最近の名誉毀損による刑事告訴の動向など

名誉毀損の刑事告訴のハードルが高いのは、起訴率が1割未満と低いので警察が受理したがらないからだ」という説がネットで検索をするとちらほら出てきたので、本当にそんなに起訴率が低いのか調べてみました。

法務省検察統計データをダウンロードして、年度別の推移をグラフにしてみると次の様な状況が分かりました。
法務省の元データはこちら。 http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kensatsu.html

名誉毀損の「起訴数」と「不起訴数」の合計は全体的に横ばいですが、起訴数と起訴率はここ数年間で上がってきており、2013年(昨年)では起訴率34%でした。言われている程、低くない様です。
最近になって起訴率が上がってきているのは、一体何が要因としてあるのだろう?と思い、色々なデータを眺めていると、
名誉毀損の被疑者の中で男女不詳の人数が減ってきているのに気が付きました。

名誉毀損にはネットでの誹謗中傷が含まれていますが、匿名投稿者のIPアドレス開示など、被疑者を特定するノウハウが捜査機関に蓄積されてきて、誰なのかを特定して起訴できるケースが増えたのではないかと推測します。

もう1つ、ネットで名誉毀損の刑事告訴の受理に関して気になった説があります。
訴状を受理して貰う「裏ワザ」として、警察では受理を渋られてしまうので、直接検察に持って行くと受理され易いというものです。これについても、データを調べてみました。

(下図で司法警察官の送致というのは、警察を介して検察に送られたケースです)

これによると、警察が受理した件数は2011年までは減少していましたが、2012年からは増加する傾向にあり、警察は以前よりも受理を渋らなくなってきているのではないかと思われます。
一方、検察が直接受理した数は警察とは逆に全体的に減少傾向にあります。
「検察に直接持って行った方が受理され易い」というのは、実際のところ、どうなのでしょうね?

データの山が目の前にあると、つい色々と解析してしまいたくなるのが(元)研究者の性…。
ついでに「名誉毀損は初犯だとほとんどが起訴されない」という説もネットでいくつか見ましたので、調べてみました。

2006年〜2013年に名誉毀損で起訴された人の年齢分布と前科者の割合は、次の様になっていました。

初犯者が起訴された人の約7割を占めていました。よって、「初犯であれば起訴されない」という説はあまり当てにならないことが分かります。また、年齢分布を見ると、名誉毀損で起訴されたのは30代から40代半ばの年齢層が多いことも分かります。

次に、男女別で見てみましょう。

名誉毀損で起訴された人は、男性が約8割を占めています。
前科者の割合も男性の方が多く、女性よりも攻撃的な傾向が見られます。

法務省のデータには「被疑事実が明白」であっても、被疑者の状況などを考慮して起訴をしないでおく「起訴猶予」になった人達のデータもありました。こうした、名誉毀損と見なされる行為をしたけれども、起訴されなかった人達についてもデータ解析をしました。

起訴猶予になった人達の初犯の割合は約8割です。起訴されたケースと比べると、高年齢層が多くなっています。

次に男女別の結果です。

起訴猶予となった人は、男性が約7割を占め、女性の割合が起訴されたケースよりも多くなっています。

名誉毀損の「被疑事実が明白」であるとされた人達(起訴または起訴猶予された人達)の年齢分布をまとめてみました。
名誉毀損と見なされる誹謗中傷を行うのは、30代から40代半ばの年齢層に多いことが、さらにはっきりとしました。

上の図を見ると、高年齢層ほど「起訴猶予」の割合が増えていそうです。
分かり易くするために、「被疑事実が明白である」被疑者の年齢層別の起訴率を算出してグラフにしました。

未成年者と、高齢になるに従って起訴率が低くなっています。不起訴にするかどうかの判断には、やはり年齢も要因として大きいと思われます。

法務省のデータには、様々な情報が含まれています。
ついでに、名誉毀損で「起訴」「起訴猶予」となった前科者の前科種類についてもグラフ化してみました。

禁錮刑を受けていた人は、ほとんどいない事が分かります。他にも、解析次第で色々なものが見えてきそうです。

以上、興味半分に始めた解析データですが、せっかくなのでUPしてみました。
参考になれば幸いです。