Nature誌のSTAP細胞論文取り下げ告知文に関する経緯について
若山さんとやりとりした結果、STAP細胞論文取り下げ告知文に関する混乱の経緯が判明しました。
若山さんがNature誌に送った取り下げ理由(5)のSTAP幹細胞の遺伝子解析の結果について説明した英文が誤読を招くもので、それによって若山さんが意図した意味ではない解釈をされたことが原因でした。
以下は、若山さんの説明です。
1. 論文撤回理由書がnatureから出される直前になって、FLSにはCAG-GFPだけではなく、15番染色体上に存在する遺伝子のプロモーターにGFPをつないだものが合わせて導入されている可能性が示唆されました。ですので、第三者機関のCAG-GFP遺伝子は15番染色体上のゲノム配列に隣接していたという調査結果自体は誤りではありませんでしたが、レポーター遺伝子自体が異なっているいう想定外のことが起きていたため、より詳細な解析が必要となりました。
この事態を受けて、私は「15番染色体」という部分、およびマウスの特定ができなくなったことから、「このマウスを維持していない」という文章の削除もnatureに依頼しました。私がnatureにこの依頼を行ったことは事前にCDBを通して笹井先生、丹羽先生にも伝えられており、発表時には情報は共有されていました。
また、修正はプリント版では間に合わなかったため、オンライン版でのみの修正となっています。2. 論文の撤回理由書がnatureに掲載された後に、主に理由(5)の部分について、「STAP幹細胞に導入された遺伝子が若山研のマウス、細胞と一致した」と記載されているがそれは事実か?という複数の問い合わせを受け、それは事実ではない旨お伝えしました。
また私はそのような主旨の撤回理由書は書いていないともお伝えしました。3. その後、笹井先生からも一切の修正を行っていない旨連絡を頂き、事実関係を確認したところ、
The GFP transgene insertion site matches that of the mice and ES cells kept in the Wakayama laboratory.
の"The GFP transgene insertion site”が何を指すのかが分かりにくかったため、これは18番にGFPが挿入されたマウス・ES細胞についての記載だったのですが、FLSについてと解釈され、混乱が生じていたことが判明しました。4. 従って最終原稿から修正が行われた箇所は15番染色体に関することのみで、Natureの編集部、笹井先生、小保方さんが私を含む他の著者に無断で原稿を修正した事実はありません。
1.の「FLSにはCAG-GFPだけではなく、15番染色体上に存在する遺伝子のプロモーターにGFPをつないだものが合わせて導入されている可能性が示唆された」件について、言葉の説明だけでは分かり難いと思うので、後ほど図解をして説明したいと思います。
→幾つか候補となる挿入パターンを紹介する図解をしようと思っていましたが、まだ解析途中なので不確定なものを出すと誤解の元になる可能性があり、解析が完了するまで待つことにしました。
代わりに、2014/6/16の若山さんの記者会見で配布された第三者機関による遺伝子解析結果を示して、現在どの様になっているのか説明をしました。
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20140712/1405180002
3.の説明です。次の文ですが、
The GFP transgene insertion site matches that of the mice and ES cells kept in the Wakayama laboratory.
と、The が文頭にあるので、The GFP transgene insertion site の「The」が前文を受けたものと解釈できて、”the eight STAP-SC lines”のGFP transgene insertion site と読み取れてしまいます。
理研による日本語訳でも、
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/topics/2014/20140702_1/140702_1_5_jp.pdf
この文章の部分が、「これらの挿入されたgfp遺伝子の部位は、若山研究室で維持されていたマウス及びES細胞のものと一致している。」となっており、文の前後関係からThe GFP transgene insertion site のTheが「これら=前文のSTAP幹細胞」を指すとして訳されたものと思われます。
この日本語訳は英語原文を忠実に訳した結果ですが、若山さんが意図した意味とは異なっています。
若山さんの意図は、そうではありませんでした。
英文を修正していく過程で、The GFP transgene insertion site のTheが指し示すものが違ってしまう結果となりました。
次に示すのは、若山さんがNature誌とやりとりしていた際のゲラ刷りです。<2014/07/22追記>
http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~twakayama/LSHP/press20140722.pdf
以上が、混乱が生じた経緯です。
STAP-SC FLS のGFP遺伝子挿入部位は、作製に使用したはずの元マウスとは異なっています。
一方、同じ元マウスから作ったES細胞は、元マウスのGFP遺伝子挿入部位と一致しています。
STAP-SC FLSの遺伝子挿入位置が15番染色体とされていたのが、挿入遺伝子の解析を進めた結果、挿入された染色体番号が不確定になったことから修正前の文で書かれていた染色体番号が削除されたために、さらに意図しない方向で読めてしまう事になってしまいました。