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『「健康食品」のことがよくわかる本』-賢い消費者になるための知識が満載

 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部に勤務され、「食品安全情報blog」で情報発信を続けられている畝山智香子さんの最新の著作です。具体的な事例が豊富で、この本をしっかり読むとかなり勉強になります。一家に一冊あると良いと思います。

  

「健康食品」のことがよくわかる本

「健康食品」のことがよくわかる本

 

  

 「食品」として売られている健康食品は、医薬品よりも副作用が少なく安全そうで健康維持・増進のためにお手軽に利用できるイメージがあります。しかし、実は医薬品よりも安全ではないのです。効果の他に副作用のチェックも厳しい医薬品に比べて、食品カテゴリーの健康食品の健康影響に関するチェックは事実上ザル状態であり、健康被害も意外と多いのです。

 

 この本では、詳しい解説に加えて具体的な事例が豊富に紹介されており、とても参考になります。内容を一部紹介します。

 

「第1章 医薬品はどう安全なの?」について

 ここでは、医薬品の安全性について詳しく解説されています。医薬品の開発過程では、薬が体内に吸収され、代謝されて対外へ排出されるまで、どうなっていくのか細かくチェックされます。また、薬が最も有効となり副作用が少なくなる投与の仕方も調べられます。さらに、医薬品として販売された後も調査が続けられ、有効性・安全性の再確認が行われます。もし長期間の服用で問題があれば、ここでチェックが働きます。こうした市販後調査によっても、医薬品の使用上の注意の改訂、重篤な副作用による登録取り消し、有効性がないと判断されて自主回収されたりするケースがあります。

(私からの補足事例: 消炎酵素製剤「ダーゼン®」の自主回収

 http://www.takeda.co.jp/news/2011/20110221_4752.html

 

第1章で取り上げられている医薬品の事例(詳しくは本を読んで下さい)

事例1-サーチュイン活性化因子(レスベラトール): 薬としての開発が中止

事例2-ソリブジン(抗ウイルス薬): 市販後に副作用が明らかとなり登録取り消し

事例3-ベンザブロック: 使用上の注意(添付文書)の改訂

  

「第2章 食品が安全とは?」について

 食品のリスクには様々なものがあります。食品の多くは経験的に食べても直ぐにお腹を壊したり病気になったりしないと分かっているのですが、全ての成分と各成分の健康影響が判明しているのではありません。そこが医薬品との大きな違いです。

 食品としてずっと食べられてきたけれども、ある時から毒性が判明した事例としてスギヒラタケがあります。2003年に急性脳症を発症する透析患者が多く見つかり、スギヒラタケとの関連が発覚しました。調査すると透析患者の他にもスギヒラタケを食べた人に急性脳症を発症したケースが見つかりました。このケースの様に昔から食べられてきたから安全というわけではなく、昔と比べ寿命が延びて透析したりして生き延びている人達が増えてきた事で、有害なものが新たに見つかるケースも実際にあります。

 

この本のP32にある食品の安全性についてのイメージ比較の図を引用します。

f:id:warbler:20160317221442p:plain

 

 食品のリスクというのは、完全には把握されていません。さらに専門家と一般の人達のイメージにはこの図の様に大きな違いがあります。例えば添加物や残留農薬ばかり気にしていると、他のリスクの認識がスッポリと抜け落ちてしまいます。

 

 一般的に消費者が気にする添加物や農薬、放射能汚染などは安全性の基準が設けられており、食品が店頭に並べられる前に厳しくチェックされているので、本当は他のリスクの方が落とし穴だったりします。むしろ天然物に毒性があったりするので、「自然に近いから安全」ではない事は、心しておきたいポイントです。

 

第2章で取り上げられている食品による健康被害の例(詳しくは本を読んで下さい)

事例1-スギヒラタケ: 先に説明した通り

事例2-スターフルーツ: 腎障害のある人に神経症状を起こすと判明

事例3-アマメシバ: 健康食品として売られ、重篤な肺機能障害の患者が多数出た

事例4-ウコンと昆布: ウコンによる肝障害と、昆布による甲状腺障害

事例5-ピロリジンアルカロイド: 様々な植物に含まれる有害物質で肝障害を起こす

 

 事例3のアマメシバでは日本で健康食品として売られていたものを食べて重篤な肺疾患となった被害者たちが、健康食品の製造業者などを相手に鹿児島と名古屋でそれぞれ平成16年に裁判を起こしました。これについて、私の方でも調べてみました。

 鹿児島地裁では和解(H21.11.30)しており被害者への支払額は不明です。名古屋地裁では被害者2名に対して7621万円の支払いが命じられましたが(H19.11.30)、控訴により名古屋高裁で6233万円の支払になりました(H21.2.26)。減額理由は、被害者らの体質や素因が相当程度関与していると推認できるというものでした。さらに最高裁に上告されましたが不受理で終わっています。(名古屋高裁では被害者2名と、アマメシバを使った健康食品の宣伝記事を掲載した出版社&宣伝記事で効果にお墨付きを与えるコメントをした医学博士の間では和解して被害者に600万円が支払われました)

 

参考: 国民生活センター 製造物責任法(PL法)に基づく訴訟(平成23 年8 月31 日までに提訴を把握したもの)アマメシバは事件番号85、86

http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111006_4_2.pdf

 

 被害があった場合には泣き寝入りせず、次の被害者を出さない為にも訴訟するというのは1つの有効な方法です。しかし、裁判には費用もかかる上に、長期間を要するものが多く精神的にも大変です。参考までに、被害者が個別に訴訟をして大変な負担をせずに済むように、消費者団体が代理で訴訟するという制度があり、企業に対して契約や勧誘の差し止めを請求することができます。

・消費者団体訴訟制度について http://www.kokusen.go.jp/danso/ 

この制度で差止め請求できる対象 http://www.kokusen.go.jp/danso/sashidome.html

(事例)京都消費者契約ネットワークとサン・クロレラ販売株式会社の判決について

http://www.caa.go.jp/planning/pdf/150209_3.pdf 

 

 

「第3章 食品と医薬品の間に何があるの?」について

 この章では、医薬品と食品の中間に位置するいわゆる「健康食品」についての各国の制度について解説されています。各国で分類や制度の内容が違っており、それぞれの制度の違いによる問題があります。EUの新しい制度がどれだけ上手く行くのか、興味深いところです。

 以下に、自分の知識整理として、畝山さんの解説を基に概要をまとめました。

 

日本: 医薬品医療機器東等法の「食薬区分」に目安が提示されており、基本的に医薬品以外は食品に分類。

 

オーストラリア: オーストラリア保険証薬品医薬品行政局(TGA)が識別ガイドライン。治療用品と見なされる場合には、TGAが評価して製品を登録し、製品には登録番号が表示される。高リスク商品(AUSTR)とされた製品は有効性と安全性を評価。低リスク商品(AUSTL)はサプリメントなどであり、安全性評価のみ。伝統的治療薬でも高リスクと見なされたらAUSTRに分類し有効性も評価される。ただし、制度が守られずに問題が度々起きている。

 

カナダ: ナチュラルヘルス製品(NHP)として、サプリメントや天然成分を含むパーソナルケア製品、ホメオパシー製品などを分類して規制。製品の品質と安全性に関する情報を保健省通知し、販売許可を得て製品番号を表示する。DIN(医薬品)、NPN(ナチュラルヘルス製品)、DIN-HM(ホメオパシー製品)、EN(除外)に分けて製品番号が付与され、登録情報が保健省のウェブサイトで確認できる。製造業者には有害事象報告義務があり、この情報も提供される。ナチュラルヘルス製品は有効性の評価はないが、医薬品同様に製品番号が表示され、見分けにくいという問題があり、ホメオパシーによるワクチン拒否による感染症の発生などが問題になっている。

 

欧州(EU: 食品サプリメント規制により、使用できる成分や顔料基準が定められている。「伝統的」ハーブ治療薬製品はハーブ指令により登録制。

英国では、英国医薬品庁(MHRA)がこの指令に基づき伝統ハーブ登録(THR)を運用し、認められているのは軽い症状の緩和程度の宣伝。医薬品(PL)同様に有害事象を経験した個人からもウェブサイトから報告できる。

 EUの制度は運用実績がまだ浅いので、実効性などの評価はこれから。

 

米国: ダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)によって規定され、米食品薬品局(FDA)の審査はない。製品の販売禁止はFDAがリスクを証明する必要があり、実際に健康被害が出てからでないと規制の権限がないという問題がある。食品として使用された事がないものは新規食品成分としてFDAに通知する必要があるが、実際は通知されていないケースが多いことから、FDAは2007年から製造品質管理基準(GMP)の適用を開始。これによって、FDAの指導が入り易くなった。

サプリメント大国である米国では、栄養不足ではないので不必要なのにサプリメントを使用する人たちが増加し、含有成分による肝障害が増加するなどの問題が出ている。

 

第3章で取り上げられている健康食品による被害の事例(詳しくは本を読んで下さい)

事例1-マヌカハニー: 有効成分とされるメチルグリオキサールの含有量の問題

事例2-中国伝統薬アリストロキア酸: 発がんを含む健康被害

事例3-エキナセア(ハーブの一種): 有効性(無いか小)<リスク(大)

事例4-イチョウ(ハーブ医薬品):ギンコール酸によるアレルギーや発がん性

事例5-エフェドラ(麻黄): エフェドリンによる血圧上昇等で重篤な健康被害

事例6-アカシア: 本来は成分ではない合成薬物を混入した製品が出回る

事例7-オキシエリートプロ(サプリメント): 肝障害。個人輸入で日本でも被害者

(訂正)事例7で、日本でも死亡者としていましたが、死亡者は米国で報告されています。日本では20代と30代の女性がそれぞれ急性肝炎、食欲不振・吐き気・嘔吐・黄疸の症状が出るという健康被害が報告されています。

 

「第4章 食品の機能表示とはどういうもの?」について

 健康食品の機能性の表示についても、各国で違っています。こちらも同様に要約して紹介しますが、詳しくは畝山さんの本を読むことをお勧めします。

 

欧州(EU: 事前に評価され認められたものしか表示できない、ポジティブリスト制。企業が欧州食品安全機関(FFSA)に根拠となるデータを提出し、FFSAが科学的な根拠に基づく評価をしてEUがリストを更新する。

 

 FFSAが認可できないと判断した例として、「ヒアルロン酸が皮膚の保湿に役立つ」「コラーゲン加水分解物が関節の健康に役立つ」「グルコサミンが関節の軟骨の維持に効果がある」というものが挙げられています。日本ではよく見かける健康食品の宣伝文句ですね。

 FFSAでは厳しい審査がされており、日本の特定保健用食品(トクホ)で認可されているものであっても、科学的根拠がないという判断がされています。

 注目するのは、FFSA「プロバイオティクス」(ヨーグルトなどの乳酸菌や発酵食品)についても科学的根拠が不十分として却下している事です。これは、微生物を使う飼料添加物や微生物を使う農業でも同様とのことです。却下理由として、

 

・菌の種類が同定されていない。(単に乳酸菌というのではダメで、菌株の同定がされていないものは基本的に却下)

・菌株が同定されていても、プロバイオティクスの効果とされる影響が本当に健康に良いか証明されていない。

・悪玉菌が減るというのも、悪玉菌とされるものが病原性かどうか区別されておらず、病気との関連が立証されていない。

・免疫機能強化というのも、何をもって免疫機能を「強化」したと判断できるか、実際の健康に良いと判断できるのか不明。

 

などの理由が紹介されています。

 

プロバイオティクスについては、膵炎患者の臨床試験で死亡を含む重大な副作用が報告されたり、未熟児に使用したことでプロバイオティクス菌に感染した事例が報告されています。体が弱っている人達に対しては、注意が必要です。

 

・膵炎患者の臨床試験で死亡を含む重大な副作用の報告

Probiotic prophylaxis in predicted severe acute pancreatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.

Lancet. 2008 Feb 23;371(9613):651-9.

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(08)60207-X/abstract 

・未熟児がプロバイオティクスサプリメントを使用して消化管ムコール菌症により死亡した事例

http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6406a6.htm?s_cid=mm6406a6_w 

 

米国: ダイエタリーサプリメントの表示は企業の責任であるが、FDAが科学的根拠を評価し、表示できる文言を提示する限定的健康強調表示がある。提示できる文言は厳密で、「…しかしながらFDAはこの根拠は限定的で決定的ではないためこの主張を支持しない」など、宣伝に使えなさそうなものとなっている。企業が勝手に意味を変えて表示するとFDAから警告される。

 

日本: 「保険機能食品」として、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品がある。機能性表示食品は国が審査し、食品ごとに消費者庁長官が許可して機能表示ができる。栄養機能食品は栄養学的なコンセンサスに従っている。トクホに要求される科学的根拠はEUのFFSAよりも緩いことは前述の通り。機能性食品の制度は2015年4月に始まったが、本来は臨床試験の事前登録が必要であるのに施行後最初の1年以内に開始された研究は必要なしとされているので、実質的にザルとなっている。

 

韓国: 国が商品や成分ごとに評価して表示を認める健康機能食品という制度があるが、主力は朝鮮人参。朝鮮人参はこれまでの研究では明確な効果は証明されていない。生薬のニセ物騒ぎがあり、このニセ物の安全性試験をすることになった。

 

第4章で取り上げられている消費者を誤解させる事例(詳しくは本を読んで下さい)

事例1-認められた言葉しか表示できない制度でも、巧妙に消費者を誤解

事例2-プレスリリースで誤解: 例えば相関があっても因果関係があると限らない

事例3-科学的根拠の判断の難しさ: 効果の根拠は捏造論文であった事例

事例4-チョコレートで痩せる: 巧妙に騙す手口「毎日がエープリルフール」

事例5-過去の研究の亡霊: 棄却された健康説が利用され続ける「抗酸化物質」等

 

 日本でもなじみ深い「抗酸化物質」は、細胞に傷害を与えるフリーラジカル除く働きがあるとして登場し、いろいろと検討されましたが抗酸化の評価方法が定まらず、さらに健康に良いという科学的根拠が得られていません。実際には意味のない概念になっています。米農務省(USDA)が酸素ラジカル吸収量(ORAC)という指標を出しデータを公表していましたが、健康影響とORACの数値に関係がない事が判明して取り下げられました。しかし、このデータが今でも健康食品業界で利用され続けています。

 

(参考)ORAC: 誇大評価された抗酸化宣伝

http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20120906#p9 

 

「終章 食品の機能とはそもそも何?」について

 食品の最大の機能は栄養を供給することです。食事のバランスや量は、健康に大きく影響します。一般的な食品そのものに、健康にとって重要な機能があります。

 健康食品には医薬品の薬理作用に近いものが期待されてしまいがちですが、そうした効果があれば医薬品として扱われます。効果がはっきりしないからこそ健康食品として扱われているのです。畝山さんは、例えば「血糖値の上昇を抑制する」と宣伝されている健康飲料を飲むよりも、キャベツの千切りを一緒に食べる方が血糖値の上昇が穏やかかもしれないと指摘しています。健康食品で期待できる効果は、食品としての枠を超えることはありません。

 有効性や安全性の検証に膨大な手間と費用をかけて開発されている医薬品よりも、そうした手間を省いている健康食品の方が高く売られていたりします。

 「機能性食品は気のせい食品」という業界関係者の言葉は、上手く言い当てていますね。体に良いと信じて健康食品をたくさん食べることで、食事のバランスを崩してしまうと本末転倒です。特に健康食品は副作用のチェックも甘く、医薬品よりも用心が必要です。

 

 その他に、食品の栄養成分表示の問題や、機能性表示の問題が取り上げられています。機能性表示の場合、例えば病気のリスクの代用指標として以前使われていた血中ホモシステイン濃度は、医薬品で調整してもリスクには関係ないことが判明しました。健康食品でよく宣伝されている「血中抗酸化能」「ナチュラルキラー細胞活性化」などのバイオマーカーは疾患との関連が不明で根拠が不十分です。

 医薬品では義務付けられている有害事象の報告が食品にはありませんので、ある食品による害があっても、別な原因だと思われてりして発覚し難いという問題もあります。

 

この章で取り上げられている事例(詳しくは本を読んで下さい)

事例1-フランスのニュートリビジランス(栄養監視)システムで発覚した健康被害

 

 フランスのニュートリビジランス(栄養監視)システム食品が対象である新しい制度で、この制度によって報告された有害事象の76%が食品サプリメントであり、24%が強化食品や特別用途食品とのことです。このシステムによって、新たな有害物質が見つかったり、成分の組み合わせによって起こる健康被害が認知されて被害を防ぐことができています。日本にも、こういうシステムが導入されると良いですね。