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EMで作物の放射性セシウムの吸収を低減できるか?

放射線 EM関係

朝日新聞WEBRONZAに2012年8月24日に掲載された記事から、一部加筆修正して転載。

 環境に良い、体にも良い、さらには放射性物質放射能まで消してしまう、そんな魔法のような菌が宣伝され、広まっています。琉球大学名誉教授(現・名桜大学教授)の比嘉照夫氏が提唱している微生物の集合体のEM(有用微生物群)です。

 元々は土壌改良のために開発された菌でしたが、まくと悪臭が消え、生ゴミが肥料に変わり、糞尿処理も促進でき、ダンゴにして河川に投げ込むと水質改善にもなるなど、様々な効果がうたわれるようになりました。その万能ぶりや比嘉氏が「EMの効果は重力波によるもの」などと説明していることなどにより、一部学者などから「ニセ科学なのではないか」といった疑問も出されています。

 最近では、EMには、土壌内の放射性物質が農作物へと移行することを妨げる効果があることが実証されたと、EM情報室が宣伝をしています。EMで作った堆肥を使用することで、作物が土壌から吸収する放射性セシウムの量を抑えることができたというのです。

 ・速報 EMオーガアグリシステムシステムによる農産物への放射性セシウムの移行抑制効果を実証 福島県農林水産部が成果を発表
http://www.ecopure.info/topics/topics_082.html 

 この報告は、福島県が発表した資材別データを元にしていると思われます。
http://www.pref.fukushima.jp/keieishien/kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/minkan/240517taihidata.pdf

 これがもし本当ならば、作物に含まれる放射能値を減らしたいと願う農家にとっては、まさに朗報です。


■EMの効果の検証

 この試験を行った福島県農林水産部の「民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業」の報告については、その詳細版が出されているので、それを元に検証してみたいと思います。

・民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業成績書(詳細版)
http://www.pref.fukushima.jp/keieishien/kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/minkan/240517syousaidata.pdf 

 試験では、放射性セシウムを含む土壌に、調査する資材を加えた後にコマツナ栽培することによって、放射性物質の植物への移行がどのくらい阻害されるかという、吸収低減効果(移行抑制効果)を評価しています。

 調査した資材は、「EMオーガアグリシステム標準たい肥」(以降「EMたい肥」)、「微粉ハイポネックス」、「囲炉裏灰」の3種類です。効果を比較するために「塩化カリウム」と「無処理」が同時に試験されました。肥料成分に乏しい「囲炉裏灰」「塩化カリウム」「無処理」には、化成肥料が元肥として加えられました。

 試験の結果、生育量は、EMたい肥区、ハイポネックス区が無処理区と比較してやや勝り、囲炉裏灰区、塩化カリウム区は無処理区とほぼ同等でした。

 コマツナへの放射性セシウム(Cs)の移行係数は、次の式で計算されています。

 ・移行係数=[植物体(可食部)の放射性Cs濃度(Bq/kg 生重)]/[土壌中の放射性Cs濃度(Bq/kg 乾土)]

 コマツナへの放射性セシウムの移行係数は、次の通りでした。

 このグラフとみると、EMたい肥区は、塩化カリウム区や無処理区と比べて、放射性物質の移行係数が確かに小さくなっています。この結果から、EMの効果が実証されたと受け止めてもいいのでしょうか?

 実は、対照として用いられている塩化カリウム区のカリウムの量に疑問があるのです。

 下表は試験開始時の土壌成分のデータで、一番上がEMたい肥です。

 対照の塩化カリウム区は、塩化カリウムカリウムを供給して交換性カリウム(K2O)量を増やすことにより対照区としています。塩化カリウム区の交換性カリウム量は、微粉ハイポネックス区の交換性カリウム濃度とは同程度ですが、他のEMたい肥区や囲炉裏灰区とは異なっており、これらの試験区に対して交換性カリウム濃度を揃えた対照とはなっていません。

 実は土壌中に含まれる交換性カリウム濃度が、放射性セシウムの作物への移行に関して大きく影響を及ぼすことが実証されているのです。

(参考)『土壌−植物系における放射性セシウムの挙動とその変動要因』
http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/publish/bulletin/niaes31-2.pdf
 

 今回の実証試験のEMたい肥区は、まさに「多量のカリウム肥料の施用」となっており、対照とした塩化カリウム区よりも、交換性カリウム濃度が4倍以上も高くなっています。

 正しく実証試験を行うには、次のような対照区も作る必要があったのです。

 ◇[カリウム量に関して]EMたい肥区、囲炉裏灰区と同程度の交換性カリウム濃度になるように塩化カリウムを投入した対照区。
 ◇[有機質(有機肥料)に関して]EMを使用しない堆肥を同様に使った対照区。


 EMたい肥区と交換性カリウム濃度を揃えた対照区が無いと、EMたい肥には、そのなかに含まれるカリウム以外に有効な成分または性質があるかどうかを判別することができません。また、EMを使用しない堆肥を施用した場合とも比較をしないと、堆肥をEMで作ったことによって放射性セシウムの移行がどれだけ妨げられたのかについても判断ができません。

 興味深いのは囲炉裏灰で、試験開始前の投入成分中の交換性K濃度がEMたい肥の半分以下であったのに、収穫後の土壌中には交換性K濃度が各資材の中で最も高くなっていました。(下表) 土壌pHが上昇すると放射性Csの作物への移行が低下することが知られており、囲炉裏灰はアルカリ性であることから、その様な性質も関係している可能性があります。(試験データに、土壌のpHもあると良かったと思います) 囲炉裏灰についても、交換性K濃度を揃えた対照が無いのでK含量の他に効いた性質があるかどうか判別できなくなっています。

 コマツナ収穫後の土壌の交換性カリウム濃度と放射性セシウム移行係数の関係をグラフにしてみました(下図)。土壌の交換性カリウム濃度が高いほど、放射性セシウムの移行係数が小さくなる関係がきれいにでています。この結果と「有機肥料による放射性セシウム移行抑制効果は、主にカリウムの供給による」という従来の知見を考慮すると、EMたい肥で放射性物質の植物への移行が減っているかのようにみえたのは、EMの効果というよりも、EMたい肥に含まれているカリウムの効果によるものだったと考えられます。

 報告書では次のように結論しています。

 ◆今回供試した資材、施用量の範囲においては、資材による土壌中の交換性カリウム含量の増加が多いほど、コマツナへの放射性セシウムの移行が少なかった。
 ◆放射性セシウム濃度の減少と有機物との関連を確認するため、今後、通常の堆肥を用いた検討が必要である。

 
 また、栽培試験後の土壌の放射性セシウム濃度は次の通りでした。

グラフにすると次の様になります。

 EMたい肥区の土壌中の放射性セシウム濃度が、試験後に対照区等と比べて減っていることは確認できません。よって、提唱者の比嘉氏による"EMが放射性セシウムを消滅させる"(http://dndi.jp/19-higa/higa_57.php)という説明は成り立ちませんでした。


 以上の結果から、EMを使った堆肥である必要はなく、同程度のカリウムを含む一般の堆肥を使用した場合でも同様な結果がでることが予想されます。報告書の結論にある通り、今後、通常の堆肥を用いた検討が必要であると考えます。

 宣伝では、EMの放射性物質に対する効果が実証されたことになっていますが、実際には裏に、こういったカラクリがあったのです。