ストックホルム国際青年科学セミナー(SIYSS)派遣学生報告会

2016年12月14日に開催されたストックホルム国際青年科学セミナー(SIYSS)派遣学生報告会の取材に行きました。

記録的な意味も含めて報告会&記者会見の全体の書き起こしをしました。

若手科学者を対象とした、こうした国際交流イベントがノーベル賞授賞式と併せて行われていますが、科学コミュニケーションの事例としても参考になります。

 

ストックホルム国際青年科学セミナー(SIYSS)とは

 

(国際科学技術財団の解説から抜粋)

ストックホルム国際青年科学セミナー(SIYSS)とは、科学者を目指す若者を対象にした 1 週間にわたるセミナーであり、1976 年にスウェーデン青年科学者連盟がノーベル財団の協力を得て開始して以来、毎年開催されています。セミナーでは、世界各国から集った若者が現地の高校生を前に英語で各自の研究発表を行います。また、カロリンスカ研究所やストックホルムの大学・企業を訪問。さらに、一連のノーベル賞週間行事に参加しノーベル賞受賞者と直接交流する機会が与えられます。

 「Japan Prize(日本国際賞)」で知られる国際科学技術財団がSIYSSに参加する学生の募集と選考を行っており、毎年 2名をストックホルムに派遣しています。1987 年以降、56 名が派遣されています。

 

今年のSIYSS派遣学生に日本から選ばれたのは、京都大学大学院薬学研究科薬科学科専攻(修士課程)の松本明宏さんと、香川高等専門学校 専攻科 電子情報通信工学専攻の春日貴章さんです。

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ノーベル賞を受賞した大隅良典さん(中央)と、SIYSS派遣学生の松本明宏さん(左側)・春日貴章さん(右側)。[画像提供:国際科学技術財団]

 

以下は、松本さんと春日さんの報告と、記者インタビューの書き起こしです。

[発表スライド提供: 国際科学技術財団(提供不可の画像はPPTから削除)]

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派遣学生の自己紹介

 

 (松本)それでは、皆さんよろしくお願いします。私は京都大学の薬学研究科の松本と、こちらが香川高等専門学校の春日と申します。本日は、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。それでは、これから私たちが参加しましたストックホルム国際青年科学セミナーの報告をさせて頂きたいと思います。

(松本)簡単ではありますが、私と春日が大学でどういう事をやっているのかという研究内容と、私たちがこのストックホルム国際青年科学セミナーに応募した理由を簡単に説明させて頂きたいと思います。

 

 ◇松本さんの現在の研究開発テーマ

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(松本)私がやっている研究内容ですけれども、「がん免疫療法」という疾患治療のシステムを作る研究を行っています。「がん免疫」と言いますのは人の免疫システムの力を使ってがんを治療する分野になります。こちら(スライド右側)が従来の簡単な模式図になりまして、主にがん抗原(Tumor Antigen)というがんのマーカーと免疫細胞を活性化するアジュバント(Adjuvant)という物を患者さんに投与する、この様ながんワクチンの簡単なシステムになります。しかしながら、ここで2つの問題がありまして、がん抗原の種類が限られている事、アジュバントとがん抗原を免疫細胞に送り届ける必要があるのですが、その効率があまり良くないという事が問題点としてあります。

 

(松本)それで私は、細胞が出す小胞であるエキソソームという物に着目して、これを使って「がんワクチン」として使えないかという事をまず考えました。また、免疫細胞にこれらを送り届けるという事に関しては、エキソソームの表面にアジュバントという物を付けることで効率的に届けることができるのではないかと考え、研究を行っています。

 

◇ 松本さんがストックホルム国際青年科学セミナーに応募した理由

 

(松本)私が今回、ストックホルム国際青年科学セミナーに応募した理由としては、私は今現在は修士課程に在籍していまして、来年以降は博士後期課程に同じ研究室で引き続きこの研究を行い、学位を取得した後、大学で将来は研究をしたいと思っています。

 

(松本)大学は研究を行うだけではなく、学生への教育活動も大事であり、学生に科学を指導する際には、科学そのものを指導することも大事なのですけれども、学生に科学の楽しさを伝えることも非常に大切であり、学生を動機づける、やる気を引き出させることも大事だと思っています。私はこのセミナーを通して、科学の楽しさ、自分が気づいていない楽しさが他にあるんじゃないかと考え、それを見つけたいと思って参加しました。

 

(松本)この後で説明させて頂くのですけれども、ストックホルム国際青年科学セミナーでは、高校生、あるいは他の国から来られた若手の研究者に自分の研究を説明するチャンスがあります。その様な自分の専門外の人達に、自分の研究を英語で説明してちゃんと分かってもらえるかどうか、それも自分で試してみたい。どれだけ自分がそういう人達に英語で伝えられるのかという事を試してみたく、私はこのセミナーに参加し、国際科学技術財団のご支援を頂きまして、今回参加させて頂きました。

 

◇ 春日さんの現在の研究開発テーマ

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(春日)私は香川高等専門学校の春日貴章と申しますけれども、簡単にまず私の研究について説明させて頂きます。私は今、放射線の遮蔽方法を学ぶための教材の開発をやっています。と言いますのも、福島での原発事故以来、30年ぶりに義務教育に放射線教育が復活したのですけれども、30年間の間が空いておりますので先生方もあまり良く知らなかったりしますし、教材の更新もされていませんので、子供達が直感的に放射線を学ぶことができる教材が必要であるという事で開発しております。

 

(春日)こちら(スライド左側)が従来の図なのですが、これでも多少分かるのですけれども、ちょっと説明が足りない部分があるという事で、私はARという技術を使って、子供が手でコンクリートのブロックとか遮蔽台を持って、中でどういう風に放射線が止まるのかというのを目で見て、直感的に理解できる教材の開発をやっています。こちら(スライド右側)はゲーム形式になっておりまして、子供たちが楽しく、また遊びながら学べるような教材です

 

◇ 春日さんがストックホルム国際青年科学セミナーに応募した理由

 

(春日)私が今回SIYSSに応募した理由としましては、ノーベル賞というのはやはり基礎の研究に対して贈られることが多い賞ですので、私が現在やっているのは応用分野の研究に入るわけですけれども、来年度からは分野を変えて材料工学の方に行きますので、そういう応用から基礎に行くことで、きっと苦労すると思うんですけれども、そういった部分で基礎の研究を行う上での心得などを聞けたら、来年からの励みになるのではないかと思い、応募しました。

 

ストックホルム国際科学青年セミナーでの活動報告

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(松本)それではこれから、ストックホルム国際科学青年セミナーで私たちが行いました活動に関して報告させて頂きます。こちらが大まかなスケジュールになります。私たちは12月4日のお昼に成田からの便に乗りまして、同日の3時頃に現地に着きました。活動自体は12月11日までになりまして、12月11日の飛行機の便に乗りまして翌日の12月12日に日本に帰国しました。

 

(松本)こちらが活動になります。青、オレンジ、緑、黄色で色分けしましたのは、参加者交流、セミナー行事、ノーベル賞関連、その他食事などの活動ごとに色分け致しました。ご覧頂いて分かりますように、最初の方は参加者交流の活動が多いことが分かります。そして、時間が過ぎるに従ってセミナー行事など、このセミナー本来の目的に沿うような活動をして、後半になると緑が増えてくることで分かりますように、ノーベル賞関連の行事が増えていきます。

 

(松本)最初私たちは、世界17か国のべ24名の人が集まって参加したのですけれども、ここで初めて皆さんと会います。なかなかその文化の違いもありますし、英語を話せるレベルも違いますので、まずはお互いが仲良くなれるように、この一週間仲良く過ごせるようにという事で、カーリングなどのイベントをして仲をまず深め、その後にセミナーで自分たちの研究発表を行い、最後はノーベル賞関連の行事に参加して1週間を終えました。

これ以降は、その日ごとにどういう事をやったのかを具体的に説明させて頂きます。

 

◇ ストックホルム国際青年科学セミナー(SIYSS)派遣学生の滞在場所

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(松本)まず私たちはこの1週間どこで滞在したのかという事を、説明させて頂きます。

私たちはアフチャップマンという、現在はユースホステルになっている船のホテルに泊まりました。この場所は、市内の中心部に位置していまして、この宿舎からストックホルム宮殿を見ることができます。ここからこちら側を見た写真がこの様になりまして、美しい夜景を見ることができました。

 

1日目の内容

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◇最初にカーリングでアイスブレイク

 

(松本)まず1日目ですが、先ほど申し上げましたようにアイスブレイクという事で参加者交流のイベントが沢山ありました。私たちは団体競技であるカーリングを通してお互いが協力し合いながら、コミュニケーションを取り合いながらスポーツをする事で、お互いに打ち解け合うことができました。皆さん初めてでしたので、どの方もなかなか慣れることは出来なかったのですけれど、お互いにこうしたら良いんじゃないかとアドバイスをしながら交流することで仲を深めることができました。

 

◇STYSSの40周年記念行事

 

(松本)このセミナーはSIYSS、通称シースと言うのですけれど、このシースは今年40周年を迎えることになりました。それで記念行事と致しまして、40年間の過去の参加者がたくさん集まりまして、シースの歴史を振り返るような催しがありました。(今年度のSIYSSからは)24名の中6名の方が簡単ではありますが、自分たちの研究発表をする機会がありまして、その中の1人に春日さんが選ばれて、春日さんはこの様に自分の研究発表を簡単ではありますが紹介しました。

 

◇各国の文化の紹介

 

(松本)夕方になりますと、夕食の時間なのですけれども、この日はインターナショナルディナーという事で、特別なごはんを食べました。と言いますのも、この時はミートボールなどのスウェーデンの伝統的なごはんを食べながら17か国から若手の研究者がいますので、その出身国の文化をお互いに紹介し合うような催しをしました。

 

(松本)私たちも日本代表ということで、日本の文化を紹介するためにどういう事をすれば良いかお互いにまず話し合いました。それで、これから後で説明させて頂くのですけれど、倫理セミナーというものがあります。今年は食料問題というのを話し合う機会がありましたので、それに合わせまして私たちは「日本の食文化を紹介しよう」ということで、この様に日本食を紹介しました。現地では、日本食としてワカメや昆布などの海藻食などを実際に日本から持って行きまして、現地の方々に試食して頂きました。こちらが、その様子になります。

 

■ 2日目の内容

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◇企業見学と観光

 

(松本)2日目になりますと、こちらもまだ沢山の参加者交流をする機会がありました。午前中には、現地の大きな製薬企業であるアストラゼネカへの企業見学ならびに工場見学をすることができました。

 

(松本)12月のストックホルムは朝9時に日の出し、午後3時にはもう周りが暗くなるのですが、午後には市内を観光することができました。ストックホルム宮殿の周りを観光いたしました。また、少し時間がありましたので、皆で市内のカフェに入りました。それがその写真になります。

 

◇スウェーデンの食文化

 

(松本)夜はクリスマスディナーということで、12月24日・25日、スウェーデンで一般的に食べられる夕食を私たちは体験することができました。こちらがその写真になります。少し分かり難いのではありますが、魚とか肉などをたくさん食べる、あまり野菜は食べないというのがスウェーデンでの一般的なクリスマスの食文化だそうです。

 

■ 3日目の内容

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◇バス観光と研究所見学

 

(松本)3日目には、一部バス観光、研究所見学、そして大隅先生のノーベルレクチャーを受けました。午前中は市内をバスで1時間ほど回りました。こちらは、一度バスから降りて高台にて集合で撮った写真になります。そしてバス観光が終わりました後、スウェーデンで有名なカロリンスカ研究所の中を見学させて頂くことができました。これはその写真で、現地の先生がどういう研究をやっているのか、具体的に説明して下さいました。

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◇大隅先生のノーベルレクチャーとノーベルレセプション

 

(松本)その後、午後からは大隅先生のノーベルレクチャーを私たちは受けました。こちらは、大隅先生が登壇されるのを待っている時の写真になります。私たちは大隅先生のノーベルレクチャーを実際に受け、その後、ノーベルレセプションで大隅先生と交流することができました。ノーベルレセプションは立食形式になりまして、この様にすごく豪華なごはんを食べながら、大隅先生のノーベルレクチャーを聴いた人と交流することができました。こちらが、大隅先生と一緒に撮った写真になります。

 

(松本)また、現場ではスウェーデンの民族衣装を着た方々が沢山いらっしゃいまして、スウェーデンの文化に触れることもできました。

 

■ 4日目の内容

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◇ホールデン氏による記念講演

 

(春日)ここからは春日が説明させて頂きます。この4日目以降がいわゆるノーベル賞関連行事であるとか、セミナー関連行事が増えていきまして、かなり濃密なスケジュールになっています。この4日目なのですけれども、まず私たちは最初にノーベル賞受賞学者のホールデン氏によるレクチャーを受けました。

 

◇日本国大使館主催のレセプション

 

(春日)その後、私たちはSIYSS本体から抜けて日本国大使館が主催している大隅先生のためのレセプションに参加しました。こちらはホテルの一室で行われたのですが、部屋を見て分かる通りかなり豪華で、ここで大隅先生が簡単なスピーチをされて、その後は参加者の方々と大隅先生が交流する時間がありました。

 

◇大隅先生からのアドバイス

 

(春日)このタイミングで私たちも大隅先生とお話しすることができまして、ただ大隅先生も凄くお忙しそうだったので、私たちから1つずつ聞きたい事があるのでアドバイスして頂けませんかと、お願いしました。

 

(春日)僕の方は、大隅先生のノーベルレクチャーで研究成果を発表する際に共同研究者の方の名前を必ず出してらっしゃったので、「一緒に研究していく上で特に気を付けている事はありますか?」とお聞きしました。大隅先生は「やはり若いうちから研究者の仲間を見つけて、その仲間を大切にしながら研究をしないとダメだよ」という風におっしゃいました。僕は23才なのですけれども、そうすると今のうちから早く見つけて大事にしていかないといけないなと感じました。

 

(松本)私の方からは、大隅先生に1つ質問をさせて頂きました。私は先ほど自己紹介の時に申し上げましたように、将来研究者を目指しています。その際には自分の研究テーマを持つ必要があるのですけれども、大隅先生には「具体的にどうすれば、良い研究テーマを見つけることができるのか? どうすれば良い研究を行うことができるのか?」という、少し漠然ではありますが、質問させて頂きました。

 

(松本)大隅先生は少し戸惑った様子で、少し考えから答えられたのですけれども、「大事なのは、長期的に見ることだ」と、明解におっしゃって頂けました。どうしても実験をしていると、今取り組んでいるプロジェクトの結果を考えてしまいがちでが、それも大事だけれども、常に自分がやりたい事を長い目で見ることが、良い研究テーマを行うことにとって大事だと説明して頂き、私は非常に感銘を受けました。

 

(春日)その後、一緒にお写真を撮らせて頂いたりしたのですけれども、これが大使館主催のレセプションの様子になります。 

 

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◇倫理セミナー「食料問題」について

 

(春日)木曜日が凄く充実しておりまして、レクチャーの後こういう様にレセプションがあって、その後2つほどありまして、1つは倫理セミナーというもので、これもまたSIYSSの大きな行事なのですけれども、「科学の中の倫理観」に関して毎年異なったテーマで、世界中から集まった若手の科学者が話し合うという行事を行っています。

 

(春日)今年のテーマは「食に関する問題」で、具体的に言いますといわゆる「食料の不足」。発展途上国では食料が不足しているけれど、先進国では食料を廃棄しているという問題であるとか、現地ではベジタリアンの方が非常に多いんですけれども、環境に与える影響として畜産に必要なリソースであるとか、場所が非常に大きいので、畜産は止めるべきではないかとか。

 

(春日)もし、そうなってくると、政府は国民にベジタリアンになる事を強要できるのかとか、私たちが美味しい食事をとることは幸せの1つなので、そういった幸せを捨ててまで環境に尽くす事はできるのだろうかとか。そういった事を未来に対する責任も含めて話し合いました。参加者の方々は若い方が多いのですけれども、それぞれ自分の意見を持っていて、凄く良いディスカッションができたのではないかと思っています。

 

◇晩餐会の準備

 

(春日)その後、晩餐会の準備なのですけれども、やはり晩餐会というのはフォーマルな場所で、例えばテーブルマナーであるとか、晩餐会の後にダンスをするシーンもありますので、そういった部分について現地のコーディネーターの方が指導して下さる時間もありました。

 

(春日)KTH R1の場所なのですが、KTHという昔の原子炉を解体した跡をダンスホールとして使っています。これがダンスレッスンの様子なのですけれども、学生どうしが踊っていますが、良く見てもらったら分かる様に、これはSIYSSの問題で男女比が非常に偏っていて男同士でダンスをしています。こういう感じで参加者同士和気あいあいと色んな事をして交流しながら過ごしました。

 

■ 5日目の内容

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◇現地の高校生に研究発表

 

(春日)この様な準備を終わった後、5日目がSIYSSの本体とも言える現地の高校生に向けての発表という時間になります。これが実際の発表会場の様子になるのですけれど、この場所は凄くスタイリッシュな建物で、トータルで言うと1600名程度の現地高校生に向けて研究発表とポスター発表を行いました。

 

(春日)発表時間は5分と質疑応答2分なのですけれども、発表が終わり次第すぐにポスター発表に移って、ポスター発表は5時間程度ありました。5時間くらいずっと現地の高校生と研究について話し合うという時間でした。基本的に科学に興味を持っている高校生がたくさん来るので、常に質問が来て答えるという、そういった濃密な時間を過ごすことができました。

 

(春日)こちらがポスター発表しているそれぞれの様子となります。自分の方は教材の開発だったので、自分で作った教材を現地に持って行って、実演してフィードバックをもらうという事もやりました。このセミナーの次の日がノーベル賞の授賞式と晩餐会になります。

 

■ 6日目の内容

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◇ノーベル賞授賞式

 

(春日)6日目のスケジュールですが、午前中はドレスアップの時間にとられています。女性などはドレスを着たり髪型を整えたりするのに時間がかかりますし、男性もタキシードを着たりしますので。松本さんはタキシードで、自分は、羽織袴を着て行きました。こちらの方がSIYSSのコーディネーターのマリアンさんで、一番密接にお世話をして下さった方です。

 

(春日)こちらが授賞式会場の様子です。実際に自分が座っていた席から撮った写真で、いい席から臨場感のある様子を見られたと思います。こちらからメダル授与の瞬間も良く見えました。すごく印象深いものでした。やはり現地での生演奏であるとか、実際にスピーチをする様子や、それを聞いている大隅先生の様子であるとか、そういったものを見ていると、感慨深いものがありました。

 

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◇授賞式後の晩餐会

 

(春日)授賞式が終わった後、移動しまして、晩餐会があります。これが実際の晩餐会の様子になるのですけれども、シティーホールという非常に大きな建物の中にテーブルを並べて、ここで晩餐会を行います。晩餐会の中では、例えばイベントとして音楽と劇をからめた催し物ですとか、後はノーベル賞受賞者の方々のスピーチであるとか、そういったものがあります。

 

(春日)こちらが料理の一例なのですけれども、やはり手の込んだ凄く美味しい料理がでてきました。晩餐会後は、こちらの階段を上って行きまして舞踏会というものもあります。晩餐会が終わった後、丁度いらっしゃったので大使館の方と一緒に写真を撮らせて頂いたりしました。

 

総括

 

◇春日貴章さん

 

(春日)最後に総括としましては、やはり僕としては、ノーベル賞受賞者の方々との交流であっとりか、そういう事で凄くインパクトを受けたという事もあるのですが、現地で一番長い時間を過ごした参加者の方々との交流を通して考えさせられる部分がすごく多くて、僕たちは(春日さん)23才、(松本さん)24才といった様に、参加者の中では一番高齢の方だったのですけれども、他の国の参加者の人達はみなすごく自分の研究や自分の活動に自信を持っていて、接していて彼らが自分よりも年下であるとほとんど思わなかったくらいでした。本当に1人の人間として自立しているなという風に感じました。その中で特に、僕たちは日本にいるとどうしても自分は学生であるという意識が強いのですけれども、彼らは、自分たちは若い科学者であるという意識を非常に持って活動に取り組んでいると感じました。やはり自分も、自分の研究について一番自分が良く知っていなければならないと思ったので、来年からは基礎の研究できっと苦労をすると思いますけれども、そういった意識を持って研究に取り組んでいきたいなと思いました。

 

◇松本明宏さん

 

(松本)私の方からの総括としましては、私は先ほどセミナーに参加しようと思った理由としては、科学がいかに楽しいかということを実感したいという事がありました。私はこのセミナーを通して、科学の楽しさというのは、科学を通して人と人とが繋がれる、そういうツールに科学はなり得るという事を、私は非常に実感として感じることができました。と言いますのも、このセミナーに参加した人は、南アフリカやロシア、アメリカ、ヨーロッパの国々、シンガポール、韓国、中国など、私が一度も会ったことがない、その国の事情を全く知らない人がたくさんいました。その様な人とは、どういう内容を話せば良いのか、どういったトピックでその人たちと関わって行けば良いのか、最初は分かりませんでした。ですが、皆さん共通点がありまして、それは皆科学が好きだったという事です。そうなると、お互いにどういう研究をやっているのかという事を話し合ったり、その研究は本当に意義があるのかという少し踏み込んだ議論までもすることができました。私たちは科学という共通の話題を通して、お互いに仲を深めることができました。芸術や音楽というのは人と人とが繋がり分かり合える1つの文化なのですけれど、科学も人と人とが繋がれる文化の1つだという実体験をしました。私はこれを将来の学生に伝えたいなと思います。

 

(松本)以上で、報告会を終わります。ありがとうございました。

 

記者による質疑応答

 

(化学工業日報)大隅先生にたぶん初めてお二人ともお会いしたと思うのですが、短い時間だったと思うのですが、どんな印象を受けられましたでしょうか? 一応、1つずつ質問をして、ちゃんと投げかけたのが戻ってきていると思うのですが、大隅先生に対しての印象を、それぞれお聞かせ下さい。

 

(春日)そうですね。やはり最初に話をさせて頂くときにすごく緊張していたのですけれども、最初に「お願いしてもいいですか」という風に言った時に、学生に対しても気さくに応じて下さって、すごく人柄が良い方なんだなと感じました。後は授賞式の時の様子ですが、右上の写真になるのですが、これはそれぞれの受賞者について説明している時なのですが、大隅先生以外の方はわりと自由に聞いていらっしゃるのですが、大隅先生は姿勢が良かったというか、すごく真摯に聞いていらっしゃって、そういった意味でも色々な事に真摯に向き合っていらっしゃる方なのかなと感じました。

 

(松本)こちらも春日さんと少し被るのですが、私は初めて大隅先生とお会いして、すごく人を大切にされているのだなと思いました。と言いますのも、大隅先生を初めて見たのは、ノーベル賞記念講演ですが、その時の印象として、大隅先生は自分の研究のこれまでの流れを重要なデータをスライドで示しながら説明していましたが、大隅先生は「この実験は、この先生と一緒に共同してやったんだよ」「この実験は、あの時のあの学生がやってくれたんだよ」と協力してくれたコラボレーターの方に感謝をされていました。大隅先生は、この研究は誰かの協力の下でちゃんとできたのだという事をしっかりと表明されていて、私はすごく人を大切にされている方だなと感じました。

 

(四国新聞)お二人ともご報告をありがとうございました。私は春日さんの地元の香川の地方紙ということで、春日さんにお聞きしたいのですが、大隅先生と実際に言葉を交わした場面は、日本大使館主催のレセプション会場でしょうか。

 

(春日)はい、そうです。レセプションの一場面です。

 

(四国新聞)その時の事をもう一度詳しくお話し頂けますか。

 

(春日)こちらがそのレセプション会場の様子ですが、スピーチの後全員で談笑するという時間になり、すぐに大隅先生の周りに人がたくさん集まって行きまして、忙しそうにされていたのですけれど、

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[画像提供:国際科学技術財団]

 

 (春日)折角の機会なので私たち二人も一緒に並んでお話しをさせて頂く順番が来た時に、それぞれ1つずつどうしてもお聞きしたい事があるのでよろしいですかと話しかけて、僕と松本さんから質問をしたのですがとても気さくに応じてお話しをして下さいました。

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 [画像提供:国際科学技術財団]

 

(四国新聞)授賞式の際は様子を見て、ご自身として感慨深いものがあったとの事ですが、今後、ご自身の研究に大隅先生との交流を含めてこういうセミナーに派遣されたことは生かせそうですか?

 

(春日)大隅先生はレクチャーの中で誰よりも長く顕微鏡を覗いていたとおっしゃっていて、僕は来年材料系の研究室に行きますが、そういった所はやはり地道な研究の積み重ねで成果を出していく世界だと思うので、そういう研究の積み重ねがこういう結果にもしかしたら結びつくかもしれないという事が見えたのが、モチベーションとしてすごく大きかったです。後は、やはり他の参加者との交流に関しても自分の研究を見つめ直す切っ掛けになりました。

 

(四国新聞)最後に、授賞式を袴姿で臨まれたんですが、その思いは何かありますか?

 

(春日)このSIYSSというプログラム自体が文化交流も1つの目的としているので、伝統衣装もウェルカムという話でしたので、せっかく日本はフォーマルな場所に着て行けるこういう服があるので、それならばと着て行きました。

 

(四国新聞)袴はお持ちでいらっしゃったのですか?

 

(春日)いえ、今回はレンタルです。

 

(読売新聞)お疲れ様でした。最初の方で日本食を試食してもらったという話があったのですが、ワカメや昆布を選んだ理由と、周りの反応は如何でしたか?

 

(松本)ワカメ、昆布を選んだ理由としては、これらは日本や韓国や中国などの、そういう国々しかほとんど食べない、ヨーロッパやアメリカはこういう物をあまり食べないという事がまず私たちは面白いなと思いました。折角なので、僕たち日本人はワカメなどは味噌汁などでいつも食べる物なので、そういう物を海外の人にも食べてもらいたいと思い、試食してもらいました。反応としましては、賛否両論ありましたけれども、全員に1回試食して頂いて、初めて食べて美味しいという方もいれば、特に昆布などは食感が好みではないという人もいて、国ごとの食文化もありますし、色々な意見がありました。

 

(春日)今回、先ほどの倫理セミナーの話にもありましたが、畜産が環境に対するダメージが大きいという話が事前に配られてきた資料の中にありまして、僕たちとしてはそういった議論を深めるようなヒントが与えられたらいいなかと思って、これも現地では賛否両論がありましたが「イナゴの佃煮」を日本の郷土料理として持って行きました。昆虫食というのが蛋白源としてある程度注目を集めているという話を聞きましたので、もしかしたらセミナーの中で誰かが言うかもしれないと思い、話に出す以上は食べた経験がある方が深い議論ができるのではないかなと思ったので、問題提起としてこういう物もあるとして出しました。

 

(読売新聞)「イナゴの佃煮」を持って行って試食してもらったのでしょうか?

 

(松本)これが丁度、割りばしの先に「イナゴの佃煮」が刺さっていて、食べようか食べまいか少し悩んでいる様な写真です。結局は食べて頂いて、「意外と美味しい」という反応を頂きました。

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[発表スライドより: 国際科学技術財団提供]

 

(春日)コーディネーターの方からは凄く評判が良くて、こういった事をする学生は初めてだと感心されました。

 

(読売新聞)ワカメ・昆布は煮たものですか、生のものですか?

 

(松本)昆布は「都こんぶ」、海苔はスナック菓子みたいな物を出しました。

 

(読売新聞)大隅先生のノーベルレクチャーは、全員が行ったのでしょうか?

 

(松本)そうですね。このタイミングでのレクチャーは全員で行きました。

 

(読売新聞)大隅さんは日本人で単独受賞者という事で、他の参加者からは大隅先生の研究について何かコメントというのはありましたでしょうか?

 

(松本)同じシーンで他の参加者も写真を撮っていたりして、僕は居合わせなかったので大隅さんとどういう話をしていたのかは分からないのですが、他の参加者も嬉しいという事を言っていました。研究内容に関しては、バックグラウンドとしては高校を卒業して大学に入りたての人が沢山いましたので、大隅先生の研究内容の具体的なところまでは分からなかったという意見は多かったのですが、大隅先生はすごく謙虚な姿勢で研究に取り組まれているのを感じたと伝えてくれました。

 

(片瀬)いろんな国の若い研究者の卵の方々と交流されたという事ですが、科学に興味のある方々たちとの間なのでお話しが弾んだのではないかと思いますが、その中で、それぞれのご研究をバックグラウンドの違う方々に説明するところで苦労した部分というのは、どういう事がおありでしたでしょうか?

 

(春日)そうですね、僕の研究なのですけれども、教材の開発といっても情報系の知識がない方に口で説明しても、すごく難しかったりするんですよね。これは、このセミナーに参加する前から何回か経験していた事なので、今回はもう実物を持って行って「これだ」と見せると凄く分かってもらえるという様な、これまでの経験を踏まえてやはり実物を持って行った方が良く分かってもらえるという事は意識していました。

 

(松本)私に関しては、ご覧の通り、かなりマニアックな専門用語がたくさん出て来る内容でしたので、非常に説明に苦労しました。セミナーをする前にまず、他の国から集まった方とセミナーをコーディネートしている委員会の人達に一回説明して、ちゃんと分かってもらえるかというリハーサルをしました。そこで気付いた点としまして、自分が専門用語ではないと思っていたものが実は専門用語で、それが分からなかったということでビックリしたので、そこをかなり砕けた表現に直したのがまず1つ苦労した点です。

 

(松本)あともう1つ苦労した点としましては、私は免疫という非常に概念が難しいものをやっているのですけれども、その免疫という概念をそのまま専門用語を使って説明したら絶対に高校生には分からないと思うので、「比喩」を上手く使って表現しました。例えば「免疫というのは体の警察」「がんというのは悪者」、「免疫は、悪者を退治するために活動している」「どれが悪者か、悪者でないかを見分けて逮捕状を出す必要がある」「逮捕状をこの細胞に届けて、がんを退治するのだよ」と、上手く日常で使われるものに置き換えながら、自分の研究を高校生に説明しました。

 

(日刊工業新聞)お二人は、プライベートな旅行期間を除いて、こういう研究の一環で海外に行くというのは、今回が初めてなのでしょうか?

 

(春日)これまでに、学会発表という形で2回ほど国際学会での発表は経験しています。

 

(松本)私は研究では海外に行ったのは初めてなのですが、学部時代に大学のプログラムでオックスフォード大学に短期留学したり、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学というところに語学留学した経験はあります。

 

(日刊工業新聞)大隅先生とコミュニケーションされたという事ですが、他の受賞者の方に直接話を聞いたりしたのは今回ありましたでしょうか?

 

(松本)僕はないです。

 

(春日)一応、同じ空間に居るシーンというのは、全体のノーベルレセプションですとか、そういう機会はあったのですけれども、同じSIYSSのメンバーでもアメリカから参加している学生などが、かなりグイグイと行って、(他の受賞者が)常に囲まれている状況でした。

 

(日刊工業新聞)お二人が直接話をしたのは、受賞者では大隅先生だけなのですね。

 

(春日)そうです。

 

(科学新聞)今回、高校生ですとか参加者の方に研究をプレゼンされたと思いますが、国内でそういう研究を一般の方に発表されるのは、これまでにされてきたのでしょうか?

 

(春日)僕の開発しているのは教材ですので、科学体験イベント等で実際にやってもらって、フィードバックを得てという様なことはやっております。

 

(松本)私に関しては、専門の学会でしか自分の研究を発表した事はないのですけれども、今回の発表を通して、一般の専門外の人に対して発表するのも自分の研究を見直す意味では非常に有意義だなと思いましたので、来年以降、京大でも高校生に自分の研究を発表するチャンスがあり、大学に応募していますので、そういうものにチャレンジして、もっと専門外の人に発表するような経験をしてトレーニングしていきたいなと思っています。

 

(科学新聞)今回、海外の人達にプレゼンして、行く前と行く後で、こういう事を改善したらいいかなという事は何かありますか?

 

(春日)改善というのは、SIYSSのプログラムの間でしょうか?

 

(科学新聞)プログラムに行って、今までこういう風にやっていれば良いと思っていたけれども、例えばさっき松本さんが「専門用語ではないと思っていたのが、実は専門用語でそれを言い換えないといけなかった」という様なことがあったと思うのですが、今回の経験を生かして、例えば今後のアウトリーチも研究者として大事な仕事だと思いますので、そういうものに対する意識というのは、今回の経験で変わりましたか?

 

(春日)そうですね。僕の研究に関して言うのであれば、教材の開発なんですけれども、これは分かり易く説明するのは簡単なのですけれども、逆に噛み砕きすぎてしまうと、どこが新規性なのかという事が伝わり難くなってしまったりもします。ですので、その塩梅がすごく難しくて、そこは試行錯誤しながら、反応を探りながらやって行くという形になりました。

 

(松本)僕の方は春日さんと逆で、専門的過ぎることを如何に分かり易く伝えるかという、難しいところから簡単な方へ、如何に持って行くかという所が難しくて、私は苦労しました。実際に高校生とポスター発表をした後、ディスカッションをしたのですが、その時に何回も聞かれた質問として、「こういう疾患治療システムというのは、いつ実現するの?」とか、「これに欠点はないの?」とか、そういう臨床寄りのところまでも説明できたら、彼らの科学の好奇心をもっとくすぐれるかなと思いました。今後はそういう所も意識しながら発表できたらいいかなと思っております。

 

■ 取材後記

 

松本さん、春日さんとも、派遣学生として選ばれただけあって、とてもしっかりとした受け答えをされていました。お二人の現在のご研究の内容は違うタイプですが、こうした組み合わせで選んだ国際科学技術財団のセンスの良さを感じます。

私からは、科学コミュニケーションに関係する質問をさせて頂きましたが、春日さんの「実物を持って行き、実演して見せる」、松本さんの「専門的な内容を、日常的なものに喩えて説明する」という工夫は、「具体的にイメージできるようにすると、理解され易い」という共通性があると思います。私もサイエンスライターとして、一般読者に分かり易いように説明する方法(ある専門的な内容を噛み砕いて説明するとイメージし易くなる半面、今度はその本質から離れてしまう問題があり、喩え方の工夫が必要になる等)で日々試行錯誤しており、お二人のご経験談は実感としてよく分かります。