ツイッターでの中傷投稿への法的対応事例-ネット中傷対策
この記事は、ネット中傷に悩む方々の参考として、また、ネット中傷をする人達への牽制にもなると考えて書きました。以下の流れで経緯を説明していきます。
(今回の件の中傷投稿者をX氏とします。X氏のツイッターアカウントをX1、おそらくX氏の別のアカウントと思われるものをX2・X3・X4とします)
【参考資料】(各文書のPDFをリンクしています)
※追記:被告が期限までに控訴せず、上記判決が確定しました。
※追記:「謝罪文の交付」が履行されるまでX氏に「1日につき1万円」を私に支払うことを命じる決定が出されました。
1. X2から中傷が開始される(2017年7月27日~)
X2から少なくとも52回、私を指した中傷投稿がされる
→Twitter社に通報したが「ルールに違反していない」とされる
(2017年8月1日)
→再度Twitter社に通報したが「ルールに違反していない」とされる
(2017年8月24日)
→X2はその後も私を中傷するツイートを続けたが、他の理由で凍結される
X3からの中傷が開始される(2017年12月14日~)
X3から少なくとも8回、私を指した中傷投稿がされる
→Twitter社に通報したが「ルールに違反していない」とされる
(2018年3月16日)
→X2はその後も私を中傷するツイートを続けたが、他の理由で凍結される
X4からの中傷が開始される(2018年3月20日~)
X4から少なくとも2回、私を指した中傷投稿がされる
→X4は他の中傷投稿で凍結される
※X1から中傷投稿が開始される(2018年3月26日~)
同一人物が、アカウントを変えながら執拗に嫌がらせをしている可能性が高い
2. Twitter社にX1の中傷投稿を通報する(2018年3月27日)
→「ルールに違反していない」として対処されず(2018年3月27日)
3. ツイッター社にX1の発信者情報開示請求をする(2018年4月5日)
→開示決定(2018年5月2日)
4. IPアドレスから判明したプロバイダ2社に通信ログの保存請求
(2018年5月17日)
5. X1の本人特定をする
a. 開示されたIPアドレスを基に警察に被害届をして捜査をしてもらう
(2018年5月~)
b. 本人特定(2019年3月)
被害者(私)の居住地域(北海道函館市)の警察が捜査するので、加害者(X氏)の居住地が遠方(首都圏)であり本人特定までに時間を要した。
6. 法的対処
・民事:損害賠償請求(2019年5月9日)
a. 訴状の送達
特別送達→被告が受け取らない
→休日送達→被告が受け取らない
→現地調査(送付先の住所にX氏が居住しているのを確認)
→付郵便送達
b. 判決とその内容(2019年7月17日)
損害賠償263万8000円
(内訳:慰謝料200万円、弁護士費用20万円、調査費用43万8000円)
及び謝罪文の交付が命じられる
c. 間接強制の決定(2019年10月1日)
「謝罪文交付」がされるまで「1日につき1万円」の支払いが命じられる
・刑事:告訴して処罰を求める(2019年3月)
書類送検されて函館地検からX氏の居住地を管轄する地検に移送(2019年5月)
↓2020年1月30日追記
→不起訴とされる(2019年12月20日)
↓2020年6月5日追記
→検察審査会に申し立て(2020年2月18日)
経緯の説明
1.中傷投稿がされる
<発端>r
2017年7月27日、森友学園や加計学園の政府や安部首相についての疑惑に関して、私は次のツイートをしました。
「疑われた側が潔白を証明すべし」という理屈は絶対に認めるべきではないという論調もありますが、政府や行政機関にはアカウンタビリティー(国民に対する説明責任)が当然求められます。論のすり替えでしょうね。
— 片瀬久美子🍀 (@kumikokatase) July 27, 2017
社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者に対しては、一般人とは異なりますよ。
これは、あくまで説明責任について述べたもので、証明責任について述べたものではなく、政府や内閣総理大臣といった国のトップについて生じた疑惑であれば、国民に対して説明する責任があると考えて、証明責任と説明責任のレベルを分けて説明したものです。しかし、投稿した当時から説明責任と立証責任を混同して、原告(私)が悪魔の証明を要求しているといった批判が数多く寄せられました。
Togetter【片瀬久美子】『「疑われた側が潔白を証明すべし」という理屈は絶対に認めるべきで(およいという論調もありますが、政府や行政機関にはアカウンタビリティー(国民に対する説明責任)が当然求められます』→いや知らんもんは知らんとしか言いようなくね
https://togetter.com/li/1134107
X氏のツイッターアカウントX1からの中傷投稿は、発端となった私の投稿がされてから8か月後にされたものですが、これはX2というアカウントが私の淫売疑惑を創り、私がこれを否定しなかったとする次のX2からの投稿(2017年7月27日)に関して行われたものでした。
なお、このアカウントX2もX氏が利用している可能性が高いと思われますが、本人特定はされておらず、上記ツイートは今回の法的対処の対象外です。
【X氏による投稿】
多数の中傷が投稿されましたが、その中で代表的なものとして5つを示します。
投稿1
投稿2
投稿3
投稿4
投稿5
2. Twitter社に中傷投稿を通報する
「投稿1」に気付いたので、Twitter社に嫌がらせ行為として通報しました。
しかし、「Twitterのルールには違反していない」とされてしまいました。
(補足)X氏のアカウントX1は、その後に別の投稿によって凍結されました。
X氏は、X1の他にも多数のアカウント(数百~数千規模…本人も全て覚えていないらしい)を作成しており、凍結されると次々と別のアカウントに乗り換えてツイッターでの投稿を続けているという情報を得ています。
3. ツイッター社に発信者情報開示請求をする
X氏による私への中傷の内容はどんどんエスカレートしていき、このまま放置しているとさらに酷くなっていくことが予想されました。
そしてTwitter社に通報を繰り返してなんとか凍結されたとしても、また別のアカウントに乗り換えて同じ事をすると予想されるので、X氏の中傷投稿を止めさせるのは面倒ですが本人特定をして法的な対処をすることが必要だと考えました。
私の代理人となって頂いた清水陽平弁護士と相談して、X1からの「投稿1」と、その後に投稿された「投稿2」~「投稿5」を加えて、投稿者の特定に必要な「発信者情報」の開示をTwitter社に求める申し立てを東京地裁に行いました。
東京地裁はこの申立てを相当と認めて「発信者情報を開示せよ」との仮処分が出され、Twitter社からIPアドレスとタイムスタンプのリストが開示されました。
(※開示決定文は冒頭にリンクしてあります )
参考資料として、ツイッター社から開示されたX氏からの投稿のIPアドレスとタイムスタンプのリストの一部を示します。
4. プロバイダに通信ログの保存請求をする
X氏からの投稿のIPアドレスとタイムスタンプが開示されましたが、本人特定に手間取って時間が経ってしまうと、そのままでは接続プロバイダが保有する通信ログが消されてしまうので、代理人弁護士がIPアドレスから判明したX氏が利用している接続プロバイダに、通信ログの保存請求をしておきました。
5. 投稿者の本人特定をする
函館の警察署に名誉毀損罪で刑事告訴をすることにより、同署が北海道警サイバー犯罪対策課のサポートを受けて、IPアドレスから判明したプロバイダに捜索差押えを行うことで、X氏の本人特定ができました。
本人特定には、函館の警察署から捜査員が何度も遠方に住むX氏の所(首都圏)まで行く必要があり、出張の手続きも含めて時間と手間を要したことで、約1年かかりました。遠方まで何度も足を運び、地道に捜査をして下さった刑事さんたちに心より感謝をいたします。
6. 法的対処
X氏の本人特定ができたので、悪質で執拗な中傷行為に対するお灸をすえるために、示談交渉などはせずに法的対処に進みました。刑事告訴と併せて、民事でも提訴をしました。
・民事:損害賠償請求
さいたま地裁に損害賠償と謝罪文の交付を求めて提訴しました。
事件番号「平成31年(ワ)第997号」
a. 訴状の送達までの経緯
特別送達→被告(X氏)が受け取らない
→休日送達→被告(X氏)が受け取らない
→現地調査(送付先の住所にX氏が居住しているのを確認)
→付郵便送達
訴状は、裁判所から被告に「特別送達」という方法で郵送されます。受送達者(名宛人)に、直接交付して送達を行う方法ですが、「不在(居留守を含む)」の場合は「不在連絡票」が郵便ポストに入れられて、通知されます。
被告がこれを無視した場合は、次に休日に郵便局員が配達をする「休日送達」という方法がとられますが、それでも「不在(居留守を含む)」の場合は「不在連絡票」がまた郵便ポストに入れられて通知されます。
さらに被告がこれを無視した場合、実際に送付先の住所に被告が居住しているのか、原告側に「現地調査」をするように裁判所から求められます。本件では代理人弁護士が現地に赴いて、実際にX氏がその住所に居住していることを確認して裁判所に報告しました。
被告は「居留守」を使っていると判断できたので、次に「付郵便送達」という方法がとられて、郵便ポストに投函された時点で「送達完了」となりました。
※この間、訴状の送達ができなかったので、裁判の第1回期日が2週間延期されました。
b. 判決とその内容(2019年7月17日)
損害賠償263万8000円
(内訳:慰謝料200万円、弁護士費用20万円、調査費用43万8000円)
及び謝罪文の交付が命じられました。
(※判決文は、この記事の冒頭にPDFをリンクしてあります)
<判決文の主文部分のコピー>
※被告であるX氏は、口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかったので、X氏が請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白した(全てを認めた)ものとみなされました(「擬制自白」といいます)。
いわゆる「欠席裁判」による「欠席判決」が出されましたが、慰謝料額の認定は裁判官の判断になり、原告側の主張に拘束されないため、高額を請求しても相当でない部分については認められないことが通常です。
この判決では請求した慰謝料200万円が認められましたが、これは裁判官が妥当な請求額であると判断した結果です。慰謝料200万円というのは、過去のインターネット上の名誉毀損(ネット中傷)で認められた慰謝料の中では比較的高額になりますが、投稿内容の悪質さ(原告の女性と母親という属性や研究経歴に対して愚弄の限りを尽くした嘘を創作し、さらにそれを真実だったとして流布)に加えて、裁判を起こされて逃げてしまったX氏の不誠実な態度が裁判官の心証をかなり悪くしたのだろうと推察されます。
担当裁判官は女性ですが、知り合いの裁判官経験者(男性)もX氏の中傷投稿を見て「これは酷い…」と絶句していたので、性別無関係に裁判官の一般的な認識による判断だろうと思われます。
一般的に「ネット中傷」による名誉毀損に対して認められる個人への慰謝料額の多くが10万円前後であり、その程度の額では執拗なネット中傷によって心が深く傷ついた被害者は「私の社会的名誉の価値はそれっぽっちなのか…」とさらに気落ちしてしまうでしょう。今回の判決によって慰謝料として200万円が認められた事例を増やしたことで、少しでもネット中傷被害者への慰謝料額の底上げに寄与できればと思っています。
(参考)過去のインターネット上の名誉毀損として認められた慰謝料額の分布
『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務(第2版)』
(勁草書房 松尾剛行&山田悠一郎著)
P364~365 表3「平成23年代(2008年~)の慰謝料額」のデータを使用しました。
判決文のP9~「損害」より引用
(注:この部分は訴状に書かれた原告側の主張です)
(1)総論
「本件においては、上述のとおり、被告による各投稿は原告の名誉権を侵害し、違法性阻却事由も存在しないものであることが明らかである。そのため、本件の主たる争点は損害額にあるというべきである。
名誉毀損を理由とする損害賠償においては、もっぱら100万円程度を賠償額の上限とする例が多く見られ、とりわけインターネットを利用した名誉権侵害においては損害額の算定がより謙抑的なものが多い。
しかし、インターネットやSNSの普及を受けて、インターネット上に投稿された内容の伝播力が高まっている今日において、ひとたび名誉毀損表現がなされればそれは短時間で広範囲に伝わることになる。また、クチコミサイトや掲示板サイトなどが多数立ち上げられ、サービスを利用する前にどのようなクチコミがされているのかを事前に調べることが常態化した現代社会においては、社会的評価の低下をもたらす投稿の存在の影響力は極めて大きい。これにより、被害者は社会的に抹殺されたに等しい致命的なダメージを負うケースもある。しかもインターネット上に拡散した情報は完全に消去することはほぼ不可能であり、被害者は極めて長期間にわたり損害を受け続けることになる。昨今においては、「炎上」が発生するなどして、インターネット上の物事により現実に多大な影響が出るということが頻発している。したがって、名誉毀損における損害賠償の算定は、速やかに改められることが必要である。」
(2)慰謝料
「一般的な上限額とされてきた100万円という金額は、交通事故事案における5か月間の通院慰謝料105万円(平成30年度版民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準参照)よりも低額である。交通事故における賠償額は、貨幣価値の変動なども考慮して上がっていったという歴史的経緯があるにもかかわらず、名誉毀損の賠償額はこれを考慮している様子が見られない。しかし、インターネットをはじめとしたメディアの発達、人格的な価値に対する社会評価の高まりや貨幣価値の変動などの社会情勢の変化を考えれば、今日においては、一般的な上限とされている100万円という賠償額でさえあまりに低額である。しかも、上述のとおり、インターネット上に拡散した情報は完全に消去することはほぼ不可能であり、被害者は極めて長期間にわたり損害を受け続けることになる。したがって、その損害額が交通事故によるわずか5か月間の通院慰謝料にも満たないというのは社会常識に反する。
このような問題意識を前提に『近時においては、国民の人格権に対する重要性の認識やその社会的、経済的価値に対する認識が高くなってきており、人格権の構成要素である名誉権、肖像権、その肖像、氏名、芸名及び人格的イメージの商業的利用価値及びプライバシーの権利の保護やそれらの侵害に対する補償についての要求も高くなっている。これらの法的状況と過去と現在の相対的な金銭価値観の変動を考慮すると、とかく軽く評価してきた過去の名誉毀損等による損害賠償等事件の裁判例の慰藉料額に拘束されたり、これとの均衡に拘ることは、必ずしも正義と公平の理念に適うものとはいえない。』(東京高判平成13年7月5日判例時報1760号93頁)と述べる裁判例も出ているところである。
ツイッターはインターネット上で全世界に向けて公開されているものであり、原告のツイッターアカウントのフォロワーは2万人以上いる。そのため、債権者の氏名を出した本件各投稿は極めて多くの者に閲覧されてしまっているのであり、原告の社会的評価は大きく毀損された。
そのため、その損害は金200万円を下らない。」
※再度説明すると、慰謝料については欠席裁判による「擬製自白」が成立しないので裁判官が判断をして認定する必要があります。この判決では裁判官の判断を経ても200万円が相当であるとされたので、それだけ悪質な投稿だと認定されたことになります。
※謝罪文の交付も認められましたが、これもめったに認められないものであり、ネット中傷による名誉毀損で謝罪文の交付が認められた事例を増やすことができて良かったです。
・刑事:告訴して処罰を求める
無事に告訴が受理され、X氏は書類送検されて函館地検からX氏の居住地の地検に移送されました。
現在、検察の裁定を待っています。
X氏は、独自の論理による酷い中傷を執拗に投稿してインターネット上に流布しておきながら、いざ訴えられると反論もせずに裁判から逃げてしまうという不誠実極まりない態度をとっており、反省の色も無く刑事の方で厳しく罰して頂きたいと願っております。
※2020年1月30日追記
検察は、2019年12月20にX氏を不起訴にしました。不起訴理由について説明する文書を検察に出して頂くように申立ましたが、応じて頂けませんでした。
検察審査会に「不起訴」の裁定を不服として審査を申し立てる準備をしています。
→検察審査会に申し立てをしました。(2020年2月18日)
【参考文献】
最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版 (勁草法律実務シリーズ)
- 作者: 松尾剛行,山田悠一郎
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2019/02/28
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ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求-
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- 作者: プロバイダ責任制限法実務研究会,清水陽平,田中一哉,神田知宏,高橋喜一,櫻町直樹,最所義一,中澤佑一,船越雄一
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