新聞記事とEM菌(2)−考察編−

 前エントリーのデータ解析編の続きです。
 2008年からEM関係記事数は徐々に下がっている様子があります。2012年の夏以降は、記事数の減少がはっきりと現れています。理由としては、次の様なことが考えられます。

(EMにとってポジティブな推論)
・EMが普及してきたので、EM関係の話題をわざわざ記事にする程の新規性がなくなってきた。
(EMにとってネガティブな推論)
・EMについて、提唱者がデタラメな事を主張していたり、宣伝されている効果の検証が不充分であるという指摘に新聞記者・新聞社が少しずつ気が付いて慎重になってきた。

 新聞記者・新聞社が慎重になってきたという推論に関しては、実際にEM関連の記事を無批判に掲載することに慎重な姿勢を示した記者と新聞社も出てきています。朝日新聞では、2011年と2012年に三重版と青森版にEM批判記事が掲載されて、ネットでも注目を集めました。

・EM使う河川浄化、研究者「待った」 海汚す可能性指摘/三重県 (2011年11月28日)
(魚拓) http://megalodon.jp/2011-0528-2330-52/mytown.asahi.com/areanews/mie/NGY201105270021.html

 四日市大学の松永勝彦教授(環境化学)が警鐘を鳴らす。同教授によると、EM団子にはリンが約2%、窒素が約7%それぞれ含まれる。ヘドロの分解効果はあるものの、EM団子の分解でリン・窒素濃度が高くなった水や未分解の団子が海に流れ込む恐れがあると言い、「リン、窒素は伊勢湾での赤潮発生の原因になる」と指摘する。

・EM菌効果の「疑問」、検証せぬまま授業 「水質浄化」の環境教育/青森県 (2012年7月3日)
(魚拓) http://megalodon.jp/2012-0703-2038-16/www.asahi.com/national/update/0703/TKY201207030458.html

 県東青地域県民局は2004年から、管内の希望校にEM菌を無償で提供し、実践を支援している。提供開始にあたり、県はEM菌による浄化活動が行われている川で1年間、水質を調査。だが、顕著な改善は確認されなかったという。

 岡山県環境保健センターは1997年度、EM菌は水質浄化に「良好な影響を与えない」と報告。実験用の浄化槽にEM菌を加えて600日間観察したが、EM菌のない浄化槽と同じ能力だった。広島県も03年、同様の報告をしている。

 三重県の05年の報告は、海底の泥の浄化に「一定の効果があると推定」した。湾内2カ所の実験で、1カ所で泥中の化学的酸素要求量(COD)が減少したためだ。だが、水質に関しては効果がなかった。

・効果疑問のEM菌、3町が町民に奨励 板柳町、4000万円で検証委託/青森県 (2012年7月11日)
(魚拓) http://megalodon.jp/2012-0718-0915-31/mytown.asahi.com/aomori/news.php?k_id=02000001207110005

 板柳と中泊、鰺ケ沢の3町が、科学的に効果が疑問視されるEM菌を「水質浄化や農地改良に有効」として町民に薦めている。各町はEM菌を培養し、町民に配布。板柳町はEM菌販売業者に4000万円で効果検証を委託し「有効」としたが、専門家は検証を「科学的に無効」と指摘する。

 EM菌の効果検証の経験がある後藤逸男・東京農業大教授は、この報告書について「条件の同じ畑で、EM菌を使った場合と使わなかった場合でどう違うか、という比較ができていない。科学的検証としては無効」と指摘する。

 日本土壌肥料学会は1996年の検証シンポジウムで、EM菌の農業上の効果に関する検証例を収集したが、顕著な効果の報告はなかった。99年の後藤教授の報告も、EM菌で作った資材(肥料)と既存の有機肥料で、作物の生育への影響に差はない、としている。

 96年の検証シンポを主導した茅野充男・東京大名誉教授は「行政が薦めることは、一般利用者には効果のお墨付きになる。個人が自己責任で利用することは止められないが、科学的に効果が証明されていないものを行政が薦めるのは問題」と指摘した。

 毎日新聞では、2012年8月に東京本社編集編成局に「EM菌報道に関する提言」が記者から出されています。 http://togetter.com/li/358752

<なぜ報道すべきではないのか>

1.効果があるという科学的証明がない。(提唱者である比嘉照夫氏は「科学的検証はまったく必要ない」と第三者による科学的検証を拒否している)
2.EM菌は企業の商品であるが、多くの記事ではこの認識に欠けている。通常、新聞記事では不必要に特定企業の宣伝をしたり、商品宣伝をしないようにしている。(企業名、商品名が不可欠である場合は名称を入れる)

 毎日新聞社では、EM菌の宣伝になる記事を掲載することを今後は見合わせていく方向になったとのことですが、その後も地方版に時々EM関連記事が出されています。こういった提言は、なかなか浸透しずらいようですが、他の新聞社もこの提言は参考になるのではないでしょうか。朝日新聞社では、2012年7月のEM批判記事以降はこれまでのところEM関連記事は掲載されていません。

 EM関連記事のほとんどはEMに対して肯定的に書かれ、河川や海などにEM菌を投入する方法は環境に良い行いとして広められていますが、少し立ち止まって考えてみることも必要でしょう。
 これまで公的機関から出された見解は、EMの効果について否定的です。上述した朝日新聞の記事の他に、公的機関の見解を伝えている記事を紹介します。

中国新聞:EM菌「推進しません」広島県 (2003年9月13日)
http://web.archive.org/web/20040406013803/http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn03091304.html

 広島県は、海や川の浄化に自治体や環境団体が使っている有用微生物群(EM菌)の利用を推進しない方針を決めた。「室内実験で水質の浄化作用が全く認められなかった」というのが理由だが、普及団体などには反発も広がっている。県保健環境センター(広島市南区)が今年二月から実験。市内の海田湾(南区)や魚切ダム(佐伯区)、八幡川上流(広島県湯来町)の三カ所で採取した水をそれぞれガラス瓶に入れ、EM菌を混ぜて二カ月間、水質の変化を調べた。水はどれも、汚れを示す生物化学的酸素要求量(BOD)や化学的酸素要求量(COD)の数値が上昇。国の環境基準を上回ったまま、戻らないケースもあった。魚介類に悪影響を及ぼす窒素やリンの数値も上がり、赤潮を生むアオコの増殖も抑えられなかった。既に岡山県福井県も同様の実験を行い、結果も同じという。こうした実験結果を受け、広島県は六月に「県としては、EM菌利用を推進しない」と決め、県内七カ所の地域事務所に通知した。

福島民友:県が初の見解「EM菌投入は河川の汚濁源」 (2008年3月8日)
http://web.archive.org/web/20080318185807/http://www.minyu-net.com/news/news/0308/news3.html

 県は、河川や学校で水質浄化の環境活動に使われているEM菌(有用微生物群)などの微生物資材について「高濃度の有機物が含まれる微生物資材を河川や湖沼に投入すれば汚濁源となる」との見解をまとめ7日、郡山市で開いた生活排水対策推進指導員等講習会で発表した。県環境センターが、市販のEM菌など3種類の微生物資材を2つの方法で培養、分析した結果、いずれの培養液も有機物濃度を示す生物化学的酸素要求量(BOD)と化学的酸素要求量(COD)が、合併浄化槽の放流水の環境基準の約200倍から600倍だった。県が微生物資材の使用について見解をまとめたのは初めて。県生活環境部は「活動している方々と今後、幅広く議論の場を設ける。(今回の見解が)議論のきっかけになればいい」としている。EM菌使用の環境活動は県内の学校や団体で幅広く行われており、波紋を広げそう。


<EM団子やEM培養液を「環境浄化」の目的で自然界に投入することについて>

 自然環境はそこに生息する様々な生物による複雑で絶妙なバランスによって保たれています。河川に含まれる有機物などの栄養分を食べる微生物がいて、その微生物を食べるプランクトンなどがいて、それを食べる魚がいて…、その他に藻類や貝類、昆虫類など様々な生物が複雑に食物連鎖を通じて関係しており、そのバランスが保たれていれば水中の酸素量や栄養成分などは多少の環境変化にも安定して一定の範囲の変動に保たれているのですが、一度大きくバランスが崩れてしまうと、簡単には回復しなくなってしまいます。
 河川などの水質が悪化しているのは、人の生活に伴って河川に流し込まれる生活排水などの増加によって有機物などの汚れが多くなったことが主な原因と考えられます。水中の有機物などの汚れを分解するのに大きな役割を持つのは目に見えない微生物です。(この微生物にも様々な種類があって、その環境に適している種類が組み合わさって微生物のネットワークが構成されています)
 有機物を環境に無害な物質にまで微生物が分解するには酸素が必要です。有機物の濃度が高くなり、微生物による有機物の分解に必要な水中の酸素の供給が追いつかなくなると酸素不足となって分解を担当する微生物の活動が落ちてしまいます。そうなると、水質がどんどん変わっていき、それに連鎖して様々な生物のバランスに変化が起きて、これまで生息していた生物の多くが結果として住めなくなっていきます。分解されずに残った有機物は、水を濁らせたり、これまでと違った微生物による作用で腐敗臭を発したりと、目に見えて水質が悪化していきます。一旦、生態系のバランスが崩れてしまうと、なかなか元に戻りません。環境保全には、そうした生態系のバランスについての理解が必要です。元の環境に戻すには、微生物のバランスから復活させる必要があります。

 ここで、水質浄化にEM菌を投入する事について考えてみましょう。
 元々その環境に生息していなかった菌群を汚れた河川などに投入することで、その働きによって無事解決となるのでしょうか?EM菌を投入することで、一時的に微生物の量が増えて有機物の分解は進むかも知れませんが、元々の汚れの原因が解決していなければ、また有機物の分解に酸素が多く消費されて酸素不足になっていき、酸素を必要とする微生物の活性が落ち、有機物の分解継続は難しくなって水質改善は頭打ちになります。そして、何度も、何度もEM団子を繰り返し投入し続けることになるでしょう。
 また、(一時的にでも)EM菌投入によって水質が良くなるとしても、環境保全の観点から考えてみると、元々その環境にはいなかったEM菌が在来の微生物と置き換わってしまうのは望ましい状態と言えるでしょうか。もし、在来の微生物がEM菌に駆逐されて姿を消してしまえば、本来の環境保全とは言えないと思います。顕微鏡を使わないと目に見えず、普段はその存在に気が付きにくいのですが、微生物達も環境の生態系を構成している立派なメンバーです。元々その環境に住んでいた在来の微生物の復活についても気に掛けることは必要でしょう。(微生物を増やすのに外来のEM菌を入れてしまえば良いと考えるのは、魚を増やすのに外来の魚を入れたら良いと考えるのと、あまり差はないかもしれません) EM菌を投入すれば良いと考えるのは、本来そこにあった複雑な生態系の事を忘れた安易な考え方であると思います。

 次に紹介するのは、水質が悪化してきている沼を改善する方法としてEM菌を投入する検討をしていた市民団体(大沼水質改善研究会)の例です。(←誤読回避のために、語順を変えました)本沼から分離している小さい沼を試験用の沼として、EM菌を投入して水質改善を検討していましたが、ある程度の効果はあったものの、どうしても満足のいく水質までには達成できずにいました。(←誤認がありましたので、この部分を削除します) この研究会の発足時に計画されていたEM菌投入は大沼に流れ込む河川への投入を含めて全て中止されました。その理由として環境保全の観点から外来微生物の投入は止めるべきであるし、EMを構成する微生物の種類が全て明かされておらず、大沼という開放系で不明な微生物が混ざった微生物資材を使うことで何が起きるか保証ができないとして反対する意見が会員から出され、同研究会で議論された結論として計画を中止してEM菌投入はしない事になりました。この団体は、水質改善として在来の菌を活性化させる方向が望ましいと方針を変え、環境保全の面からもEM菌は沼には入れずに、別な場所で浄化装置の洗浄などの補助的な活用をすることにしたそうです。新たな対策として水中に不足している酸素を供給できる細かい空気を送り込む装置により酸素濃度を高めた水を投入して試験したところ、元々沼に生息していた好気性菌(活動に酸素を必要とする菌)が活性化して水質が有意に改善されました。

以下の実験データは、渡島総合振興局に提出された報告書です。
「大沼湖水浄化予備実験」門上技術開発研究所 門上洋一

《サンプル採取地点》

《水質改善効果》
採取した水5Lにに対し、ナノバブル水(見かけDOが30mg/L)を1%量50ml添加し、室温(15℃)で一週間静置した時に水質がどう変化したかを測定。

[結論部分引用]
 採取した水全てにおいてアンモニアの低下が見られ、アンモニア酸化菌(硝化菌)の活性化が起こった。それに伴い、亜硝酸が若干増加し、硝酸値も上昇していることから亜硝酸酸化菌(硝化菌)が活性化されたと判断できた。硝化菌が働くと、炭素源である炭酸塩(KHによって測定される炭酸水素塩量)が低下するが、これも認められた。DOは最初ナノバブル水を添加したことで大幅に増加したが、1週間後には低下しており、好気性菌の増殖に利用されたことが判った。
 以上の結果により、採取した水に対してナノバブル水は十分な酸素を供給し、それに伴って硝化菌が活性化されることが実証された。


函館新聞:大沼の水質浄化「小さな泡」有効 (2011年10月18日)
(魚拓) http://megalodon.jp/2013-0428-2111-58/www.ehako.com/news/news2010a/3564_index_msg.shtml

 大沼の自然浄化を目指す「大沼水質改善研究会」(榊清市会長)はこのほど、環境浄化技術を研究する門上技術開発研究所(函館市)の門上洋一所長と共同で、酸素の微少気泡(マイクロナノバブル)を投入し、微生物の活性化を図る実験に成功した。
 同研究会は、民間非営利団体(NPO)や研究者などが一体となり、2008年に発足。大沼に流れ込む3本の河川からの有機物流入などを水質汚染の原因と考え、農業や漁業関係者などと協力しながら、水質浄化実験を行ってきた。
 同会ではこれまで、水質改善に効果があるとされるEM菌(有用微生物群)を活用した実験を中心に行ってきた。しかし、さらに効果的な方法を探っていく中で、門上所長のアドバイスの下、マイクロナノバブルを使った実験に初めて取り組んだ。今月6日から約5日間、大沼公園駐車場裏手の一角の沼地(500平方メートル)に、2トンのタンクで湧水を利用したマイクロナノバブルを製造し投入。区域内の水を3ヵ所から採取し、水質の経過を調査した。
 調査の結果、溶存酸素が増加し、好気性の硝化菌(アンモニアを分解するバクテリア)の活性化が見られ、呼吸の結果を示す二酸化炭素発生の数値が増加したことなどが裏付けとなり、マイクロナノバブルが、湖水の水質改善に有効という形になった。

 この函館新聞記事の「同会ではこれまで、水質改善に効果があるとされるEM菌(有用微生物群)を活用した実験を中心に行ってきた。」という部分は、実際の活動とは違っており、同研究会としてEM菌投入はやらないと結論されたので、EM菌による水質改善実験は費用の無駄になるので同会の活動としては全くやっていなかったそうです。
 酸素供給装置による水質改善効果は高いものの、広大な沼全体にこの装置による水を投入するのは大量になり大変なので、根本的には沼に流れ込む農場からの汚染水や生活排水からの汚れを減らす排水浄化設備などの改善をしていく必要があると思います。(マイクロナノバブル水による酸素供給はヘドロの溜まりが目立つ場所などにポイントを絞って使っていくのが効率的ではないかと思います)

(追記)函館五稜郭公園の本堀へのEM投入も計画段階で中止

2005年11月7日付の函館新聞記事では、「炭効がEM菌で五稜郭公園の小堀の浄化成功」という記事タイトルで、本堀へのEM投入に意欲を見せている様子が報じられました。
この件について函館市の土木部に確認をしたところ、「小堀の水質が良くなったのはEM菌を入れた効果よりも、途中で堀の底部のヘドロを除去した効果によるものが大きかったかもしれず、EM菌を投入せずにヘドロを除去した場合の水質変化と比べてみないと、どれだけEM菌投入効果があったか判断できない」とのことでした。EM投入効果を検討するため、函館市の土木部との打ち合わせをする会議が行われましたが、途中から業者(炭効)が出席しなくなり、本堀への投入計画は立ち消えになったとのことです。よって、業者(炭効)によるEM菌の効果の検証が中途半端のまま、結局うやむやになってしまった様です。なぜ、その業者がEM菌によるお堀の浄化作戦を止めてしまったのかは不明です。

 一旦、生態系のバランスが崩れてしまうと、元の環境に戻すのは本当に大変なのです。環境教育はこうしたことをきちんと教え、「EM団子を投入すれば水が綺麗になってバンザイ」の様な、安易な解決策の提示で終わってはいけないと思います。EM菌さえあれば、自然環境が汚れても挽回できるという短絡思考になってしまえば、環境を汚さない様に気を付ける気持ちが薄らいで本末転倒になってしまうでしょう。
複雑な問題に対して、安易な解決策を提供して「これで万事OK」として売り込むのは、ニセ科学一般に共通しています。EM菌と同様に学校に入り込んだ『水からの伝言』も、自分で悩みつつ考えるのではなく、「水」に代わりに答を出してもらうという安易さがありました。こうしたお手軽に解決できるものを求める心理に、ニセ科学はつけ込んできます)

 それと、これまでにEM菌を投入することで河川などが綺麗になったと報告されているケースを調べてみると、その地域では河川を汚さない様にしようという住民意識が高まっていて、例えば食器の汚れを古新聞で拭き取ってから洗ったりと、生活排水の汚れを少なくする努力が同時に行われたりしています。複合的に多数の対策が同時に行われているので、結局はどれが一番効果を出していたのか良く分からない状況になっています。なので、「EM菌を投入した→水質が良くなった→EM菌の効果」とは限りません。それは偶然だったかもしれないのです。紹介した広島県福島県の公的な試験では、EM菌の投入は逆に河川や海の汚染源になってしまう可能性が指摘されており、EM団子の投入は環境保全の意味を考え合わせても、安易に河川や湖・海などに「どんどん放り込む」ことはせず、もっと慎重になった方がよいだろうと思います。

 EM菌を学校教育に取り入れる場合に気になる事として、プール清掃に微生物の性質を利用しようとするくらいは否定しませんが、EM菌の提唱者である比嘉氏がEM菌の効果について非科学的で荒唐無稽な主張を繰り広げており、それを科学的であるかの様に宣伝している問題があります。尚、プールの汚れがEM発酵液で落ちやすいと感じるのは、この発酵液は酸性(pHが3〜4)なので、拭き掃除にお酢やクエン酸などが使われるのと同様の効果による可能性があり、EM菌の働きそのものは関係ないのではないかと推測されます。
 EM菌が堆肥作りをメインとした普通の農業用資材として売られていればさほど目くじらを立てなくても済むのでしょうが、提唱者によるニセ科学の流布という懸念される背景があるので、子供達がEM菌は「役立つ」ものだと肯定的に学ぶことで、比嘉氏のトンデモ主張に対する警戒心が薄れて、その先に続くニセ科学信棒への入り口となってしまわないかと危惧しています。比嘉氏の講演会に生徒を連れて参加している学校まであり、深く憂慮します。EM菌と同様な微生物資材は世の中に色々とあるのに、よりによってニセ科学へと繋がっているEM菌をわざわざ選定する理由はあるのでしょうか? また、環境教育としては、商品となっている微生物資材を利用するのではなく、その土地の土壌細菌を利用するということを検討してみても良いのではないでしょうか。


<EM石鹸について>

 EM石鹸は、「洗浄力をアップする」「排水となって流されると水環境を浄化する」として宣伝されて広められていますが、これに関しては公正取引委員会から、『景品表示法 第4条 違反行為の未然防止』に基づく注意を受けて商品宣伝としては使ってはいけない事になっています。
(参考)ニセ科学と石鹸の諸問題
http://www.live-science.com/sci/syabo/ca02/after05.html

 EM菌そのものは、石鹸を作る過程で混入した時に強アルカリによって死滅するはずです。生きたEM菌が石鹸から出てきて環境中で働くというのは考え難いです。多くの使用者にとっては、よく宣伝にありがちな「植物エキス配合でお肌に優しい」みたいな感覚で「EMエキス配合」というイメージなのかも知れませんが、EM由来成分の効果については検証が不充分です。EM菌を混ぜることによって「抗酸化力」が生まれるという理由付けもかなり怪しく、他の石鹸より優れているかどうか疑問です。

 他にも、新聞記事ではEM菌入り土器とか、EM菌入りアロマキャンドルとか、「それ、EM菌は生きてないし、意味ないでしょ?」という商品が紹介されている記事がいくつかありました。


被災地支援について>

 EM菌による被災地支援では、積み上げられた瓦礫の山で腐敗が進み悪臭が出るのを防ごうとEM菌の培養液が散布されていましたが、期待した程の効果は無かった様です。

毎日新聞東日本大震災:高校わきにがれきの山 生徒らに広がる不安−−宮城・石巻 (2011年5月15日) 
(魚拓) http://megalodon.jp/2013-0505-2307-06/mainichi.jp/feature/news/20110515ddm041040176000c.html

 東日本大震災のがれき仮置き場が隣接地にできた宮城県石巻市の県立石巻商業高校で、せきや目のかゆみなど不調を訴える生徒が出始めた。全校生徒にマスクを配布するなどの防衛策をとっているが、生徒たちに不安が広がっているという。
 この仮置き場は市内5カ所あるうちの一つ。周辺住民や同校の苦情を受けて市環境課も、臭いを緩和するEM菌(有用微生物群)の散布や、囲いを高くするなど対策をしたが、効果は上がっていない。市内で発生したがれきは約540万トン。処理をするための2次置き場の場所が決まっていないため、仮置き場からがれきを動かせず、市も苦しい立場だ。

 微生物の働きとして悪臭対策に利用することは可能だと思われますが、やはり万能ではないということでしょう。

 EM菌を散布すると塩害が防げるという宣伝についても、眉唾ものです。
「JAいしのまき」のHPのトピックとして、2011年5月25日にEM菌による除塩試験をするという記事が掲載されていましたが、その後2011年6月24日の記事には石巻市内の農業関係機関が集まった石巻管内除塩対策会議での検討結果が報告されていました。
http://www.ja-ishinomaki.or.jp/topics/110624_01.html

 圃場環境が整備され十分に真水の入水、代かきができた地域では除塩の効果が得られました。

 今後の除塩対策としては、堆積したヘドロ除去を迅速に行い、真水入水による代かきを繰り返し行うことなどがあげられました。

とあり、EM菌散布による対策については推奨されていませんでした。

 微生物をいくら投入しても圃場の塩分が消滅することはないので、塩(NaClなど)が微生物に一時的に取り込まれたとしても、再び微生物から排出されたり、微生物が死んだりすればまた環境中に戻されてしまいます。微生物が塩(NaClなど)を全く別の元素から構成される別の物質に変換することはないので、EM菌を散布しただけではいつまでも塩が減らずに存在し続けることになります。塩分の濃い層を除去したり、真水を入れて塩分を流し去る方法の方が除塩として確実であるし、理に適っています。

 「EMぼかし」「EM堆肥」による農作物の放射能対策については、EMの特殊効果で放射能が消えるという宣伝は眉唾です。以前にもこちらのブログで解説した通り、EMを使って作られた堆肥ではなくても、普通に堆肥中に含まれている交換性カリウムの働きで放射性Csの作物の移行を抑えることができます。

・EMで作物の放射性セシウムの吸収を低減できるか?
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20120907/1346997502
・EMの「抗酸化波動」によって土壌の放射性セシウムを消滅できる?
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20120923/1348388554


 以上、EM関係の新聞記事を解析していて出てきた主なテーマについて考察しました。
 このエントリーには、今後、随時追記等をしていきます。