6/16の若山教授の会見で判明した事など−STAP細胞がES細胞である可能性について

基本情報:若山さんは、STAP細胞に関する実験で、キメラマウスの作製とSTAP幹細胞・Fgf4誘導幹細胞の樹立を担当。

この記事で、
Nature Article論文とは、
Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency
Nature 505, 641–647 (30 January 2014) | doi:10.1038/nature12968
http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/abs/nature12968.html

Nature Letter論文とは、
Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency
Nature 505, 676–680 (30 January 2014) doi:10.1038/nature12969
http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/abs/nature12969.html
をそれぞれ指す。

1.若山さんから小保方さんに、STAP細胞作製用に渡されたマウスの遺伝子タイプと作製されたSTAP細胞から作られたSTAP幹細胞(STAP-SC)の遺伝子タイプの比較。

STAP幹細胞は、小保方さんから渡されたSTAP細胞を若山さんがACTH+LIF培地で培養することによって作製した。
(下表は、2014/07/22に若山さんと理研から公表された情報に基づき更新した)

GLSの性別については、若山さんの会見ではメスとされたが、理研が行った2株の解析で「Y染色体の一部に欠失が見られる」オスであることが判明。http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/topics/2014/20140616_2/20140616_2_1.pdf
その後、GLSは全てオスであると判明した。
http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~twakayama/LSHP/press20140722.pdf
   ↓
理研の外部調査委員会報告(2014年12月26日)では、GLSは全てメスである事が判明

論文に使用されたSTAP幹細胞は、FLS、AC139、GLSである。

<追記>
若山さんから、STAP-SC FLSに関する新たな情報を頂きましたので追記します。(2014/07/05)
「若山研にSTAP幹細胞(FLS)と同じマウスとES細胞が存在していた」というNature誌上での記述に関する経緯が判明しましたので、新たなエントリーで解説しました。(2014/07/10)
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20140710/1404987809

 僕が第三者機関にお願いした解析について、協力者により詳しく調べた結果、15番染色体にCAG-GFPが挿入されているものではない可能性が出てきています。これは、予想外にもSTAP幹細胞(FLS)に導入されている遺伝子がCAG-GFPだけではなかったためで、重要な点ですのでより詳細な解析を進めています。そこで僕は15番染色体という番号の修正だけをNatureへ依頼しました。

 上記のことは、僕が渡したマウスとは違う遺伝子を持つ細胞が小保方さんからSTAP細胞として戻ってきた、という結論の根幹部分にまったく影響しません。

 組み込まれている遺伝子がCAG-GFP単独ではなかった可能性を受けて、現在用いられた可能性のあるES細胞株についても捜索中です。この細胞についてはいくつかの候補が考えられますが、いまは染色体への挿入部位の同定を行っている状況です。
これらの結果は、わかり次第報告いたします。

 また候補となる若山研究室のES細胞株については過去に小保方氏に分与したことはなく、もし彼女が所有していたとすれば、その経緯についても説明して欲しいです。

STAP幹細胞(FLS)に導入されている遺伝子がCAG-GFPだけではなかったと判明したとの事で、現在さらに染色体への挿入位置を含めて詳しい解析を進めていると教えて頂きました。
2014/07/22までに判明している事について、理研CDBと若山さんから資料が出されました。
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/topics/2014/20140616_2/20140616_2_2.pdf
http://www.ccn.yamanashi.ac.jp/~twakayama/LSHP/press20140722.pdf
ここで明かされていますが、この解析に協力しているのは横浜理研の遠藤高帆さんです。

メスと思われたGLSの株も全てオスであった。→全てメス(X染色体に大きな構造異常)であると判明。

Nature Article論文のExtended Data Fig.8k

で使用された、メスのSTAP幹細胞にはH3K27me3集中点は見られないという写真のメスのSTAP幹細胞の存在は疑わしいとしたが、これがGLSだとメスでもいい。

※FLS-Tは遺伝子タイプがマウスと一致したが、コントロールES細胞が使用された可能性を考え、それぞれの細胞を作製した時系列を若山さんに質問した。

→教えて頂いた作製日を表に入れた。
(GLSの作製日は聞きそびれました)→GLSの作製日は2012年1月31日だと若山さんに教えて頂きました。

[結果]

(1)FLSとAC129は、STAP細胞作製用に若山さんから小保方さんに渡されたマウスの遺伝子タイプが一致しなかった。

(2)FLS(2012年1月、2月作製)のコントロールとして作られたES細胞(2012年5月作製)が作られた後でSTAP-SCとして樹立された、AC129(2012年9月作製)とFLS-T(2013年3月作製)は、コントロールES細胞と同じ遺伝子タイプである。

(3)STAP細胞の作製に使ったマウスは、オスとメスが混ぜられていた事は、マウスを提供した若山さんが証言しているのと、論文にもそう書かれている。

Nature Article論文のMethodsより
”Because the number of CD45+ cells from a neonatal spleen was small, we mixed spleen cells from male and female mice for STAP cell conversion.”

しかし、得られたSTAP幹細胞は、同じ種類のものはどれも同じ性別であった。


[考察]

(1)AC129とFLS-Tは、コントロールESとすり替えられた可能性がある。

(2)コントロールESが作られる前に作製されたFLSは、理研の小保方さんが使用していた冷凍庫の中から見つかった「ES」とラベルされた細胞と遺伝子タイプが一致した事がNHKによって報じられた。このESと思われる細胞が、FLSである可能性がある。

(3)得られたSTAP幹細胞は、同じ種類のものはどれも同じ性別である事は、実はSTAP幹細胞はすり替えられたES細胞であったと仮定すると説明がつく。培養したES細胞であれば、同じクローンから構成されるので性別が全て同じであっても不思議ではない。
(小保方さんが渡されたマウスの中から性別を選択して使用したと仮定することもできるが、それだと実験に必要な脾臓の数が足りなくなるし、わざわざ実験をやり難くする理由が見当たらない)

※どの結果からも、STAP幹細胞の元になったSTAP細胞は、実はES細胞だった可能性を示唆している。小保方さんらが公開したSTAP細胞のmRNA配列データの解析からも、STAP細胞はマウスから作られたのではなくES細胞である可能性が指摘されている。
http://www.nikkei-science.com/wp-content/uploads/2014/06/20140611STAP.pdf


2. 遺伝子解析の結果からも、STAP幹細胞(STAP-SC)はES細胞で、Fgf4誘導幹細胞(FI-SC)はES細胞とTS細胞の混合ではないかとの指摘があるが、論文ではそれぞれES細胞とは違う性質が示されている。この矛盾はどう説明できるのか?

[STAP幹細胞の場合]
STAP細胞は2i+LIF培地では7日後に死滅するが、STAP幹細胞になると死滅せずに増殖する。

Nature Article論文 Extended Data Fig.8a

Nature Article論文 Fig.5c

<STAP幹細胞はES細胞と同様に2i+LIF培地で増殖するが、STAP細胞は死滅する。>
追記
[注]このグラフについて、比較のために同時に実験するので一般的にはサンプリング時間は一致するのが普通であるが、部分的にずれており不自然さが指摘されている。
   ↓
部分拡大図(同じサンプリング時間になっているかどうか、赤い補助線を引いている)



STAP細胞ES細胞であると仮定)
ES細胞は2i+LIF培地で生育するのに、この条件で生育しないのは矛盾する。
(参考:ACTH+LIF培地は、ES細胞のクローン増殖を促進することが知られている)

※そこで、若山さんにSTAP細胞として渡された「同じ細胞」を2つに分けて、一方を2i+LIF培地で、もう一方をACTH+LIF培地で培養して、生育の違いを確かめたのか質問した。
→若山さんは、同じ細胞を分けてそれぞれの培地で培養した事はなく、ACTH+LIF培地で培養して増殖する事を確かめたのみだと判明。(2i+LIF培地で培養を続けるとSTAP細胞は死滅するというデータは小保方さんが出した

☆比較実験は、できるだけ同じ試料(細胞)を使って同時に行うことが原則である。
若山さんは同じ細胞を分けて培養条件を変えた実験をしておらず、比較実験として正しく成立していない。
(若山さんの説明によると、論文として構成された後でこの様な比較実験の形に整えられたとのこと。論文のストーリーを作った笹井さんにも問題がありそうである)

もし、STAP細胞だとして渡された細胞がES細胞だった場合は、最初から2i+LIF培地で培養しても生育していたのではないかと考えられるが、それが行われていなかったので判別できない


[Fgf4誘導幹細胞の場合]
論文では、Fgf4誘導幹細胞(FI-SC)は、ES細胞とはMEK阻害剤とJAK阻害剤に対して感受性が異なるというデータが示されている。

Nature Letter論文 Fig.3e,f

<Fgf4誘導幹細胞は、ESと違いMEK阻害剤によって生育が阻害される。>

Nature Letter論文 Extended Data Fig.5a〜d

<Fgf4誘導幹細胞は、ESと違いJAK阻害剤によって影響をほとんど受けない。>
[注]下段の写真はそれぞれバックグラウンドの明るさが異なり、見かけのGFPの蛍光の強さを調整している可能性がある。

(追記)

Nature Letter論文 Extended Data Fig.5e,f

Nature Letter論文 Extended Data Fig.5fの中段の写真の明るさ・コントラストを変えると、下図(↓)のようにスケールバーの付近と右端の中央に緑色に光る細胞の端(赤丸で印)が見えるが、上段の写真とは細胞の位置が一致していない。

[注]GFP蛍光のある細胞が存在しないように見せかけている可能性がある。

これらの薬剤感受性に違いがあるとするデータは、Fgf4誘導幹細胞がES細胞とTS細胞の混合だと仮定すると矛盾する性質である。

※そこで、若山さんにFgf4誘導幹細胞とES細胞の上記薬剤感受性の違いを確かめたのか質問した。

→若山さんは、小保方さんから渡された「STAP細胞」からFgf4誘導幹細胞を樹立するまでを担当しており、Fgf4誘導幹細胞の薬剤感受性の実験は小保方さんが担当していたと判明。

(補足)
Nature Letter論文 Fig.4a

STAP細胞 = ES細胞(+TS細胞)と仮定すると、この関係図は興味深い。


3.ES細胞胎盤の形成に寄与できないが、STAP細胞胎盤の形成に寄与する。

GFPを全ての細胞で発現するタイプのES細胞からマウスを作ると、胎盤の形成に寄与しなくても、胎盤に流れる血液はES細胞由来なのでGFPの蛍光が胎盤にも観察される。
胎盤の形成に寄与しているかどうかを確認するには、胎盤の切片を観察して胎盤組織でGFPが発現していることを調べる必要がある。

このGFP発現を確認するための胎盤の切片を作製したのは小保方さんであった。

1〜3に示したように、STAP細胞ES細胞(+TS細胞)だと解釈すると上手く説明できる解析結果が次々と出されてきている。一方でSTAP幹細胞とFgf4誘導幹細胞がES細胞(+TS細胞)である事を否定するデータは全て小保方さんによって出されたものであった

※今後、理研に保存されているSTAP細胞、STAP幹細胞、Fgf4誘導幹細胞から作製されたマウス等の試料を解析した結果が出されることで、「STAP細胞は何だったのか」がよりはっきりとしてくる事を期待します。