EMによる水質改善効果徹底検証(1)-沖館川編

EM菌による水質改善効果に関して、検証を行いました。

まずは、前回の「沖館川では今もEM投入が行われているのか?」についての検証の続きから入ります。

EM推進団体が盛んに宣伝しているように、EM団子やEM活性液(EM菌の培養液)に顕著な水質改善効果を期待することはできるのでしょうか?

 

【沖館川ヘドロ調査】のおさらい

平成15年(2003年)9月から平成16年(2004年)9月にかけて、沖舘川の相野橋からEM菌の培養液を投入し、ヘドロが減少するかどうかの実証試験が青森県で行われました。この結果は、中間報告書と最終報告書に分けてまとめられています。

 

中間報告書「平成15年度沖館川河川維持調査業務委託報告書」(PDFリンク)

最終報告書「平成16年度沖館川河川維持調査業務委託報告書」(PDFリンク)

 

以下に、EM菌投入地点と各調査地点の地図を示します。

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(調査結果)

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※EM菌投入下流地点の「工橋」と「沖舘橋」よりも、上流地点である「西滝橋」でヘドロが減っておりEMの効果によってヘドロが減少したとは言い難い結果でした。

 

(要因の考察-最終報告書)

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(上記考察から抜粋)

「本調査での1年間のヘドロ層厚の変動は、生物の活性が低くなる低温期に向かって減少し活性が高くなる高温期に向かって増加していることからいわゆる生物活動によるヘドロ分解による底泥中のヘドロの減少というものではないと考えられる

 

すなわち、青森県による調査報告書での最終判断は、「ヘドロの減少は、EM菌を含む生物活動によるヘドロ分解の効果ではないと考えられる」という、むしろ否定的なものでした。

 

今回は、EM菌投入による沖館川の水質浄化効果はあったのかどうか、更に詳しく検討をしていきました。

 

【沖館川で、満潮時に海水が逆流する範囲について】

沖館川の河口近くは感潮域となっており、満潮時には海水が川を遡上(逆流)してきます。EM投入地点である「相野橋」よりも上流まで、この逆流が達しているかどうかを検証しました。

 

・青森県環境保全課から、2003年9月~2004年9月までの1年間(上記ヘドロ調査と同時期)における、以下の各地点での水質測定データを頂きました。

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この水質測定の項目には塩素イオン濃度が含まれています。海水が遡上すれば、海水に含まれる塩分により塩素イオン濃度が高まるので、逆流を検知することができます。

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調査した中で最も逆流したと考えられる2004年2月10日の時点で比較しても、「滝内橋」と「西滝橋」は、さらに上流地点とほぼ同じ塩素イオン濃度であり、これらの地点での逆流現象は明確に検知できませんでした。特に、「西滝橋」は「三内橋」と常にほぼ同じ塩素イオン濃度であることから満潮時の逆流は「西滝橋」まで到達しないと見なして、上記ヘドロ調査での「EM投入なし」の対照地点として位置付けて良いと考えます。

 

 

【沖館川の水質はEM菌投入によって改善したか?】

続いて、平成10年(1998年)度からの沖館川の水質変化を調べて、EM菌の投入効果が見られるかどうかを検証しました。沖館川の長期的な水質検査データは、青森県環境保全課から「公共用水域水質測定結果」の記録を頂きました。調査地点は「滝内橋」と「沖館橋」の2ヵ所です。「滝内橋」では平成11年(1999年)度から記録されています。次のグラフで、同じ期間のBODのデータを比較します。

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EM投入地点よりも上流にある「滝内橋」と、下流にある「沖館橋」の水質変化の傾向がほぼ一致しています。これが意味することは、EM投入効果が2か所の調査地点の差ととしてほとんど表れていないという事です。学校や市民団体の活動により2005年頃から水質改善を期待してEM菌が本格的に投入されていますが、残念ながらEM投入効果は明瞭に見いだせませんでした。

まず先にBODの推移を示しましたが、「沖館橋」での他の水質指標の推移も示します。こちらは平成10年(1998年)度からのデータを使いました。

 

BODのグラフも、データのバラツキと全体的な傾向が見やすいように散布図にしました。

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全般的にEM菌投入よりも前から少しずつ沖館川の水質が良くなってきていますが、この改善がEM菌によるものではないとしたら何によるのでしょうか? この有力な要因が「下水道普及率」です。

次に、沖館川のBOD変化と流域の下水道普及の様子を並べて、両者の関係を視覚化してみました。

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以下の青森市の各地区の下水道普及率のデータは、青森市環境部下水道整備課から頂きました。

 

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(参考)下水道普及率と河川の水質改善の関係を示した資料です。

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沖舘川流域を含む新田処理区での下水道普及はH27の時点でも7割に満たず、青森市の中でも遅れています。下水道の普及が進められることで、効果的な水質改善が見込めるだろうと思われます。

  

※次回は、EM推進団体が盛んに宣伝している東京の日本橋川について、EM菌投入による水質改善効果の検証をしていきます。

EMによる水質改善効果徹底検証(2)-日本橋川編 - warbler’s diary