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「食の安全を守るための現場の取り組み」−北海道の海産物の例

2012年10月10日に函館で開催された食品安全委員会の『食品に関するリスクコミュニケーション「放射性物質と食品の安全性について」』に参加しました。

その中で海産物の安全性についての質問に答えられた北海道庁水産経営課の門脇主査の説明がとても参考になりましたので紹介します。
多くの人達に「食の安全を守る」現場の取り組みの様子について知って頂けたらと思います。

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・2012年10月10日に函館で開催された、食品安全委員会による『食品に関するリスクコミュニケーション「放射性物質と食品の安全性について」』の質疑応答より。

「食の安全を守るための現場の取り組み」
北海道庁水産林務部水産経営課 門脇主査による解説

<事前質問>
A.大間のマダラは大丈夫?(幼い孫の食事に気を使っています)
B.海産物の産地表示とトレーサビリティについて。

 道の水産経営課というところで、水産物と海水のモニタリングを平成23年の事故発生以来担当しております門脇と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

A.大間のマダラの安全性について

 大間のマダラがどうなのかという、まずご質問ですね。それと、もう1つのご質問の内容の中で、そもそも海の魚自体が大丈夫なのかという、ということも踏まえておりますので、それらについてご説明したいと思います。

 まず、いくつか判断して頂く材料がございます。

1.津軽海峡のマダラの放射性セシウムの値は基準値を下まわっている

 1つは、大間のマダラの安全性ということについて申し上げますと、北海道そして青森県は、事故発生以来モニタリング調査を周辺海域でずうっと続けています。その結果、青森県の大間ですが、もう少し広いエリアで考えますと津軽海峡ということになますが、津軽海峡からは基準値である100Bqに近いような値のマダラというのは検出されていません。まず、それが1つの判断の材料になると思います。

2.出荷制限エリアからは外れている

 もう1つは、今年6月と8月に青森県でマダラから基準値を超えるセシウムが検出されています。場所は八戸沖、それと三沢沖です。それぞれ一回ずつ検出されているのですが、現在、国は青森県に対し、マダラの出荷制限指示というものを出しておりまして、画面にも出ていますが、先ほどの得地さんの資料の2番目の資料2の一番最後の12ページを開いて頂ければと思うんですけれども、ここに地図がでていますので、この地図を見ながらちょっと話を聞いて頂きたいと思います。
この青森県の太平洋側に8月27からマダラが出荷制限と書いてあります。この四角のエリアが、マダラの出荷制限区域です。ご覧の通り、津軽海峡はその区域から外れております。ということで、津軽海峡のマダラについては通常通り食べて頂けます。これが2つ目の判断材料ということになります。

 出荷制限指示の区域を見て頂きますと、丁度津軽海峡の中心線から真東に線が引かれていまして、その南がエリアということになっています。実際に100を超えたマダラというのは、八戸沖と三沢沖ですから、かなりこの区域の南側で実は検出されていまして、尻屋の方面は検出されていません。したがって、この区域自体が、かなり安全側で設定された区域であるという風に言えると思います。尻屋崎よりまだかなり南の方でしか検出されていませんので、この辺をもう1つの判断材料にして頂きたいと思います。

3.津軽海峡にいるマダラの主群は福島県の近くから来たものではない

 それから、マダラの回遊についてですが、大間のマダラ、すなわち津軽海峡のマダラは、陸奥湾産卵群という群れが主力です。これは青森県陸奥湾で産卵して、津軽海峡を通って北海道周辺に回遊してくるという群れです。したがって、この群れは南の方から渡ってくる群れとは違います。100%この周辺で獲れるマダラがその陸奥湾産卵群であるとは断定できませんが、主群は陸奥湾産卵群なので、これがもう1つの判断材料になると思います。
ちなみに、福島県の方から渡ってくるマダラというのは太平洋北部系群と言いまして、茨城県から青森県の尻屋崎ぐらいまで回遊する魚の群れです。水研センター(元は国の研究機関)の報告によりますと、北海道系群はまた別にいまして、陸奥湾の太平洋北部系群の主流は北の方にまでは来ないということです。ただし、北海道の海域にも太平洋北部系群がしみ出してきていることは、おそらく間違い無いだろうということは水研センターの方で言っております。

4.海水魚放射性セシウムの実効半減期は約50日

 これは補足的な判断材料になりますが、新聞にも報道されましたが、マダラを含む魚類のセシウムの排出機能についての東大の研究チームの見解が最近、新聞で記事になっていました。マダラに限らず、全て魚類はそうなのですが、吸収したセシウムをエラから放出しながら泳いでくるとの内容で、これについては水研センターも同様の報告をしています。
生物学的半減期ということもあり、大体50日ぐらいでセシウムが半分になるとのことです。仮に福島県の方からマダラが泳いできたとしても、そのままの放射線のレベルで北海道の近くまで来ることはなく、かなりレベルは下がることになると思います。

 4点の判断材料を提供させて頂きましたが、これらから大間のマダラの安全性について判断して頂ければと考えています。安全か安全じゃないかということについては、いろいろと個々の方々の考え方もおありでしょうけれども、とりあえず私どもの判断基準として、基準値100Bq/kgという事に照らしてどうなのかということでご説明をさせて頂いております。
 食品安全委員会の久保順一さんからも説明がありましたが、まず、100mSvを超えないという目標設定があり、それから1年間に1mSvという目安を示し、それから換算して100Bq/kgという食品の基準値が設定されているという流れですが、これは、通常、我々の口に入る食品の半分が100Bq/kgの放射性物質を含んでいるとの前提に立って設定されたものですので、100Bq/kgという基準値は、かなり安全側に設定されているように思えます。これはちょっと余談ですけれども。

 海産物全体の安全性については、北海道周辺につきましては、昨年から36分類ということで、北海道のほとんどの魚について770回ほど検査をやってきています。その結果、マダラを除いた魚については、現在はほとんどと言っていいくらい検出されていません。得地さんの資料2の4ページに、北海道内の水産物モニタリング実施結果という表があります。マダラでセシウムの数値が70Bq/kgという最高値になっています。カラフトマス76.68Bq/kgとサンマ12.02Bq/kgという、ちょっと気になる数字が出ていますが、これは昨年の漁期にでたものです。カラフトマスでは去年の5月、サンマは去年の6月です。一度ずつこういうちょっと気になる値が検出されましたが、今漁期については、カラフトマスは1Bq/kgそこそこです。もう数回検査していますが、ほとんど出ません。それから、サンマについては全く出ませんでした。これはもう不検出です。

 原発事故発生後に、表層魚についてはやや心配な数値が全国的に出まして、北海道近辺も同様に若干高い数値が出たのですが、その後は出なくなっています。北海道の水産物は、そういう状況です。それから全国的にどうなのかということになりますと、表層魚(イワシ・サンマ・スルメイカ・カツオ・マグロなど)からは、全国的にもほとんど出なくなっています。それから、北海道周辺海域のコンブやホタテなどの貝類からは出ていません。

 今出ているのは福島県を中心とする海域の底魚で、依然として高いのが時々出ます。ヒラメ・メバルアイナメ・マダラなどです。宮城県では、ヒラメなど数魚種について出荷制限がかけられています。岩手県は、出荷制限はかけられていません。青森県はマダラのみ出荷制限、という状況です。いずれにしても福島県と、この隣接県の底魚の一部からは、まだ時々高い値がでているという状況です。

 それらの魚の中で、北海道にまで来る魚というのは実は今のところ考えられるのはマダラだけのようです。他のアイナメやヒラメも北海道で獲れますが、向こうのアイナメが北海道まで泳いでくるということはありませんので、それはご心配いりません。従って、懸念として残るのはマダラということになります。マダラも最高が70Bqでまだ100Bqになったことは一度もないのですが、青森県が現実に2回ほど基準値を超えていますし、北海道に近接している海域であることは確かですから、我々としては特にマダラを重点的に今調査しています。

 北海道では原発事故以来、魚を770回検査していますが、その内の160回をマダラに費やしています。全道で7つの拠点を設けて、毎週それぞれの拠点から上がってくるマダラを検査しています。海が荒れたりしてどうしても魚を獲って検査できない週もありますが、ずっと監視を続けています。そして、研究機関の方から電話で報告を受けて素早く公表する様にしており、特にマダラについては几帳面にやっているということを、ご理解を頂きたいと思います。

[補足]
 10月12日に、室蘭沖のマダラから100Bq/kgが検出されましたので、室蘭沖のモニタリングを当面、毎日行うこととしました。万一、100Bq/kgを超えた場合は、道知事から出荷自粛要請を行うことになり、さらに複数回、基準値を超えた場合は国から出荷制限指示が出されます。このような事態にならぬよう願っていますが、万一の場合は直ちに対応できるようしっかり監視していきます。

[補足]
 マダラの7つの拠点は、函館市沖、室蘭市沖、苫小牧市沖、浦河町沖、えりも町沖、釧路市沖、根室市沖です。

(参考1)以下の図は片瀬作成
Bg/kgの値は、Cs137とCs134の合計(2012年10月18日までのデータ)

マダラ・カラフトマス・サンマの他の魚では、ほとんど検出されていない。
カラフトマス・サンマの値は現在はかなり下がっている。


胆振沖(室蘭沖)と日高沖の海域で高めの値となっている。
渡島沖で若干高め。


北海道外のマダラの値はさらに高い。


B.海産物の産地表示とトレーサビリティについて。

 産地表示についてはJAS法で示されています。水産物の場合は、まずは生産した水域名を表示しなさいとなっており、これができない場合は、水揚げ港、あるいは水揚げ港のある都道府県名でもよろしいとなっています。JAS法ではこれ以上の細かい規定はありません。従って、現実にじゃあどう表示したらいいのかという問題になってきます。
そこで、国の方では、水産庁がさらにガイドラインというのを作っています。基本的には水域名で示します。水域名の示し方としては、例えば北海道の海域で獲れたものですと北海道海域、あるいは、噴火湾で獲れたものであれば噴火湾海域、渡島近辺であれば渡島太平洋海域、という様々な示し方があります。それらを事例として挙げて、なるべく消費者の皆様方に分かって頂ける様な示し方をして下さいという指導内容になっています。 

 さらに去年の10月には、各生産者団体や流通関係団体などに、具体的に北海道海域と示す場合にはどういう考え方で示すのか、という通知が出されました。北海道の漁業の場合はだいたい知事許可漁業とか共同漁業権漁業などの所属船がほぼ決まった場所で魚を獲っています。北海道知事が許可を出して、北海道内の漁協の所属船が、例えばその時期にカレイを獲るという場合、そのエリアは北海道海域と表示した方が良いとしています。これもちょっと漠然とした言い方ですが、今のところはそこまでです。
 そういうことで、北海道産となっていれば、北海道の知事許可なり共同漁業権なりの範囲で、北海道の漁協の所属船が操業して獲ったものだとなります。これは、ガイドラインですから強制力は実はありません。ですから、これに沿わなかったから偽装表示ということにはなりませんが、できるだけ誤解の無い、わかりやすい示し方をする様にという指導がされています。

 ご質問の中で、トレーサビリティはどうなっているのかということですが、非常に鋭いご質問だと思います。その産地表示は分かりました、しからばそれをちゃんと証明する様な仕組みはできているのか、果たして本当にその海域で獲れたものなのかという、その仕組みを教えて下さいという質問だと思います。この放射能問題が起こって、特にその辺が注目されているであろうと思います。

 水産物については、私どもの課で平成18年にトレーサビリティの手引き書というのを作って、ホームページでUPしています。しかし、実はこのトレーサビリティというのはご存知の様に牛肉問題ですとか、生産者が作り出したものを中心に検討して取り組まれてきました。水産物の場合はどちらかというと養殖業について、どういう餌を与えたかのか、どういう抗生物質を与えたのかという履歴を追いかけられる様にする取り組みがまず進んでいます。
 ただ、北海道の場合は、海産養殖業というのは実はほとんどありません。地域の特産品、どこのサケとか、どこのサンマということで、1つの地域ブランドとしての販売戦略という中でのトレーサビリティの取り組みということも、いろんな地域で行われています。こういった様なことが、どちらかというと水産物のトレーサビリティとして検討されてきました。
 一般的な天然の海から大量に獲って短期間のうちに市場に卸されて売りさばかれるという水産物については、やはりどこで獲れたのかということが一番注目されていることであり、皆様方の関心事だと思います。これについて、本来のトレーサビリティの仕組みということで管理していく仕組みは、残念ながら天然の水産物については、あまり行われていないというのが現実です。

 従って、どういう風にして管理していけばいいのか、ということになるわけですけれど、まず、生産者が市場に実際にきちんと報告をするということが大切になります。それについての担保というのが、漁業協同組合が自分の船の管理をしていますので、漁業協同組合がきちんと所属船の管理をし、1隻だけで単独で操業するということは普通ありませんので相互監視という形で各船団に徹底してもらうことです。そして、市場の方に「どこそこで獲れました」ということを正しくきちっと報告して頂いて、市場からその買い受け人さんに、それから買い受け人さんが今度は消費地市場の方に搬入して行きますね。そして消費地市場の管理人さんに、そして小売りさんにと、きちんと情報を伝達していくという取り組みにおそらく尽きるのではないかと思います。物理的な仕組み作りということも勿論必要でしょうけれども、今現在は、そういうことをまず基本的にやって頂かなければなりませんし、そうして頂く様に我々も指導をしております。

 ご質問の方には、納得のいく回答にはなっていないのではないかと思いますが、とりあえず現状はどうなっているのかという説明でお許しを頂きたいと思います。

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※この記事は、門脇主査の了承を得て公開しています。
(門脇主査の補足コメントも加えさせて頂きました)

[追記]
(参考2)以下の図は片瀬作成


原発事故前は、北海道の水産物のCs137の量は0.5Bq/kg以下がほとんどです。北海道では、原発事故後のCs137の検出限界が0.5Bq/kg程度に設定されていますが、この設定は妥当なものと言えます。


原発事故後の北海道のシロザケの放射性セシウム濃度は、北方の海から戻ってくる「秋鮭」では昨年でも検出限界以下ですが、日本近海で回遊していた「時鮭」では「秋鮭」よりも高めの値でした。今年の「時鮭」の数値は、昨年よりも低い値になっています。

<まとめ>
・北海道の海域で生育した海産物はほぼ検出限界を下回っている。
・他の海域から来た可能性のある海産物でも、カラフトマス・サンマ・シロザケ(時鮭)の様な表層魚では、現在は数値がほとんど出ていない。
・マダラは一般的な底魚とは異なり回遊範囲が広く、汚染海域から北海道の海域に来るものがあり、胆振沖を中心に高めの数値が出ている。

※北海道では、マダラの他の魚については心配な値は出ていません。ほとんどが検出限界を下回っています。