『福島県の子供の病死者数が増えている』ってホント?

タイトルの件について、福島県の子供の病死者数について、政府の統計データを調べてみました。
「人口動態調査」 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001028897 からデータを得ました。

福島県の子供の原発事故後の病死者数の変化については、次の様な解析が出されています。
・「福島県の子ども」の病死者数について 
http://dl.dropbox.com/u/17135518/nakate.pdf 
このレポートは英訳されて『Fukushima Voice』というサイトにも紹介されています。
・Report regarding the number of deaths due to illnesses in "Fukushima children" Changes since the Fukushima accident based on the government’s vital statistics data.
http://fukushimavoice-eng.blogspot.fr/2012/05/report-regarding-number-of-deaths-due.html?spref=tw 

また、これに対しては次の様な検証が行われています。
・Togetter:PKAnzug氏による検証 『福島県の子供の病死者数が増えている』?  
http://togetter.com/li/308924 

ここでは、さらに検証を進めてみたいと思います。
比較として、福島県と同様に地震と津波の被害を大きく受けた宮城県岩手県についても調べました。
福島県と宮城県・岩手県との違いは、上の図にある様に、原発事故により放出された放射性物質による汚染が宮城県・岩手県ではほとんど無いということです。
もし、この3つの県のうち、福島県だけに何か違いが見いだせれば放射線の影響を疑うこともできます。

まず、子どもの病死者数について、を比較してみました。
『Fukushima Voice』に紹介されているものは0歳児を除外していますが、紹介したTogetterで指摘されている様に0歳児を除外する理由があいまいな為、0〜19歳と1〜19歳の二通りで出してみました。

福島県は1〜19歳では2011年の方が増えていますが、0〜19歳では逆に2011年の方が減っています。
3つの県を並べてみると、福島県のみに顕著な傾向は見いだせません。

次に、子どもの病死者数の月毎の推移を見てみましょう。変化が分かりやすいように、折れ線グラフにしました。
こちらも0〜19歳と1〜19歳の二通りで出してみました。

どのデータを見てもゆらぎが大きくて、2011年の3月以降に増えているとも減っているとも言い難い感じですね。
もっと長期的な変化を見てみる必要がありそうです。

子どもの病死者数の年推移を調べてみました。同様に0〜19歳と1〜19歳の二通りで出してみました。

年推移で見ると、全体としてどの県も2011年は通常のゆらぎの範囲内に収まっている感じです。

気になる事としては、特定のタイプの病気が全体の中に隠れて見えなくなっていないかということです。
そこで、政府統計の病気の分類のうち、死因として多かった上位5つのものについて、0から19歳の子どもにおける、それぞれの死者数の年推移を調べてみました。
結果は次の通りです。

何れも、2011年だけ福島県の子ども達に目立って増えている様な病気はこれまでのところは見いだせません。
もう少し先の推移を見てみないとまだ何とも言えないですね。

以上の解析結果から、『福島県の子供の病死者数が増えている』と断言するのは難しいと思います。

It is difficult to say that the number of deaths in 2011 due to illnesses is increased in "Fukushima children".

[追記]

福島県の統計に0歳児を入れた場合と入れない場合とで、2010年と2011年のそれぞれ3月から11月までの期間の合計を比較して子どもの病死者数の増減が逆転する理由として、データのゆらぎによる偶然の結果ではなく、原発事故後に福島県から他県へ避難して出産をすることで0歳児の総数がかなり減っている影響ではないかという意見を頂きました。

そこで、政府統計の出生数のデータがあったのでグラフにしてみました。
上が全国、下が福島県の出生数の月毎の推移です。

福島県内での出生数が原発事故後にかなり減っているということはありませんでした。
また、出生数の季節変動のパターンの様なものが全国のデータと共通して見られましたので、その様な要因を省いて比較しやすい様に、最新のデータである2011年の11月の出生数と2009年・2010年の同月の出生数を並べてみました。
この比較からも、出生数が原発事故後に大きく減っているとは言えず、むしろあまり変わらないという結果が出ました。
参考までに追記します。
(また、福島県では周産期に発生した病態や先天性の奇形などによる死亡数も、これまでのところ特に増えていないというのは、既に年推移のグラフで示されています。)

[追記2]

上の追記で出生数に季節変動のパターンが見られることが分かり、参考として年度別に11月の出生数の比較をしましたが、1年間(12ヶ月)分の出生数を1月ずつずらして合算していくことで季節変動のゆらぎを解消して全体的な変化を調べる手法により解析してみました。
その結果が次のグラフです。全国のデータを比較として用い、最初の2009年1月〜2009年12までの合計出生数をそれぞれ100として相対変化を見てみました。

この結果からも、特に福島県で目立って出生数が減少しているということは見えてきませんでした。

ついでに、同じ手法を使って季節変動を解消した乳児死亡率(出生数10万人当たり)の変化をチェックしました。

福島県での乳児死亡率が最近になって上昇しているという兆候も見られませんでした。


[追記3]

政府の人口動態統計から算出した福島県における「乳児死亡」「新生児死亡」「自然死産」「人工死産」の10万出生数当たりの換算値の、2009年〜2011年の比較グラフです。このデータからは、それぞれ変動の範囲内と考えられ、特に目立った変化は無さそうです。