まずはホメオパシーの話題から始めます

このブログを書き始めるのに、いったいどういった話から始めようかと考えていました。
今、私がもっとも関心を持っているのはホメオパシーを巡る問題です。


ホメオパシーのおさらい>

ホメオパシー(同種療法)は主流派の医学をアロパシー(異種療法)と呼んでそれと対立する理論により成立したもので、約200年前にドイツ人の医師であるサミュエル・ハーネマンによって提唱された民間療法ですが、現在の科学知識からするとホメオパシーの方法(患者が示すのと同じ症状を引き起こすと考える物質を薬効成分として、それを宇宙の果てまで気が遠くなる程に水で希釈して振とうする事を何度も繰り返して、最後にはその物質が1分子も残っていない状態〜つまりただの水と同じ〜にまで希釈してから砂糖玉に少量染みこませたものを薬=レメディとして患者に使用)では薬効成分が残っていないという点で原理的にいってもそれが効果を出す事はあり得ませんし、実際に治療効果も無いことが臨床的な解析によってもきちんと確かめられています。

科学的な考え方の良さは、常に自分達の仮説に対して検証をしていき、間違っていると判明したものはその都度棄却したり誤っている部分を修正しつつ改良を積み重ねながらより確かなものへと進展して行く所にあります。
創始者ハーネマンの死後、科学研究が進んだ事により物質が分子でできている事が解き明かされ、ホメオパシーの希釈のやり方だと元物質が1分子も残らない事実が判明してごく微量に残存している物質が治療効果を及ぼすというハーネマンの説が棄却された時、それまでホメオパシーを実践していた人達の中できちんとした科学的で論理的な考え方が出来た人達はホメオパシーから次々に去っていったでしょう。残った妄信的な人達が科学から棄却されたホメオパシーを継承していき、現在の様な検証性に欠けた呪術の様な体系として色々な流派に分かれて存在する様になったと思われます。


ホメオパシーの問題性>

問題となっているのは、ホメオパシーを推進する団体がその効果の無い療法を人々に広めようとして、現代医学の成果である効果のある治療法や予防効果のあるワクチンを体に害を及ぼす誤った方法だとしてネガティブな宣伝を活発に的に行い、それを聞いて不安になった人達に対してホメオパシーは安全でもっと効果の高い治療法だとして患者を集めるという手段を用いている事です。

元々薬としての効果が無いのですから、レメディを飲んでいても患者の病気は良くならないどころか悪化していくこともあり、一部の悪質な団体ではそれによって患者が離れていってしまわないように「好転反応」という言葉を使って、その悪化は病気が良くなる過程で起こる毒出しの効果によるものだから我慢してそのまま続ける様になどと説得します。
これを信じてしまった人達が効果のある治療を受ける機会を逃した事による健康被害や、手遅れになって深刻な後遺症が残ったり、最悪の場合は死亡する等といった深刻な状況があります。

ホメオパシーの盲信により現代医療の治療を拒んだ事による死亡者は、国外で多数報告されており、日本でも助産師が赤ちゃんに投与が必要とされているビタミンKを与えず、代わりにレメディを与えた事でその赤ちゃんが亡くなってしまうという痛ましい事件があり、親が裁判を起こした事から新聞などで報道されて、その問題性が世間に知られる様になってきました。また、親が赤ちゃんのアトピー治療をレメディだけに頼った結果として赤ちゃんが衰弱して亡くなったと考えられるケースがあったり、悪性リンパ腫を患う人がホメオパスの指示で治療を続けた結果、悪性リンパ腫である事も分からないままに病気を悪化させて亡くなられた事などが明るみに出ています。これらの犠牲者は、現代医学を拒まずに通常の医療を受けていれば亡くならずに済んだ可能性が高い人達です。


<どうしてホメオパシーを信じられるのか>

このニセ療法を信じている人達は、主に20〜40才代の女性達です。丁度わたしとも重なる年齢層です。
彼女達は何故、ホメオパシーなんかに引っかかってしまうのでしょうか?
彼女達の多くに共通しているのは、「自然なもの」への指向性が高いということがありそうです。化学薬品など、今まで自然界に無かった人工的な物に対する警戒心が強い様に思われます。
確かに、過去にはサリドマイドという薬を妊婦が服用した事により奇形を持つ子が産まれたり、レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で警告した農薬の害などの問題がありました。また、森永ヒ素ミルク事件などもあり、誤って毒物などの混入の恐れはないかと粉ミルクに不安を感じて母乳に拘る人達もいるかと思います。その後も「環境ホルモン」の問題が持ち上がって、ビスフェノールAの溶出が心配されるポリカーボネート製のほ乳瓶や幼児用食器などに対する不安もあり、陶器やガラス製の製品に切り替える人達も多くいました。
これらの過去の知識などから、特にニューエイジ思想にかぶれていなくても、私達の年代の層でそういった物に対しての警戒心を持つのはある程度はありがちだとも思います。

病院の薬に対してもなんとなく副作用が恐いということもあり、元の薬効成分を1分子も残らない程に薄めたレメディを薬として用いる方が安全な様に思うのではないかとも思います。ホメオパシー団体側が、元物質をレメディが1分子も含んでいないという本当は最も不利な事実を積極的に認めているのは、こういった「安心感」を与える為ではないかと思います。実際に、このレメディには効果が無いと同時に副作用もありません。只の砂糖玉ですから。

ここで不思議なのは、この様なレメディに効果があると信じてしまえる事です。
ホメオパシー側は、元物質を希釈・振とうした水にはその物質の「記憶」の様なものが残っていて、これが働くのだと説明します。水は分子の運動がとても速くて活発で「記憶」できる構造を維持するのはかなり困難で、事実上不可能です。ホメオパシー団体はこの「記憶」は怪しげな波動という幽霊の様なものによって維持されるのだと説明したりしていますが、その存在はこれまでに確認されていません。ですが、スピリチュアル系をなんとなくあり得るかも知れないと思ってしまえる人達には、それ程の抵抗感が無いのかも知れません。


<女性とホメオパシー

女性特有の問題としては、「妊娠」というものがあります。
女性の信棒者が多い背景として、ホメオパシー助産師達にかなり広まったことも大きな原因だろうと思います。
妊娠中はなるべく胎児に影響が出ない様にと、風邪を引いた時でも万が一を考えて薬は避けてひたすらしんどいのを我慢したりします。私も経験があります。

助産師は妊婦に対して医師の様に薬を処方して与えることが出来ませんが、ホメオパシー・レメディでしたら可能ですし、何よりも心配される副作用が無いのですから妊婦にも安心して勧められます。そして助産院をわざわざ選ぶタイプの妊婦は病院や薬に対して敬遠する傾向が一般よりも強くて、副作用も無く安全として信頼する助産師さんからレメディを勧められたことで素直に服用し、その時たまたま自然に治癒する時期と重なっていたり、一部の人達にはプラセボ効果という一種の思い込みによる自己暗示効果で症状が良くなったりして、それが切掛けとなってホメオパシーの効果を信じる様になった人は多いのではないでしょうか。

また、妊婦にレメディを投与した助産師は、偶然のタイミングやレメディの暗示により妊婦の症状が良くなったという事を何度か経験して繰り返して行くうちに、ホメオパスとしての自信を深めて行きどんどんのめり込んで行ってしまったのではないかと推測します。
日本助産師会の内部アンケート調査によると、助産院の1割近くで過去にビタミンKの代わりにレメディを投与した事があるという結果が出されています。この調査は会員による自己申告によるので、発覚を恐れて内緒にしている所もあるかも知れず、ひょっとすると実際はもっと多いかも知れません。いずれにせよ、この結果は助産師へのホメオパシーの浸透が水面下で着々と進んでした事の証明の1つでもあります。
日本助産師会に加入していない助産師達もおりますので、それを合わせるとホメオパシーを実践していた助産院はもっと増える可能性があります。

また、ホメオパシーを実践している助産院での出産を経て母親となった人達からホメオパシーが「善意」によって周囲のママ友達やブログなどを介して広められたりして少しずつ流行の兆しが見えて来ると、そういうのに敏感な女性向け雑誌が流行の先端としてホメオパシーを取り上げて宣伝し、それを購読して知った女性達が新たに興味を持って始めてさらに同様な口コミなどでも広まって行き、少しずつホメオパシー実践者の輪が拡大していったのではないかと想像しています。
最新トレンドに敏感な一部の有名女性タレント達も、ホメオパス助産師の助産院で出産して宣伝に一役買った様です。

助産師がホメオパシーを盲信して誤った治療を母親に勧めてしまう問題に加えて、次に母親がホメオパシーを盲信してしまい、その子どもに適切な医療を受けさせずにレメディだけで治療を試みてしまう事により深刻な医療ネグレクトも起きているという問題は大きいと思います。


プラセボ効果とその拡大解釈の問題>

ホメオパシーによる治療の対象は、プラセボ効果や偶然の治癒によって効果が出たと誤認された疾患や症状に対して適用してどんどん拡大してしまっていますが(癌まで治ると言っている)、プラセボ効果頼みでは暗示のかかり方によって個人差が大きく出たり、実際には効果が無いレメディではいくらプラセボ効果を発揮しても力が及ばなくて治療効果が出ないケースも多発したであろうと思われます。ホメオパシーの理論は元々はシンプルなものですが、きっと効かなかった理由を「好転反応」やあれこれと別な言い訳をする屁理屈を付け足していくうちに、訳の解らない複雑な言い訳の集大成である理論体系が、それを継承した複数の団体によって何通りか出来てしまっている様子です。

ホメオパシー団体の中で、現在の日本で最も規模が大きいのは由井寅子氏が率いる日本ホメオパシー医学協会とその関連組織です。トラコパシーとも呼ばれるホメオパシー医学協会のホメオパシーは、インナーチャイルドなどと精神世界にもかなり踏み込んだ理論を展開しており、カルト宗教的な側面があります。指導者が女性という事で、ホメオパシーを信じている中心層である女性達の共感を得て、会員集めに有利に働いたとも考えられます。
由井寅子氏はホメオパシーの歴史の中で積み上げられてきた、まか不思議な言い訳の集大成に独自の解釈も更に付け足していき、さも仰々しく権威を持って彼女に教えを請う弟子達に教えるので、そこまで深く理解している寅子さんは凄いと、またそれが尊敬の対象になり熱烈な信棒者を作り上げているのではないかと思います。


ホメオパシーの様なニセ療法に対する法的な規制について>

未承認であり薬効の全く無いニセ薬であるレメディを医師の資格も無く患者の症状から病気を診断して処方する事は、薬事法違反と医師法違反に触れる可能性が高いと思われますが、不思議と日本でホメオパシー団体がこれらの罪で検挙される事はこれまでにありませんでした。

1997年に、札幌でニセ医者が他のニセ診断法と一緒にホメオパシー・レメディを処方してそれにより高額な診断料と薬代を患者から巻き上げてボロ儲けをしていたとして、医師法違反罪と詐欺罪で逮捕されるという事件が過去にありました。
効果の不確かなレメディを病気の予防や治療に効果があると嘘をついて売りつけた事は、詐欺罪として成立する様ですが、ポイントは効果が無いと知りながら相手を騙した事にあり、一方でホメオパスは効果があると信じてやっている人がほとんどだと思うので、これは成立し難いのかもしれません。
医師の資格が無いホメオパスが料金をとって患者の症状に合わせたレメディの処方をする点については、かなり法律的にやばそうな感じはします。けれど、勧めるのが名目上は薬ではなく「健康食品」であり、実際に砂糖玉でしかないので、これも行政が手を出し難かった理由なのかも知れません。
(死亡者が相次いで報告される等の問題が公になった後、薬事法などに抵触する疑いで最近になってようやく行政指導が入ったことが報道されました。ホメオパシー団体も、この指導が入った事に対してはかなりナーバスになって表面的な繕いにやっきになっている様子も伺えます)

由井寅子氏が率いるホメオパシー団体は、これまでは表立った行政指導も無くて野放しの状態であったことから、どんどん宣伝を続けて信棒者を獲得していき、ホメオパス養成校を何校も設立して学費をとってホメオパス達を養成しました。助産師会主催のセミナーでホメオパスが講義を行い、それを受講した助産師達が引き込まれてホメオパス養成校に通い新たなホメオパスとなり、大学の授業に講師としてホメオパス助産師が派遣され、という風に連鎖的に信棒者を拡大していきました。ある中学校ではホメオパス養護教諭が不調を訴える生徒にレメディを与えていた事も報道されました。この様にして影に隠れた場所から助産院や学校教育の現場などの表舞台にまでどんどんと進出を果たしました。

由井寅子氏のホメオパシー団体がこの様に大胆にも表舞台に「打って出た」理由として、これまで薬事法違反・医師法違反に問われることなく難なくやり過ごせてきたので、まだまだ「もっと行ける」と大胆になってしまったのではないかな?という気がしています。
助産師などの医療関係者の間に浸透したりして問題が大きくなる前に、行政が警告を色々と出していたら、これ程までにホメオパシー団体が増長して被害を拡大させることは無かったのではないかとも思います。

行政が全ての怪しい代替療法をチェックして取り締まるのは人手の関係もあったりして難しいのだろうとは思いますが、ホメオパシー団体の様に独自の資格取得の学校を幾つも設立したり、全国規模で広く講習会(中には助産師会や自治体主催なんていうのも…)を行ったり、女性誌などのメディアで頻繁に宣伝され始める等、他から浮き上がって目立つようになってきた段階で、それによる健康被害が生じないかどうか(日本ホメオパシー医学協会のホームページにリンクしてあったホメオパシー体験談を覗いたら現代医療否定の姿勢や「好転反応」などのNGワードが見つかったはずです)を行政側がチェックできなかったのか疑問に思う所もあります。

ともあれ、日本学術会議や医師会などが否定した事で、ホメオパシーは今以上に勢力を拡大していくことは難しくなったと思いますが、このまま大人しくしているとも思えず、今後、どの様に状況が推移して行くのか(寅子氏の団体はカルト化を強めそうですが…)、様子を注意深く見守っていく必要があると思っています。
行政も、明らかな問題が発覚した以上これからはもっとしっかりと監視して、さらに団体を増長させない様に必要ならば(薬事法違反・医師法違反、あるいは詐欺罪などによって)きちんと取り締まっていって欲しいと思います。


ホメオパシーを信じている人達とその家族への健康被害の心配>

寅子氏の元に集まっている熱心な女性達は、何か心に物足りなさや不安を抱える人が救いを求めて女同士の共同体の様な共感をベースに集まっている様にも見えます。
私も時々書き込みをさせて頂いているあるブログでは女性達も活発に意見を出していますが、これまでにホメオパシー批判側としては、特に代表とされる人達には男性が多くて女性が少ないという感じがしています。女性のサイエンスライターによるホメオパシー批判もこれまでにあまり見かけません。

女性の信棒者が多いホメオパシーに対して、私も彼女らと同じ女性であり母でもあるという立場から、「インチキじゃない?」「効果ないしお金の無駄では?」「手遅れになって健康を害したらどうするの?」などともっと積極的に疑問を投げかけていく場を増やして、ホメオパシーに足を踏み入れそうになっている人やまだそれほどディープに嵌っていない人達にそのインチキさをきちんと知らせて危ない道から引き戻す一助になれないかと考えました。
という事で、他人のブログなどにちょこちょこと細切れに意見を出すだけではなく、自分でもブログを書いてみて、もうちょっとまとまった意見も出していってみようかと思いました。

長くなってすみません。ご意見など、歓迎致します。