして、最後に

科学的な根拠に欠けているに、ヨーロッパの生産者は、科学的な根拠や獣医学の専門的な認定よりも重視している個人的体験に基づいてホメオパシーを選んでいると表明した(Hektoen, 2004)。

バッサリと切り捨てですね。
さて、こんな風に獣医学界からもケチョンケチョンのホメオパシーですが、つい最近になってこんな論文が出ました。

Efficacy of homeopathic and antibiotic treatment strategies in cases of mild and moderate bovine clinical mastitis.
軽度から中程度の牛の臨床的乳腺炎のケースでのホメオパシー抗生物質の有効性
Werner C, Sobiraj A, Sundrum A.
J Dairy Res. 2010 Nov;77(4):460-7. Epub 2010 Sep 8.
http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=7909454 

この論文はこう結論しています。

この結果は、軽度から中程度の臨床的乳腺炎のケースではホメオパシーの治療による治療効果を示唆している。しかしながら、治療法と微生物的な状態に関わらず、全体の治癒率は低く抗生物質ホメオパシーによる治療の両方の効果に限界があることが明かとなった。

この論文に喜んだのは、Dana Ullmanなどのホメオパス達です。ホメオパシー抗生物質と同じくらいの効果があると宣伝し始めました。
http://homeopathyworldcommunity.com/profiles/blogs/homeopathic-medicines-are-as

この動きに対して、早速ツッコミが入ってました。
・Can Homeopathy Cure Mastitis in Cows?
ホメオパシーは牛の乳腺炎を治せるか?
September 12, 2010
By Le Canard Noir
http://www.quackometer.net/blog/2010/09/can-homeopathy-cure-mastitis-in-cows.html

この論文の矛盾を良く突いているので、紹介します。

Dana Ullmanは、またしてもホメオパシーの試験を誤って伝えることをやらかした。この誤魔化しは論文が実際にそう言っていると読ませている。新たな研究が、あたかも牛での乳腺炎の治療にホメオパシーが使えるかの様にThe Journal of Dairy Researchに掲載された。

この論文は使えると示すのに失敗している。そうしたことは、驚くことではない。これらの牛達は、あたかも薬である様に水滴を与えられている:ホメオパシーは18世紀から広まった健康にまつわる迷信である。もちろん効かない。

驚くことは、あたかもホメオパシーニセ科学の明確な有益性の証拠であるかの様に、ホメオパシー界がこの否定的な研究にまたもや飛びつきつつあることだ。Dana Ullmanは、アメリカの有力なホメオパシー療法の布教者であり、web上にホメオパシー乳腺炎治療に対して抗生物質と同じ程度の効果があると投稿し続けている。

ホメオパス達としては、ちょっとでもホメオパシーが有効だと書かれていれば、その部分だけに飛びつきたくなるのでしょうね。
彼による、この論文の批評です。

Efficacy of homeopathic and antibiotic treatment strategies in cases of mild and moderate bovine clinical mastitis(1)と題されたこの論文は、牛達がホメオパシーな水滴、抗生物質、または治療無し(偽薬)にどう反応するかを観察したものである。

計136頭の牛達が3つのグループに分けられ、それぞれ’クラシカル(伝統的)ホメオパシー’、抗生物質、または偽薬が与えられた。牛達は、感染により乳房の炎症を引き起こす微生物を感染されられてから0, 1, 2 および 7, 14, 28 および 56日後に検査された。

Dana Ullmanは、この試験の結果は抗生物質と同程度の効果がホメオパシーにあり、この効果は偽薬群よりもずっと高いと証明されたものだと話している。
この論文は実際には何を語っているのか?

28日後と56日後において、微生物陰性のケース(n=56)での臨床転帰および全治癒率については治療法に顕著な差は無かった。
病原体陽性の乳腺炎のケース(n=91)では、4週間後と8週間後の治癒率は、ホメオパシー抗生物質による治療の2つの治療法の間で同様であったが、56日後でのホメオパシーと偽薬による治療の間には有意差(P<0•05)があった。


そして著者らは大胆な主張をしている。

この結果は、軽度から中程度の臨床的乳腺炎のケースではホメオパシーの治療による治療効果を示唆している。

さて、治療効果を示唆しているとの結論は、どうなんでしょう?
ここで、次の重要ポイントを指摘しています。

しかしながら、治療法と微生物的な状態に関わらず、全治癒率は低く、抗生物質ホメオパシーによる治療の両方の効果に限界があることが明かとなった。

結局、ホメオパシーが効いたっていう証明になっていないじゃない。
彼は、統計的有意差の指標であるp値の解説に入って行きます。

著者らは、ホメオパシーは p値が0.05よりも小さい56日後におけるホメオパシーで治療した牛達と偽薬群の間に統計的な有意差を見つけたという事実に基づいて、治療効果があると主張したい様だ。

p値は臨床研究者がある結果が偶然よりも治療によるものである可能性が高いかどうかを見るのに使う標準的な方法である。集計した後に、偶然に得られる結果の95%よりも高い結果の様であれば、少しは確からしいとみなせると信じ始めることができる。

しかしながら、p値によって誤った方向に導かれ易い状況が多い。
その状況の1つは、実験で多くの測定をして、その内の1つが’有意’を示した場合に肯定的な結果を主張するものである。

これはまさにWitzenhausenの研究者達がやった事と似ている様に思える。彼らは3つの異なる治療法について多くの日で牛達を検査していた。この計測の中のたった1日についてのみが、統計的に有意な結果なのである。

そして、この論文のトリックの種明かしをしています。

もしあなたが20の計測を行い、20分の1の確率で有意より上の結果がランダムに得られるとしたら、全く効果の無い治療法でさえも’肯定的な’結果が得られても驚いちゃいけない。

この試験が1つかそれ以上の計測での偽陽性結果を生み出す見込みは五分五分よりも大きく見える。上手に行われる研究は、多計測の問題を考慮する−Wernerの乳腺炎試験はそうだとは思えない。

そういうことで、ホメオパシー抗生物質もどちらも高い’治癒率’を出さなかったというその研究者達の注釈も、驚くものではない。この試験の全ての治療群が偽薬とほとんど区別がつかないように見える。

さらに、この論文の試験で見落とされている可能性のあるものを指摘しています。

しかし、本当に、抗生物質群は少なくとも何頭かの牛達を治癒しなかったのだろうか? まあ、必ずしもそうではないか。乳腺炎は制御するのが難しい問題だ。

感染の影響を最小にする為には、本当に’総合的(holistic)’なやり方をする必要があり、抗生物質の使用はその一部である。適切な衛生管理、餌やり、および群れの管理が要求される。

抗生物質耐性が問題である可能性があるし、何頭かの牛達は慢性的な感染症を患う傾向があり、これが他の牛達に再感染し得る。単一の抗生物質の使用そのものが不十分であり、軽度から中程度の感染が治療にも関わらず残った可能性がある。特に、試験の期間中にその他の群れ管理の調整が実施されていない場合には、抗生物質使用群が対照群よりも良くなかったことは、大した驚きではないだろう。

これまでもずっとそうですが、ホメオパシーを用いた治療が有効だとした研究には、いずれも不備があるんですよね。この論文もその1つでしょう。

彼の、ホメオパス達への批判です。

Dana Ullmanの投稿では、ホメオパスは新たなホメオパシーの勝利を祝っており、今や通常の薬と同じ程度だと言えるとしている。

Debby Bruckは、そのフォーラムの主催者であるが、この研究はホメオパシーが効果的だと示すのに失敗している事実にも関わらず、”もっとこの様な獣医学研究がなされたら、農家がホメオパシーを使う理由をさらに証明できるだろう” と語っている。

Dr Muhammed Rafeequeはこの研究が偽薬対照群より一貫して効果が上回ることを示すのに失敗しているのにも関わらず、”この様な情報は懐疑主義者達によって推進された’プラセボ効果’ 宣伝を明確に反証するものだ”と言っている。

Dr. Sushil Bahlは、”科学の世界はいつも否定様式だ”と言っているが、恐らくこの研究は迷信的な薬に関する効果の良い証拠だと考えていることだろう。

誰もこれまでその要旨を読んでさえいないことは明かであり、もしも読んだらそれを重んじた評価をしないだろう。

この様にして、ホメオパシーは続くのである。

この研究が、牛達がホメオパシーで治療可能であり、だから”プラセボではあり得ない”と示すために光の中へ引きずり出されると思って間違いない。(中略)
この研究は、超希釈のナンセンスを推進するのに利用されたゴミ科学の大きく積み上げられた山に加えられるだろう。そして、もし農民の誰かがこれに騙されたとしたら、彼らの牛達は苛まれるだろう。

ホント、困ったものですね。牛さん達も、いい迷惑かも。
動物全般に、このナンセンスな論文が都合良く宣伝されて広まらないと良いのですが…。

[追記]
Dana Ullman氏の著書の1つが、由井寅子氏の監修により翻訳され出版されています。JPHMAとも仲良しなのね(^^;)
『世界の一流有名人がホメオパシーを選ぶ理由(ホメオパシー出版刊)』