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EM(有用微生物群)の何が問題なのか

ニセ科学 EM関係

朝日新聞WEBRONZA 2012年09月12日に掲載された私の記事の転載です。
http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2012091000003.html?iref=webronza

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 前回の記事で取り上げたEM(有用微生物群)について、EMの提唱者である比嘉氏は、EMは「科学的検証はまったく必要なく、各試験研究機関もEM研究機構の同意なしには、勝手に試験をして、その効果を判定する権限もありません」(http://www.ecopure.info/rensai/teruohiga/yumeniikiru62.html)と主張しています。

 この比嘉氏の主張の通り、第三者による効果の確認が不十分なまま、多目的な用途でその効果が宣伝されて広められている状況があります。


■宣伝されているEMの用途例


◆EMぼかし:EMで作った有機肥料で、他の一般的な化学肥料や有機肥料などよりも、良質な作物ができるとされています。また、生ゴミなどの有機物と混ぜて堆肥を作ったりします。

◆EMセラミック:粘土にEMを加えて高温で焼成したもので、EMに近い機能があり、EMが住み着きにくい環境でも効果を持続するというものです。EMセラミックに含まれるEM由来の微生物は高温にも耐えて生き続けているとされ、その微生物達の耐熱温度は700℃(『地球を救う大変革』、1993年)→800℃(中村知空氏の質問への比嘉氏の回答、2003年10月)→1200℃(蘇れ!食と健康と地球環境「EM技術による放射能被曝対策」、2011年3月)→[比嘉氏が直接言及したのではありませんが]2000℃(大阪日日新聞「有用微生物を活用環境教育にも一役」、2012年6月)と、どんどん記録を更新し続けている様です。

◆環境浄化:河川や海、池の浄化など、特に水系の浄化ができると盛んに宣伝されています。最近では、行政が積極的に使用するケースも増えてきている様子です。

◆洗剤の代わり:風呂掃除、プールなどの清掃用に洗剤代わりに使用されています。子ども向け科学啓蒙漫画として人気のある「サバイバル」シリーズ(朝日新聞出版)の『新型ウイルスのサバイバル』の中で、「人と自然に優しい消毒薬」「強力な抗酸化物質を作り出し洗剤の代わりにも利用できる」「環境保護にも役立つ」として紹介されています。

◆飲むEM:EM・X-GOLDという清涼飲料水が売られていて、1本(500ml)で4500円です。最近では、この飲料が放射性物質の排出効果があるとして宣伝もされています。EM・X-GOLDを飲むことでガンや糖尿病、リウマチなどが治り、肝機能の改善や痴呆まで予防できてしまうという万能的な効果を書いた本を複数出している医師(最近亡くなられました)が会長をしていた病院には、比嘉照夫氏が理事長として現在も入っています。

◆その他、土木建築、食品加工、予防医学、塩類集積対策、化学物質汚染対策など様々な分野で、従来にはなかった画期的な効果があると宣伝されています。

◆用途拡大の特徴

鳥インフルエンザ口蹄疫など新たな問題となるものが流行すると、それに合わせて「EMが○○に効く」という風に効果が次々に追加されてきました。(http://dndi.jp/19-higa/higa_Top.php)

 EM研究機構では、「EMの力を最大限引き出すポイントは善循環が始まるまで何回でもEMを使うということです」と指導しています。(http://www.emro.co.jp/em/mechanism/index.html) 試してみてEMの効果が思わしくなくても、それはEMの本来の力がまだ発揮できていないからであり、諦めずに効果が出るまで続けて使用することが推奨されています。


■各自治体が後援する環境改善活動や学校の環境教育にもEMが浸透

 最近では、環境改善活動にEMを使用している事例が増えてきています。2011年には三重県四日市大学の松永勝彦教授(環境化学)が、EM活性液に米ぬかやでんぷんを混ぜた団子を川に入れることによる「河川の浄化運動」に対し、栄養に富んだEM団子の投入によって逆に環境汚染の原因になる可能性を指摘して疑問を投げかけています。

 四日市上下水道局は2002年度から毎年、市民団体に助成金を出して浄化を委託しており、この件について私が担当者に問い合わせたところ、平成24年度は100万円を助成しているとのことです。 担当者の説明によると、四日市市では"環境浄化の啓発活動"という目的で市民団体の活動に助成を行っており、その方法は指定していないそうです。また、四日市市としては、EM団子投入などの効果は比較検証などによって確認しておらず、河川浄化にとって良いか悪いかは分からないとの回答でした。

 また、「学校」「プール」などでネット検索をすると、多くの学校でEMを使用していることが窺えます。先にEMセラミックの説明でも出しましたが、EMに含まれるとされる光合成細菌が2000℃でも生きていると主張する内容を含む授業が環境教育の一環として小中学校で行われている例もあります。(https://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/genkiroku/120613/20120613035.html

 これについても、光合成細菌が2000℃でも死なないという主張をきちんと裏付ける情報は出されていません。

 DNDメルマガvol469の出口氏の記事(http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm120801.html) に、プールの清掃にEMを使っている小学校教員の意見が次のように紹介されていました。

 「効果があるかって聞かれれば、比較検証していないのであるって明言はできない。ただ、自然環境の中でEMの効果を正確に検証出来るかって言ったら、それはEMの効果かもしれないし、他の効果かもしれない。そんな事僕たちが検証する立場ではない。学校としては、環境教育の一環としてやっていて、EMに効果があるかどうか云々よりは、子供たちの問題解決の力を養うというのが目的なんです。今教えている内容全て正しいか、科学的に検証したか、どうかって言われたら、そんな事を考えたら何も教育の教材に使えないでしょう。近隣に一生懸命やって下さっている善意の方々がいて、僕たちも何かしら環境保全の為にやらなければならないというところを子供たちに伝えたい。それだけですよ。それが違うと言われたら、教育自体の否定になりますから」

 ある物事に効果があると鵜呑みにして使い続けることが、問題解決能力を養うことになるのか疑問です。何であれ善意から一生懸命やっても、その行為が的外れであったら無駄になってしまいます。複数の実施可能な方策を検討して、より害が無く、より効果が出るものを選択していくという過程を学ぶことは、後で実社会でも生かされてくると思います。小学校でも、環境活動の中で複数の方法を比較しながら検討していくという教育方法とっている所が実際にあります。次に紹介するのはその一例です。

 仙台市立大野田小学校「水の実験(浄水実験)」(http://www.sendai-c.ed.jp/~oonoda/19nendo/22nendo/22%206nen/gyoumu.html#tyoumiryou)


 教育的な観点からも、とりわけ疑問が指摘されているのであれば、効果の検証を試みることは悪い事ではないと考えます。

 もし、比嘉氏の言う通りに効果が出るまでEMのみを使用し続けていれば、他のより効果的な方法を見出せる機会を失ってしまうことにもなります。複数の方法を事前に比較検討してから実施する方がより堅実ですし、予想していなかった害が出たりしないかについても確認することが可能になります。


■EMとその製品の性能チェックは必要  

  EMとその製品は商品として売られています。新たに見つかった菌や遺伝子組換えにより作られた菌ではなくても、従来の菌にはない新規な性質があると宣伝されたり、これまでにはなかった用途に使用範囲が拡大されたりする場合は特に、それが誇大宣伝や虚偽の宣伝になっていないかどうか、その商品の性能をきちんと示す必要があります。

 比嘉氏は科学者としてEMを開発し、EMとその製品を科学研究の成果として世に送り出しています。科学では、誰がやっても同じ結果が出るという再現性が必須であり、第三者による検証実験ができる様にしておくことが求められます。 それに対し、比嘉氏の「EM研究機構の同意なしには、勝手に試験をして、その効果を判定する権限もありません」という一方的な制約は、残念ながら科学者の態度とは思えません。