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再掲: 科学とは&科学研究の組み立て方

※一般的な「科学」に絞って解説します。

[科学とは]
Prentice Hall Biology(Kenneth R. Miller, Joseph S. Levine 著)より<この本は、米国の義務教育で教科書として使用されているものです>

科学とはどういうものでしょうか?
科学の目標は「自然(nature)」を調査して理解し、そこで起こる出来事を説明し、そしてこれらの説明をみんなの役に立つ予測に用いることです。

(注釈: 科学研究は、未解明の事象を調べてその仕組みを解き明かすという面白さがあり、直ぐに何かの役には立たなくても、人々の知的探求心に応え、教養を豊かにする文化的価値もあります)

「科学」とは自然界について学ぶために証拠(エビデンス)を用いる系統立てた方法です。

1.科学の特徴は自然界のみを扱うことです。
2.科学者は情報を慎重に秩序立てたやり方で集め、規則(パターン)や出来事の間にある関連性を探していきます。
3.科学者は証拠(エビデンス)を調べることによって検証することができる説明を提案します。

※「科学」という言葉は、この他にも「科学的な方法によって得られた知識の体系」という意味でも使われる場合があります。

科学は観察することから始まります。観察をして集められた情報を証拠(エビデンス)と言います。観察には、量的な観察(個数や大きさなど、数値で表せるもの)と、質的な観察(色や感触など、簡単に数値で表せないもの)があります。

科学者が観察をする時には、何かをえこひいきしたり、先に結果を思い込んで決めつけたりする等の偏りを避けて、できるだけ客観的になるように努めます。

科学者は普通、観察を行った後で推論をします。この推論はそれまでの知識と経験に基づいて行われます。得られた証拠(エビデンス)から、それを説明することができそうないくつかの仮説を立てます。(科学では、これらの仮説は検証することが可能な場合だけ役に立ちます)仮説は、それまでの知識からの推定や論理的な推論の他に、新たな想像によるものもあります。

それぞれの仮説について、それが本当に言えそうかどうかをさらに注意深く調べていきます。調べて行く過程で、仮説にも修正が加えられていくこともあります。最終的に、上手く説明ができなかった仮説は除外されて、上手く説明ができそうな仮説が残されていきます。(もし棄却されたとしても、検証された仮説は科学的な探求を進めていく上での知見として価値があります)

【科学のポイント】

◇科学者は、「自然(nature)」をより良く理解していくという目標に向かってデータを集めています。科学は進行中の過程にあり、絶対の真理ではありません。科学的な知見は、いつも新しいデータによる見直しが行われており、常に更新されています。
◇科学者に求められるのは、好奇心、正直さ、柔軟な考え方、懐疑的な姿勢、そして科学には限界があると認識していることです。
◇科学では、美醜や道徳的な正しさなどの真偽の判定をすることはできません。
◇社会において、科学者は判断の材料となる科学的な知見を提供しますが、最終的な社会的な判断は科学者のみでされるものではありません。
◇科学によって、「できる事」と「できない事」を理解しておくことは大切です。

 

[科学研究の組み立て方]

科学実験をする時の重要なポイントは、適切な対照実験を行うことです。
例えば、ある事をする効果を調べたい時には、ある事をした場合としない場合(対照実験)での結果を比較することで確かめることができますが、その他の条件を揃えて行うことが基本になります。できれば、時期による違いの影響などがでないように、それらを同時に行うことが望ましくなります。

実験の結果に影響を与える可能性がある条件として、例えば植物を育てる場合でしたら、気温、湿度、水やりの量と頻度、肥料の種類と濃度、育てる土の質、日照時間、病虫害の有無、などが考えられます。ある肥料の効果を調べたい時に、肥料の他に気温や水やりの状態なども変わってしまうと、その結果が肥料による効果なのか、気温の違いによるのか、水やりの量の違いのせいなのかどうかを判別することが難しくなります。肥料の効果を調べたければ、肥料についてだけ変化させて、その他の条件は変えずに実験を行うと結果の解釈がし易くなります。(実験計画法という解析手法によって複数の因子の条件を同時に変化させて相互作用などを調べる方法もありますが、解析がちょっと複雑になります)
 
ここで、注意をしなければならないのは、実験に使う植物の数です。この植物を全く同じ条件で育てても背丈や実の数などにある程度の差が出るのが普通です。それぞれの条件で育てる植物の数(サンプル数)が少しずつ(1〜3株)の比較だと偶然に背の高いものや実の少ないものばかり集まってしまうことが考えられるので、それぞれの条件で育てる植物をもっと多い株数(例えば20株ずつ)にしてその平均値で比較する方がより正確になります。

何かを測定してデータを出す場合、常に誤差というものが入ってきます。計測する装置が出す数値のふらつき、目盛りを読み取る人の目分量による微妙な差など、同じ物を測定しても必ずしも全く同じ値が常に出されるわけではありません。1つのサンプル(試料)を何度も測定したり、サンプル数をなるべく多くして実験したりすることで、誤差の影響を減らすことができます。そのデータを統計という手法を使って平均値(データの分布の状況によってはデータを小さい順に並べたとき中央に位置する値=中央値を出す場合もあります)とデータの分布の幅やその確からしさの範囲を出して比較するのが慎重なやり方です。(よく使われるのが95%信頼限界という範囲で、この範囲すなわち信頼区間の間に真実の値が含まれている確率が95%になります。より正確な解説はこちら:信頼区間って何? )。データの確からしさの範囲を見ながら比較をするのも大切なポイントです。この確からしさの範囲は、グラフにエラーバーとして表示されたりします。

特に人を対象にして何かの効果を調べる場合はプラセボ効果ホーソン効果などによる心理的な影響を考慮する必要もあります。

プラセボ効果とは、効果が全く無い「偽物の薬(プラセボ)」を飲んだ人が、それを「本物の薬」だと思い込んだ結果として出る効果で、「薬を飲んだのだから、この症状はきっと良くなるはずだ」という暗示によって実際に症状が軽くなったと感じられたりする効果です。プラセボ効果は色々な状況で影響を及ぼしますが、特に痛みや気分が悪いなどの主観的な症状に対してよく現れることが知られています。「偽物の薬」には<プラセボ効果「本物の薬」には<薬の効果+プラセボ効果がでます。<薬の効果>を調べるには、対照実験として「偽薬」を使ったものも同様に行い、プラセボ効果を差し引いて判定できるようにする必要があります。

※患者を未治療にする危険性を回避するために、偽薬の代わりに別の従来から使われている薬を使って、その薬との効果の比較検討をすることもよく行われています。この場合、「新薬A」には<Aの効果+プラセボ効果>、「従来薬B」には<Bの効果+プラセボ効果>がでることになります。両方を比較して、新薬Aの効果を判定します。

ホーソン効果とは、「誰かが自分に関心を持ってくれている、期待してくれている」と意識することで行動パターンを変えてしまうことによる効果です。医師の熱心な態度や与えられたものが「良く効く薬」だと思えば、それによる改善を期待して前向きに生活するけれども、一方で自分に与えられたものが「偽薬」だと思い込めば自分はハズレの方に振り分けられたのだと、がっかりして後ろ向きの生活をするかもしれません。こういった態度の差が出てしまっても結果に影響してきます。

それらの効果に影響されない為に、対象者にも、それを渡す医師にもどれが「本物の薬」でどれが「偽物の薬」なのか分からない様に工夫して行う必要があります。こうした方法を二重盲検法といいます。(対象者のみが、どちらか分からない様にした方法を一重盲検法といいます)

また、必要な工夫はそれだけではありません。「本物の薬」と「偽物の薬」を与える対象者のグループ分け無作為(ランダム)抽出により行うことです。病院に来た前半組と後半組、偶数番目と奇数番目などの様に規則正しく振り分けると、途中で医師が患者の薬の効き具合のパターンに気がついてしまったり、患者同士の情報交換でその振り分けのパターンに気が付いてしまったりする恐れがあります。どれが偽物の薬なのかバレてしまうと、盲検化した実験は失敗します。また、例えば花粉症などの場合を考えると、時期によって花粉が飛んでいる量が異なることで症状に差が出る可能性が高くなりますが、病院に来た順番で前半組と後半組にグループ分けをしてしまうと、それぞれのグループの対象者が吸い込んだ花粉の量の平均が異なってしまい、グループ間に薬以外の影響を与える原因が存在してしまうことになり、正しい効果の比較ができなくなるという問題もあります。色々な状況を考慮すると、対象者の各グループの振り分け方は、できるだけ不規則(ランダム)に行うことが好ましくなります。グループ分けをランダムに行った試験をランダム化比較試験(RCT)と言います。これに二重盲検法を組み合わせたものを二重盲検ランダム化比較試験と言い、人を対象とした研究ではこれが最も信頼性が高い研究とされます。

さらに、その研究の検証のポイントとしては、他の従来の知見との整合性がとれるかという事も挙げられます。従来の知見と大きく異なる結果や結論が出された場合は、特に慎重に検討する必要があります。

科学研究を行った後は論文などの形にして報告をしますが、別の人がそれを読んで、その実験などをきちんと再現して確認できるように、どの様に条件を整えて、どの様な方法でデータをとり、どの様にして解析したかなどについて詳しく書くことが求められます。これがきちんと書けているものほど信頼性が高くなります。

他の人達がその論文を読んで再現実験を行い、同じ結果が出て再現性が確かめられたらその研究の信頼性はさらに上がります。論文を発表するのには専門分野の科学誌に投稿するのが普通ですが、この場合には同じ分野を専門とする他の科学者達のチェック(査読)を受けてから出される査読誌に掲載された論文の方が、信頼性が高くなります。査読された論文の中にもピンからキリまであるのですが、一般的には掲載された科学誌の信頼性が高いものほど、きちんとした論文である場合が多いです。(一流誌でもまれに捏造論文が発覚したりするので、例外もあります)